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番外編 2 タワマン事件簿

美香さん

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「確かに久賀城さんの仰る通りですね。……お恥ずかしい話、出会った頃より夫がかなりぽっちゃりしてしまったので、『痩せてほしいな』と思ってしまいました。見栄より仕事が大事なのは、分かっていたつもりなのに」

 恥ずかしそうに笑う清花さんの肩を、私はポンポンと叩く。

「気持ちは分かりますよ。きっと付き合いで集まるとかもあると思います。『第一印象がものを言う』とも言いますし、気にする事が悪とは言えません」

 フォローすると、彼女は安心したように笑う。

 逆に夫の圭さんは、『第一印象』を気にして少し意識的にお腹を引っ込めた。
 私はそれに気づき、さらにフォローする。

「第一印象って、体型や顔の美醜がすべてじゃないですからね? そんなものより、明るい笑顔や全身から発するオーラとか、そういうものを言うんだと思います。だって皆年を取ってある程度体型が緩むでしょう? なのに『外見がすべて、体型重視なんて意味がない』って頭のいい人は分かっているはずです。実際、五十代、六十代の重役さん達が、全員引き締まった体型をしているかと言われたら、違います。その人の体型や顔面偏差値と仕事をする訳じゃないですから」

「確かに!」

 三笠さんが明るく言って笑う。

「だから、すべては自分自身の問題です。体型がどうのより、成宮さんは明るくて話していて楽しい気持ちにさせてくれる人です。それでいいじゃないですか」

「ありがとうございます」

 彼は私に向かってシャンパングラスを掲げ、私も微笑んで乾杯する。
 会話が一段落ついたあと、清花さんが頷く。

「さすが久賀城さんの奥さんね。あんなに素敵な御曹司が虜になるのが分かるわ」

「あはは、勿体ないお言葉です」

 愛想笑いをすると、彼女がスッと顔を近づけて小声で言ってくる。

「美香さん、綺麗でしょう? このマンションの高階層女性陣のリーダー格なの。旦那さんは何をやっているのか分からないけど、美香さんは美容系の会社の社長をしているんですって」

 くだんの美香さんの話題になり、私も少し声量を抑えて「そうですか」と頷く。

「彼女、幾つに見える?」

 尋ねられ、私は濃厚な葡萄ジュースを飲みながらさり気なくそちらを見る。
 第一印象では三十代後半から四十代前半かな? と思ったので、少し若めに設定しておく。

「見た目、二十代後半といっても通じますけど……、三十半ばとかですか?」

 私がそういうと、清花さんは首を横に振る。

「五十二歳」

「えっ……」

 聞かされた年齢に、私の口から素の声が漏れた。

 うっそぉ……。

 さすがにその数字は出てこなかった。

「〝綺麗〟でしょう? 美白も凄いし、プロポーションの維持も凄い。シワもシミもタルミもなし。エステや美容整形に行ってるとしても、すっごいのよ……」

「はぁぁー……」

 外部的な補助があるにせよ、あそこまでキープしてるのは凄いなぁ。
 私がポカンと口を開けて呆けていると、清花さんはさらに囁いてくる。

「けど夫婦関係は冷め切っているみたいで、お互い見て見ぬフリで愛人がいるの」

 おっと……。

 話がの雲行きが怪しくなり、私は再度清花さんを見る。

「美香さんはお気に入りの若手起業家とか、前途有望な大学生とかのパトロン状態ね。その代わりに……、…………だけど」

 コソコソッと言われたのは、平たく言ってママ活みたいなものだ。

「美香さん、時々久賀城さんを見かけて気になっていたみたい」

「……というと……」

 ドキッとして彼女同様に小声で聞くと、清花さんはしたり顔で頷いた。

「若くて美形でいい体してるから、狙ってるか分からないわよ」

 んんーっ!?

 私は無言で目を見開き、飲み物を飲みながらパーティー会場を見る……ふりをして、慎也と正樹を見た。
 二人とも俊希を見てくれているけれど、彼らのもとに奥様方が集まっているのは相変わらずだ。

「とりあえず愛想良くしとけ」っていう顔はしているけれど、接待顔なのは変わりない。

 ……とりあえず、デレデレしてなくて良かった。

 お。人垣越しに二人と目が合った。
「助けて」みたいな顔をしているけど、……まー、たまにはマンションの住人と交流するのもいいんじゃない? 私とはいつも家でたっぷり話している訳だし。

 そう思いつつ件の美香さんを見ると、「やだわぁ~」と笑いながら慎也の胸元をそっと押していた。

 ……なるほど、さりげない系ボディタッチ。
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