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番外編 2 タワマン事件簿
緩衝材
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「そうですか、じゃあ俺も先にプールに行こうかな」
おや。
「別にいいですけど、無理に合わせなくていいですからね?」
「俺、結構さみしがりなんです。一人暮らしですし、本当は人が大勢いる場所にいると安らげるタイプっていうか」
「あー、そういうタイプってありますよね。休日に出かけてワイワイしたほうが休んだっていう気持ちになる人」
「そうそう」
私はポジティブで明るくて社交的で、陽キャ! って思われがちだ。
でもどっちかというと、キャンプでBBQとかフェス! とかより、一人の時間をじっくり味わうと「贅沢だな~」と感じるタイプだったりする。
三笠さんは人といるほうが安らぐタイプなんだと理解すると、それ以上の詮索はしないようにしておいた。
何でもかんでも「この人私に気がある?」って警戒すると疲れちゃいそうだし。
つらい目に遭った事があるからといって、会う人全員を疑うのは違う。
「じゃ、プール行きましょうか」
「はい」
私は三笠さんと連れだって、プールへ向かう。
勿論、更衣室は別だし変な事にもならない。お互い水着に着替えて、ひたすら泳ぐだけ。
時々休憩した時に何気ない話をして、一時間ぐらいしたあと私は家に戻った。
**
なるべく体を動かして、モヤモヤを発散させようと思ったけれど、それでコトが解決する訳じゃない。
「ねぇ、正樹」
「ん?」
別の日、慎也がご飯を作ってくれている間、私は彼の死角から正樹をちょいちょいと呼びだして、別室で話をする。
「あのね、慎也が先日の美香さんから〝お誘い〟を受けて、週末にクルージングに行くみたいなの」
「はぁ?」
正樹は笑い交じりに言い、そのあと「ふーん?」と言いながら腕を組み何か考える。
私は話を聞いた当時の様子を話す。
「私が知ってるってなると、立ち聞きしちゃったのバレるから、なるべく避けたいんだけど……。お願いだから、変な事にならないように探りを入れてくれない? 慎也は『行く』って言ったみたいだから、無理に引き留めるのも不自然だし」
そう。彼は「行く」と結論を出した。
迷って濁したなら、私があとから予定を入れるとかして阻止できるけれど、慎也はもう決めてしまった。
そして彼は人と約束をしたら、よほどの事がないかぎり反故にはしない。
本当なら、真正面からズバンと「聞いちゃったんだけど」と突撃したい。
けど、色んな事を考えた上で、俊希のために大喧嘩をしたくないと結論づけた。
だから、正樹に緩衝材になってもらおうと思った。
そのために私たちは、三人の夫婦という形を取ったんだから。
「うん、分かった。僕がうまくやっておくから、安心していいよ」
正樹は私の頭をポンポンと撫で、ついでにギューッと抱き締める。
「あと、僕思うけどね。九十九パー以上の確率で大丈夫だと思うけど」
「……ホント?」
少しいじけた私の問いに、正樹はにっこり笑う。
「あのさぁ、僕がどんな想いで優美ちゃんと慎也の結婚式を見たと思ってるの? 慎也がいなかったら、僕が優美ちゃんと籍を入れてたよ?」
言われて、自分が正樹に残酷な事を言った自覚をする。
けれど正樹は私の気持ちを察して、「そうじゃないよ」と首を横に振った。
「慎也が自分の立ち位置の重要さを理解してない訳がない、って事。本気で慎也が優美ちゃんを裏切るような事があったら、僕マジであいつぶん殴って縁切って、離婚させて僕が優美ちゃんの夫になるよ」
正樹は笑顔だけれど、本気だとすぐ分かった。
「だから、不安だろうけどもうちょっと様子を見てみて」
「うん」
「僕はあいつを信じてる」
「……うん。私も信じてる」
一人で抱え込んでいた事を正樹に打ち明け、なんだかフッと肩の力が抜けた。
「確かに、相談なしに一人で行動しようとするのは頂けないけどね」
「それな」
正樹から同意を得られて、私は笑顔になる。
何だかんだで、私も女性だ。
