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番外編 2 タワマン事件簿
どんだけ僕らが優美ちゃんの事を好きだと思ってるの
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独身時代にあれこれあって、心理的ハードルを越えてのゴールインを迎えた。
俊希も生まれて慣れない子育てに四苦八苦しつつも、幸せ……という時に〝これ〟だ。
三人でいれば最強って思っていたけれど、二人のうちどっちかを攻められると脆くなると知った。
自分のウイークポイントも、しっかり把握しておかないと。
そして万が一何かがあった時のために、あらかじめ対策を考えておく。
〝もしも〟の事なんて考えたくもないけど、無防備なところをドンッとやられるよりずっといい。
……とはいえ、今回のこれは想像すらしていなかった。
災いってのは急にくるってホントだな。
「それで最近、ムスッとしてた?」
正樹に尋ねられ、私は苦笑いする。
「ポーカーフェイスしてたつもりなんだけどね。お見通しか」
「まーね。どんだけ僕らが優美ちゃんの事を好きだと思ってるの」
そう言って、正樹は私を抱き寄せてチュッとキスをした。
「……慎也も気づいてるよね」
彼に抱きつき、私は溜め息をつく。
「分かってるとは思うよ。でも、理由についてまではどうかな? 全部理解してフツーに振る舞ってるか、鈍感のほうか」
「ははっ、どっちにせよ、憎たらしー」
「うん、分かるよ。けど、あいつが〝結果〟を持ってきてからにしよう。それまで待てる?」
尋ねられ、私は「うん」と頷いた。
**
週末になり、俺はめっちゃ気乗りしないながら海に向かった。
優美はずっと機嫌が悪い。
多分、気づかれてる。
でも俺も、優美に理由を話そうにも〝中身〟がないもんだから説明のしようがない。
正体の分かっていない事で彼女を不安にさせたくなかった。
ただでさえ優美は、育児で疲れている。
その上で、子供も含め危機が降りかかるかもしれないと脅したくなかった。
車を運転してクルーザーを停めている場所まで向かいながら、俺は杉川さんに声を掛けられた時の事を思いだした。
『慎也さん』
エレベーターホールの前で立っていると、女性の声がした。
声がしたほうを見ると、先日パーティーで見た杉川美香さんがこっちに歩いてくるところだ。
美容系の会社で社長をやっているみたいだけど、五十二歳なのに二十代後半から三十代前半に見えるのは、バケモン……というのは褒め言葉として、シンプルに凄いと思う。
先日のパーティーで話を聞いた限り、アンチエイジングの化粧品やら、美容医療やらに相当金を掛けてるそうだ。
綺麗な女性は見ていて素敵だなと思うけれど、優美に置き換えてみると「いや、そこまで頑張らなくていいよな……」となった。
俺が彼女に魅力を感じているのは、内面の良さが第一だ。
それに加わってスタイル維持しようとする努力や、伴っての美があるから、外見は二の次になる。
まあ、杉川さんについては、本人の価値観だから口だしはしない。
『杉川さんも今お帰りですか?』
エレベーターを使う間の世間話だと思い、俺は応じる。
『そうなんです。でも着替えてからディナーに出かける予定です』
おーおー、華やかでいいですなー。
『素敵ですね。俺は外食も好きですが、自炊も好きなので今日もキッチンに立ちますよ』
そう言って包丁で食材を切るジェスチャーをすると、彼女が『まぁ』と目を見開いて反応する。
『そういえば慎也さんって料理男子なんですよね。素敵。奥さんはお料理されないんですか?』
出たよー。男が料理すると聞いたら、妻はしないのかって聞いてくるやつ。
家庭の問題だからどうでもいいだろうが。
そう思いつつ、ニッコリ笑って返事をする。
『妻は育児で大変なので、家政婦さんと協力して支えています』
『あら素敵ですね。奥さんの事を愛されているの、伝わってきます』
微笑む彼女の視線がねっとりしているのは、気のせいだろうか。
エレベーターのゴンドラは高層階にあって、まだ下りてこない。
