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番外編 1

スコーンとナンパ 2

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「ご馳走してくれるおじさんとかいたなぁ。お酒奢ってくれるお兄さんもいたし。仲良く飲んで、そのあとを誘われた事はあったけど、基本的に『ノー』をハッキリいったら割とあっさり引き下がるかな?」

「あぶねー」

 キッチンで片付けをしながら、慎也が低い声で言う。

「私たちもアホじゃないから、大きい通りに面したお店を選ぶとか、あまり遅くなりすぎないとか、色々気をつけてはいたよ。私はともかく文香は和人くんがいるから、絶対に変な目に遭ったら駄目だって思ってたし」

 そこまで言って、不意に気になった。

「ねぇ、二人ってナンパした事ある? なくない?」

 尋ねると、二人は少し沈黙してから、そろって返事をする。

「ないな」
「ないね」

「だろうなぁ……。いい男って入れ食い状態だから、自分からはいかないよね。世の中そんなもんだ」

 ぼやいた時、キッチンでの作業が終わった慎也が戻ってくる。
 そして私の耳元で囁いた。

「お姉さん、美人だね。これからお茶しない?」
「んっふふふふ……」

 振り向くと、楽しそうに笑った彼と目が合う。

「どこでお茶するの? 私、こう見えて舌が肥えてるんだけど」

 冗談めかして言うと、彼はにっこり笑った。

「俺が作ったスコーンと、ダージリンを一緒に」
「スコーン!」

 今の〝ごっこ〟を忘れ、私はバッとキッチンを振り向く。

「今オーブンに入れたばっかり。もうちょっと待ってな」

 笑いながら慎也はポンポンと私の頭を撫で、一人掛けのソファに座ってスマホをチェックする。

「ねぇ、慎也。僕もナンパした事ないから分からないんだけど、多分『お茶しない?』って声かけ、もう昭和で絶滅してると思う」

 急に正樹が突っ込んできた。
 それは私も思っていたので、無言で肩を震わせる。

「えっ? マジ? 俺もナンパの仕方分かんないから、こないだテレビのコントでやってたの真似したんだけど」

「恵まれた男たちの会話だなぁ……。きっとナンパに一生懸命になってる男性たちが悔しがると思うよ」

 他人事で言うと、慎也は「わかんね」と笑ってペロッと舌を出した。

「ねぇ、優美ちゃん」
「ん?」

「前屈みになって」
「いいけど、苦しくなるよ?」

「それが望み」
「正樹の望みは分かってるよ……。変態だね……」

 呟きながら私は前屈みになり、正樹の顔面の上に胸をのしっと置く。

 しばし、胸元からスゥーッ、ハァーッと呼吸音が聞こえ、何とも言えない気持ちになる。

「いいなぁ、それ」

 慎也がポツリと本音を漏らすけれど、私はチベットスナギツネみたいな顔をしている。

「はいはい、おっぱいタイム終わり」





 やがてスコーンが焼き上がり、綺麗に腹割れ(というらしい)したプロ顔負けのスコーンを、クロテッドクリームやジャム、バターでいただく。

「んんふぃ」

 温かいスコーンを手で割って、ペタペタとジャムを塗って頬張り、目を細める。

「そういえば、アボットさん家で頂いたアフターヌーンティーも美味しかったね」

「今度ロンドン行ったら、一流ホテルのアフターヌーンティーでも体験するか」
「ホント!? やったね!」

 慎也の提案に私は拍手して喜ぶ。

「日本のホテルでもやってるんでしょ? ヌン活って。僕、最初その単語耳にした時、何の事か分かんなかったけど」

「そうそう。一時、文香とハマりまくってたなぁ。すっごい綺麗だし、映えるし、女子的なあれこれが刺激されるんだよねぇ。今でも季節のイベントがあったら、お誘いが来るから行くけど」

「じゃあ、二人がお茶してるところに俺たちが行って、ナンパしようか」

 まだ諦めてないらしく、慎也が提案してくる。

「いやぁ……。文香さまに一刀両断されて終わると思うけど」
「あっ……」

 容易に想像できたらしく、慎也は小さく声を漏らした。
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