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妊娠・出産 編
家族の形
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「ねぇ、ママ。どうしてうちにはパパが二人いるの?」
慎也との娘で長女の莉央に尋ねられたのは、私と二人の夫、長男次男に、長女次女がそろった夕食での事だった。
ちなみに長男次男には、もうすでに同じ質問をされたあとだ。
六歳の次女も不思議そうな顔をしている。
四十歳手前の私と、四十路になった正樹、かろうじてアラサーな慎也は、顔を見合わせる。
――この時がきたか。
こういう家族の形を取ると決めたからには、きちんと説明する義務が私たちにはある。
「莉央は、慎也パパと正樹パパ、どっちが好き?」
「両方!」
「どっちかと言えば?」
私の質問に、二人ともヒヤヒヤしている。
「両方! おんなじ!」
物心ついた時から、私たちなりのポリシーは子供たちに教え込んできた。
だから彼女がそう答えると私は分かっていた。
「ママも同じなの。でも、この国の法律、ルールでは、一人としか結婚できません。けど、ママとパパたちは本当に好き合っていて、どちらか一人とお別れする事はできなかったの」
子供たちは真剣な顔で話を聞いている。
正樹が口を開いた。
「正樹パパはね、国のルールではママとは結婚してないんだ。結婚は偉い人のところに、『結婚しました』って伝える紙を出すと、国が認めて『二人は夫婦になりました』って認められる。正樹パパには、その紙がないんだ。でもその紙がないから、正樹パパは家族じゃないと思う?」
子供たちは首を横に振る。
慎也は俊希の頭を撫で、皆に言った。
「うちは、よその家族と比べて、〝変わってる〟家族だ。きっと友達に『パパが二人いる』って言ったら、『変なの』って言われると思う」
身に覚えがある俊希が、俯いた。
「お友達の家は、お母さんが一人でお友達を育てています。それをわざわざお友達に『変なの』とか言うかな?」
慎也の問いに、四人とも首を横に振る。
「言わない!」
莉央がハッキリと答えた。
「そう。よその家は、よその家。ママたちがどうこう話しても、その家のあり方を変える事はできないし、よその家に向かって口出するのは、お節介で良くない事。だから今後、もしうちの家族を『変』と言う人が出てきても、『お節介だな』って思って無視しよう。慎也パパも、正樹パパも、ちゃんと血の繋がった家族なの。家族のあり方は、一つだけじゃない」
ポリポリと漬物を囓っていた正樹が、俊希に向かって笑いかけた。
「もし今後、家族の事でお友達と喧嘩しそうになって嫌だと思うなら、家族の事は黙っていてもいいよ。普通に『お父さんとお母さんがいます』でいいんだ。授業参観には慎也パパが行って、たまに僕が〝おじさん〟として顔を出す。〝おじさん〟は、皆を困らせないための呼び方だから、あんまり気にしなくていい。周りの人全員に、うちの事情をすべて伝えて分かってもらう必要はないんだ。他の人が自分の事をすべて話していないように、必要がなかったら黙っているっていう選択肢もある」
俊希はちょっと前に、友達とうちの家族のあり方について大喧嘩をしたばかりだ。
私が浮気をしているとか、そういう言われ方をされて怒ってくれたようだ。
でも、傷付く道は少ないほうがいい。
「黙っている事があるって、ムズムズするよね。でも世の中には、説明したほうがややこしくなる事もあるの。『沈黙は金、雄弁は銀』っていう言葉があるけど、沢山話して説明するより、黙っているほうが金のように価値があるっていう意味だよ」
私は子供達の顔を一人ずつ見て、最後に俊希に微笑みかける。
「……でも、『嘘の家族だ』って言われた」
「何が嘘なんだ? 結婚してるし、血も繋がった親子だ。こうやって仲良く一緒に住んでる。家族っていう言葉は、一緒に暮らしている人、全員を指す言葉だ。何も間違えていないし、警察に捕まる悪い事もしてない」
慎也にキッパリと言われ、俊希は少しの沈黙のあと、頷いた。
「まー、一度に沢山言ってもこんがらかっちゃうか! 何かあったらパパにもママにも相談して。でもね、ここにいる全員が家族で、パパもママも皆が大好きなのは本当だからね」
言ってから隣の席にいる莉央の頭をクシャクシャ撫でると、彼女は目を細めて笑った。
これで、この複雑すぎる関係を納得し、すべてが解決したとは思っていない。
それでも、成長してもっと難しい年頃になっても、きちんと説明すれば分かってくれると信じていた。
私たちは家族で、たとえ厳密には直接の子供でなくても、しっかりとした絆で結びつき、平等に愛すると決めていたから。
勿論、二人の父が、自分の血が流れた子を余分に愛しいと思うのは当然だ。
でも、絶対に差をつけない、つけたら重いペナルティを課すと、二人には告げてある。
そして、独身時代にあれだけ悩み、三人で愛し合うという形をとった二人が、それを破るはずもない。
兄弟に抱かれる恋人を愛せる男は、兄弟が産ませた子供も愛せる。