『……それはそうと、慎也さん、ちょっと内緒話をいいです?』
そう言って杉川さんが非常階段のほうを指さす。
俊希も生まれて慣れない子育てに四苦八苦しつつも、幸せ……という時に〝これ〟だ。
三人でいれば最強って思っていたけれど、二人のうちどっちかを攻められると脆くなると知った。
自分のウイークポイントも、しっかり把握しておかないと。
そして万が一何かがあった時のために、あらかじめ対策を考えておく。
〝もしも〟の事なんて考えたくもないけど、無防備なところをドンッとやられるよりずっといい。
……とはいえ、今回のこれは想像すらしていなかった。
災いってのは急にくるってホントだな。
「それで最近、ムスッとしてた?」
正樹に尋ねられ、私は苦笑いする。
「ポーカーフェイスしてたつもりなんだけどね。お見通しか」
「まーね。どんだけ僕らが優美ちゃんの事を好きだと思ってるの」
そう言って、正樹は私を抱き寄せてチュッとキスをした。
「……慎也も気づいてるよね」
彼に抱きつき、私は溜め息をつく。
「分かってるとは思うよ。でも、理由についてまではどうかな? 全部理解してフツーに振る舞ってるか、鈍感のほうか」
「ははっ、どっちにせよ、憎たらしー」
「うん、分かるよ。けど、あいつが〝結果〟を持ってきてからにしよう。それまで待てる?」
尋ねられ、私は「うん」と頷いた。
**
週末になり、俺はめっちゃ気乗りしないながら海に向かった。
優美はずっと機嫌が悪い。
多分、気づかれてる。
でも俺も、優美に理由を話そうにも〝中身〟がないもんだから説明のしようがない。
正体の分かっていない事で彼女を不安にさせたくなかった。
ただでさえ優美は、育児で疲れている。
その上で、子供も含め危機が降りかかるかもしれないと脅したくなかった。
車を運転してクルーザーを停めている場所まで向かいながら、俺は杉川さんに声を掛けられた時の事を思いだした。
『慎也さん』
エレベーターホールの前で立っていると、女性の声がした。
声がしたほうを見ると、先日パーティーで見た杉川美香さんがこっちに歩いてくるところだ。
美容系の会社で社長をやっているみたいだけど、五十二歳なのに二十代後半から三十代前半に見えるのは、バケモン……というのは褒め言葉として、シンプルに凄いと思う。
先日のパーティーで話を聞いた限り、アンチエイジングの化粧品やら、美容医療やらに相当金を掛けてるそうだ。
綺麗な女性は見ていて素敵だなと思うけれど、優美に置き換えてみると「いや、そこまで頑張らなくていいよな……」となった。
俺が彼女に魅力を感じているのは、内面の良さが第一だ。
それに加わってスタイル維持しようとする努力や、伴っての美があるから、外見は二の次になる。
まあ、杉川さんについては、本人の価値観だから口だしはしない。
『杉川さんも今お帰りですか?』
エレベーターを使う間の世間話だと思い、俺は応じる。
『そうなんです。でも着替えてからディナーに出かける予定です』
おーおー、華やかでいいですなー。
『素敵ですね。俺は外食も好きですが、自炊も好きなので今日もキッチンに立ちますよ』
そう言って包丁で食材を切るジェスチャーをすると、彼女が『まぁ』と目を見開いて反応する。
『そういえば慎也さんって料理男子なんですよね。素敵。奥さんはお料理されないんですか?』
出たよー。男が料理すると聞いたら、妻はしないのかって聞いてくるやつ。
家庭の問題だからどうでもいいだろうが。
そう思いつつ、ニッコリ笑って返事をする。
『妻は育児で大変なので、家政婦さんと協力して支えています』
『あら素敵ですね。奥さんの事を愛されているの、伝わってきます』
微笑む彼女の視線がねっとりしているのは、気のせいだろうか。
エレベーターのゴンドラは高層階にあって、まだ下りてこない。
『……それはそうと、慎也さん、ちょっと内緒話をいいです?』
そう言って杉川さんが非常階段のほうを指さす。
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