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番外編 2 タワマン事件簿

つっかれたー!

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 あからさまな奴ならハッキリ言わないとだけど、許容範囲ならあえて言う事もないのかな。

 空気を悪くして目立つのは嫌だし。

 一方で文香は、美容に興味のありそうな人に囲まれていた。
 こちらもビジネスモードは大得意なので、いつもの雰囲気は引っ込めてそつなく対応している。

 ……そして和人くんは相変わらず空気になって、ひたすら立食してる。
 良かったね、大好きなえんがわのお寿司あって……。

 ちなみに先日会ったさやかさんは、文香の話を聞く集団に混じっている。



 そのあと、特にこれといった出来事はなく、パーティーは開始時間の十二時から二時間ぐらいでお開きとなった。



**



「つっかれたー!」

 最上階の我が家に帰ってまず吠えたのは、文香さまだ。
 彼女は自分の家のように大輝くんを抱っこして中に入り、リビングのソファに落ち着く。

「慣れない事すると疲れるね。文香、お茶とコーヒーどっちがいい? 勿論、カフェインレス」

 座っちゃうとお尻に根っこが生えそうなので、座る前にお客さんに飲み物を出す。

 パーティーでも色々口にしたけれど、やっぱり立食ってきちんと飲み食いした気持ちにならない。
 私は食べる時はしっかり楽しみたいタイプだ。

 でもとりあえず適当に食べてお腹は多少膨れているので、温かい飲み物でも飲んでまったりしたいと思っていた。

「じゃあ、私お茶」

「りょーかい」

 広々としたアイランドキッチンに向かおうとすると、正樹が「いいよ、僕がやる」と私をやんわりと制止する。

「正樹も疲れたでしょ? 私は隅っこでちょっと話してただけだから……、んっ」

 彼の腕をくぐってキッチンに向かおうとすると、抱き締められてチュッとキスをされた。

「お茶担当は僕。でしょ?」

 しっかり抱き込まれた状態で顔を覗き込まれ、結婚した今でも彼にときめいてしまう。

 うう……、顔がいいな。

「……分かった。ありがとう」

 拳でトン、と彼の胸板を叩くと、正樹はニッコリ笑った。

「相変わらず仲いいねー」

 ソファに向かうと、くつろいでいる文香がスマホを手にしながら言う。

「何言ってんの。文香と和人くんだって仲いいじゃん。私たちよりずっと長い付き合いなんでしょ?」

「そりゃそうだけどさ。もう何て言うか、空気っていうか」

 和人くんは子供スペースで俊希と大輝くんを遊ばせてくれている。

「『側にいるのが当たり前』って思えるぐらいの存在って、逆に凄いと思うけど。普通なら意識しちゃうだろ?」

 座った慎也が言い、素直じゃない文香を見て「ん?」と眉を上げる。

「そうだけど……。慎也は優美の事、どうなの?」

 文香は色恋関係で、自分が話題になるのを好まない。強烈な照れ屋だからだ。
 だからいつも自分に矛先が向けられると、スルッと話題をかわす。

 それも私たちは慣れっこだ。

「んー、好きな女性ひとだからな。毎日優美を見てはにやけてるけど……」

 おい、ちょっと照れるから人の前でやめ……。

「まぁ、確かに会社で意識して見ていた時と比べたら、『俺のものになった』っていう安心感はあるよな。少なくとも他の男にとられる可能性はなくなった訳だから」

 慎也がサラリと独占欲を示し、私は恥ずかしくなって窓の向こうを見る。

 人がいる前でそんな事言わなくていいのに……。

 ……こう言ったら、文香が「他人行儀すぎる。ノロケぐらい幾らでも聞いてやる」って怒りそうだけど。

「相変わらず溺愛だねー。そういう関係を維持できてるの、羨ましいわ」

「僕、知ってるけどー?」

 飲み物を用意し終えた正樹が、トレーにマグカップを置いて運んでくる。
 トン、トン……とテーブルの上にそれぞれのカップを置きながら、正樹は文香を見て意地悪に笑った。

「そうは言ってても、文香ちゃんって家に帰ったら甘ったれで可愛くなるんあ”んっ!」

 正樹が文香をからかおうとした途端、彼女はリモコンの先っぽで彼の喉元をグッと押した。

 良い子は危険だから真似しないようにね!

 しばらく正樹がゲホゲホと咳き込んでいるのを、文香は冷ややかな目で見ている。

 相変わらずの氷の女王っぷりで……。
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