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妊娠・出産 編
一升餅を背負う日
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正樹に言われ、私は目を閉じる。
やがて慎也がクーラーで風邪を引かないように、タオルケットを掛けてくれた。
**
時が経つのは早いもので、俊希が一升餅を背負う日がやってきた。
育休は本来なら生まれてから子供が一歳になるまでらしいけれど、さすがに慎也は一年も休んでいられない。
私もそこまではいいよと言い、三か月で満足した。
といっても、三か月でも長いほうだと思う。本当にありがたい。
それでも、正樹の働きかけで、私や俊希に何かあった時にすぐ帰るとか、融通は利かせてもらえているようだ。
海の日も含んだ連休に、久賀城家も折原家もマンションに集まった。
お母さんとお祖母ちゃんは張り切って、私の好物を作って保存容器に入れて持ってきてくれた。
玲奈さんも同様で、他の人はお菓子や俊希のための玩具や絵本などを買ってきてくれた。
四月に第一子の男の子を産んだ文香も、和人くんと一緒に来てくれ、勢揃いだ。
今や私と文香は親友でママ友だ。
一緒にベビーカーを押して公園を散歩している。
「優美もあと少しで三十歳ねぇ」
出前のお寿司を食べながら、お母さんがのんびり言う。
「やめてよも~。あと僅かな命の二十代に別れを告げてるところなんだから」
私も大好物のサーモンのお寿司をパクリと食べる。うまい。
「という事は、慎也は五月生まれだからもう二十八歳で、正樹は十一月になったら三十二歳か……」
文香が二人を指さし、呟く。
「……あー、文香ちゃん、その『老けたなー』って顔すんのやめてくれる?」
正樹が文香の心を読み、ローストビーフをモソモソと食べる。
相変わらずこの二人は微妙な距離感だ。
文香は今も変わらず慎也と正樹に対して対抗心を持っているけれど、結婚して子供も産まれて、大分和らいだ。
「別に老けたなーなんて言ってないじゃん。私も優美と一緒でもう少しで三十歳になるんだから」
ちなみに文香も十一月生まれで、蠍座の女だ。
誕生日は正樹と一週間しか違わないんだけど、そこら辺から同族嫌悪があるのかなぁ。
そんな二人のいがみ合い(?)を見事にスルーして、それぞれご馳走に舌鼓を打ちながら世間話をしていた。
「俊希は大輝と喧嘩したら駄目でちゅからね~」
私はテーブルチェアに座らせた俊希に、スプーンで野菜スープを食べさせる。
私に似たのか、俊希は何でも食べてくれるのでありがたい。
ちなみに大輝とは、文香の息子の名前だ。
文字通り、ビッグに輝いてほしい。
「あ、慎也。俊希の洟拭いて」
「了解」
彼はすぐさまティッシュを取り、折りたたんだそれを指に巻いて俊希の鼻につける。
「はい、俊希。お洟スルスルするよ~」
慎也は声を掛け、ティッシュをそっと引いていく。
すると鼻水がネパーと取れていった。
「何でもかんでも、慎也のほうがうまいんだもんなぁ」
キョトンとした顔のまま、洟を取られている俊希を見て、私は慎也にある種の嫉妬を抱く。
「〝ママ〟には敵いませんとも」
「まだママって言ってくれないけどね~。はい、あーん」
「あっ、あっ、あー」
誰に似たのやら俊希は〝まんま〟が大好きだ。
運動は私たちが教え込んでいくので、健やかなる食いしん坊になってほしい。
はぷ、とスプーンを咥えた俊希が愛おしい。
〝お祖母ちゃん〟になったお母さんも、〝ひいお祖母ちゃん〟になったお祖母ちゃんも、皆メロメロだ。
未望ちゃんに至っては、成長した俊希と大輝と一番にデートしたいと言っていて、初めて聞いた時はめっちゃ笑った。
「優美ちゃん、はい、あーん」
俊希に食べさせている私に、正樹がエビチリを食べさせてくれる。
「んンんん(あんがと)!」