すぐ「こうしたら解決できる」じゃなくて、まず誰かに共感してもらって自分を安堵させたい気持ちがある。
おや。
「別にいいですけど、無理に合わせなくていいですからね?」
「俺、結構さみしがりなんです。一人暮らしですし、本当は人が大勢いる場所にいると安らげるタイプっていうか」
「あー、そういうタイプってありますよね。休日に出かけてワイワイしたほうが休んだっていう気持ちになる人」
「そうそう」
私はポジティブで明るくて社交的で、陽キャ! って思われがちだ。
でもどっちかというと、キャンプでBBQとかフェス! とかより、一人の時間をじっくり味わうと「贅沢だな~」と感じるタイプだったりする。
三笠さんは人といるほうが安らぐタイプなんだと理解すると、それ以上の詮索はしないようにしておいた。
何でもかんでも「この人私に気がある?」って警戒すると疲れちゃいそうだし。
つらい目に遭った事があるからといって、会う人全員を疑うのは違う。
「じゃ、プール行きましょうか」
「はい」
私は三笠さんと連れだって、プールへ向かう。
勿論、更衣室は別だし変な事にもならない。お互い水着に着替えて、ひたすら泳ぐだけ。
時々休憩した時に何気ない話をして、一時間ぐらいしたあと私は家に戻った。
**
なるべく体を動かして、モヤモヤを発散させようと思ったけれど、それでコトが解決する訳じゃない。
「ねぇ、正樹」
「ん?」
別の日、慎也がご飯を作ってくれている間、私は彼の死角から正樹をちょいちょいと呼びだして、別室で話をする。
「あのね、慎也が先日の美香さんから〝お誘い〟を受けて、週末にクルージングに行くみたいなの」
「はぁ?」
正樹は笑い交じりに言い、そのあと「ふーん?」と言いながら腕を組み何か考える。
私は話を聞いた当時の様子を話す。
「私が知ってるってなると、立ち聞きしちゃったのバレるから、なるべく避けたいんだけど……。お願いだから、変な事にならないように探りを入れてくれない? 慎也は『行く』って言ったみたいだから、無理に引き留めるのも不自然だし」
そう。彼は「行く」と結論を出した。
迷って濁したなら、私があとから予定を入れるとかして阻止できるけれど、慎也はもう決めてしまった。
そして彼は人と約束をしたら、よほどの事がないかぎり反故にはしない。
本当なら、真正面からズバンと「聞いちゃったんだけど」と突撃したい。
けど、色んな事を考えた上で、俊希のために大喧嘩をしたくないと結論づけた。
だから、正樹に緩衝材になってもらおうと思った。
そのために私たちは、三人の夫婦という形を取ったんだから。
「うん、分かった。僕がうまくやっておくから、安心していいよ」
正樹は私の頭をポンポンと撫で、ついでにギューッと抱き締める。
「あと、僕思うけどね。九十九パー以上の確率で大丈夫だと思うけど」
「……ホント?」
少しいじけた私の問いに、正樹はにっこり笑う。
「あのさぁ、僕がどんな想いで優美ちゃんと慎也の結婚式を見たと思ってるの? 慎也がいなかったら、僕が優美ちゃんと籍を入れてたよ?」
言われて、自分が正樹に残酷な事を言った自覚をする。
けれど正樹は私の気持ちを察して、「そうじゃないよ」と首を横に振った。
「慎也が自分の立ち位置の重要さを理解してない訳がない、って事。本気で慎也が優美ちゃんを裏切るような事があったら、僕マジであいつぶん殴って縁切って、離婚させて僕が優美ちゃんの夫になるよ」
正樹は笑顔だけれど、本気だとすぐ分かった。
「だから、不安だろうけどもうちょっと様子を見てみて」
「うん」
「僕はあいつを信じてる」
「……うん。私も信じてる」
一人で抱え込んでいた事を正樹に打ち明け、なんだかフッと肩の力が抜けた。
「確かに、相談なしに一人で行動しようとするのは頂けないけどね」
「それな」
正樹から同意を得られて、私は笑顔になる。
何だかんだで、私も女性だ。
すぐ「こうしたら解決できる」じゃなくて、まず誰かに共感してもらって自分を安堵させたい気持ちがある。
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