世間から見れば顔をしかめる関係かもしれない。
けれどこれは私たちの確固たる愛だ。
絶対に、誰にも「間違えている」なんて言わせない。
慎也との娘で長女の莉央に尋ねられたのは、私と二人の夫、長男次男に、長女次女がそろった夕食での事だった。
ちなみに長男次男には、もうすでに同じ質問をされたあとだ。
六歳の次女も不思議そうな顔をしている。
四十歳手前の私と、四十路になった正樹、かろうじてアラサーな慎也は、顔を見合わせる。
――この時がきたか。
こういう家族の形を取ると決めたからには、きちんと説明する義務が私たちにはある。
「莉央は、慎也パパと正樹パパ、どっちが好き?」
「両方!」
「どっちかと言えば?」
私の質問に、二人ともヒヤヒヤしている。
「両方! おんなじ!」
物心ついた時から、私たちなりのポリシーは子供たちに教え込んできた。
だから彼女がそう答えると私は分かっていた。
「ママも同じなの。でも、この国の法律、ルールでは、一人としか結婚できません。けど、ママとパパたちは本当に好き合っていて、どちらか一人とお別れする事はできなかったの」
子供たちは真剣な顔で話を聞いている。
正樹が口を開いた。
「正樹パパはね、国のルールではママとは結婚してないんだ。結婚は偉い人のところに、『結婚しました』って伝える紙を出すと、国が認めて『二人は夫婦になりました』って認められる。正樹パパには、その紙がないんだ。でもその紙がないから、正樹パパは家族じゃないと思う?」
子供たちは首を横に振る。
慎也は俊希の頭を撫で、皆に言った。
「うちは、よその家族と比べて、〝変わってる〟家族だ。きっと友達に『パパが二人いる』って言ったら、『変なの』って言われると思う」
身に覚えがある俊希が、俯いた。
「お友達の家は、お母さんが一人でお友達を育てています。それをわざわざお友達に『変なの』とか言うかな?」
慎也の問いに、四人とも首を横に振る。
「言わない!」
莉央がハッキリと答えた。
「そう。よその家は、よその家。ママたちがどうこう話しても、その家のあり方を変える事はできないし、よその家に向かって口出するのは、お節介で良くない事。だから今後、もしうちの家族を『変』と言う人が出てきても、『お節介だな』って思って無視しよう。慎也パパも、正樹パパも、ちゃんと血の繋がった家族なの。家族のあり方は、一つだけじゃない」
ポリポリと漬物を囓っていた正樹が、俊希に向かって笑いかけた。
「もし今後、家族の事でお友達と喧嘩しそうになって嫌だと思うなら、家族の事は黙っていてもいいよ。普通に『お父さんとお母さんがいます』でいいんだ。授業参観には慎也パパが行って、たまに僕が〝おじさん〟として顔を出す。〝おじさん〟は、皆を困らせないための呼び方だから、あんまり気にしなくていい。周りの人全員に、うちの事情をすべて伝えて分かってもらう必要はないんだ。他の人が自分の事をすべて話していないように、必要がなかったら黙っているっていう選択肢もある」
俊希はちょっと前に、友達とうちの家族のあり方について大喧嘩をしたばかりだ。
私が浮気をしているとか、そういう言われ方をされて怒ってくれたようだ。
でも、傷付く道は少ないほうがいい。
「黙っている事があるって、ムズムズするよね。でも世の中には、説明したほうがややこしくなる事もあるの。『沈黙は金、雄弁は銀』っていう言葉があるけど、沢山話して説明するより、黙っているほうが金のように価値があるっていう意味だよ」
私は子供達の顔を一人ずつ見て、最後に俊希に微笑みかける。
「……でも、『嘘の家族だ』って言われた」
「何が嘘なんだ? 結婚してるし、血も繋がった親子だ。こうやって仲良く一緒に住んでる。家族っていう言葉は、一緒に暮らしている人、全員を指す言葉だ。何も間違えていないし、警察に捕まる悪い事もしてない」
慎也にキッパリと言われ、俊希は少しの沈黙のあと、頷いた。
「まー、一度に沢山言ってもこんがらかっちゃうか! 何かあったらパパにもママにも相談して。でもね、ここにいる全員が家族で、パパもママも皆が大好きなのは本当だからね」
言ってから隣の席にいる莉央の頭をクシャクシャ撫でると、彼女は目を細めて笑った。
これで、この複雑すぎる関係を納得し、すべてが解決したとは思っていない。
それでも、成長してもっと難しい年頃になっても、きちんと説明すれば分かってくれると信じていた。
私たちは家族で、たとえ厳密には直接の子供でなくても、しっかりとした絆で結びつき、平等に愛すると決めていたから。
勿論、二人の父が、自分の血が流れた子を余分に愛しいと思うのは当然だ。
でも、絶対に差をつけない、つけたら重いペナルティを課すと、二人には告げてある。
そして、独身時代にあれだけ悩み、三人で愛し合うという形をとった二人が、それを破るはずもない。
兄弟に抱かれる恋人を愛せる男は、兄弟が産ませた子供も愛せる。
世間から見れば顔をしかめる関係かもしれない。
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