ちなみにこれはお祖母ちゃんの手作りで、卵とじされていて辛さがマイルドな、私の好物だ。
「食べたい物があったら言ってね」
「うん分かった」
相変わらず二人は狛犬ポジションにいて、あれこれサポートしてくれる。
前は二人で私の両脇を固めて「近づく男許さん」みたいな感じだったけど、今は自分の腕が四本増えたみたいにあこれこれしてくれて、ありがたい。
やがて慎也がクーラーで風邪を引かないように、タオルケットを掛けてくれた。
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時が経つのは早いもので、俊希が一升餅を背負う日がやってきた。
育休は本来なら生まれてから子供が一歳になるまでらしいけれど、さすがに慎也は一年も休んでいられない。
私もそこまではいいよと言い、三か月で満足した。
といっても、三か月でも長いほうだと思う。本当にありがたい。
それでも、正樹の働きかけで、私や俊希に何かあった時にすぐ帰るとか、融通は利かせてもらえているようだ。
海の日も含んだ連休に、久賀城家も折原家もマンションに集まった。
お母さんとお祖母ちゃんは張り切って、私の好物を作って保存容器に入れて持ってきてくれた。
玲奈さんも同様で、他の人はお菓子や俊希のための玩具や絵本などを買ってきてくれた。
四月に第一子の男の子を産んだ文香も、和人くんと一緒に来てくれ、勢揃いだ。
今や私と文香は親友でママ友だ。
一緒にベビーカーを押して公園を散歩している。
「優美もあと少しで三十歳ねぇ」
出前のお寿司を食べながら、お母さんがのんびり言う。
「やめてよも~。あと僅かな命の二十代に別れを告げてるところなんだから」
私も大好物のサーモンのお寿司をパクリと食べる。うまい。
「という事は、慎也は五月生まれだからもう二十八歳で、正樹は十一月になったら三十二歳か……」
文香が二人を指さし、呟く。
「……あー、文香ちゃん、その『老けたなー』って顔すんのやめてくれる?」
正樹が文香の心を読み、ローストビーフをモソモソと食べる。
相変わらずこの二人は微妙な距離感だ。
文香は今も変わらず慎也と正樹に対して対抗心を持っているけれど、結婚して子供も産まれて、大分和らいだ。
「別に老けたなーなんて言ってないじゃん。私も優美と一緒でもう少しで三十歳になるんだから」
ちなみに文香も十一月生まれで、蠍座の女だ。
誕生日は正樹と一週間しか違わないんだけど、そこら辺から同族嫌悪があるのかなぁ。
そんな二人のいがみ合い(?)を見事にスルーして、それぞれご馳走に舌鼓を打ちながら世間話をしていた。
「俊希は大輝と喧嘩したら駄目でちゅからね~」
私はテーブルチェアに座らせた俊希に、スプーンで野菜スープを食べさせる。
私に似たのか、俊希は何でも食べてくれるのでありがたい。
ちなみに大輝とは、文香の息子の名前だ。
文字通り、ビッグに輝いてほしい。
「あ、慎也。俊希の洟拭いて」
「了解」
彼はすぐさまティッシュを取り、折りたたんだそれを指に巻いて俊希の鼻につける。
「はい、俊希。お洟スルスルするよ~」
慎也は声を掛け、ティッシュをそっと引いていく。
すると鼻水がネパーと取れていった。
「何でもかんでも、慎也のほうがうまいんだもんなぁ」
キョトンとした顔のまま、洟を取られている俊希を見て、私は慎也にある種の嫉妬を抱く。
「〝ママ〟には敵いませんとも」
「まだママって言ってくれないけどね~。はい、あーん」
「あっ、あっ、あー」
誰に似たのやら俊希は〝まんま〟が大好きだ。
運動は私たちが教え込んでいくので、健やかなる食いしん坊になってほしい。
はぷ、とスプーンを咥えた俊希が愛おしい。
〝お祖母ちゃん〟になったお母さんも、〝ひいお祖母ちゃん〟になったお祖母ちゃんも、皆メロメロだ。
未望ちゃんに至っては、成長した俊希と大輝と一番にデートしたいと言っていて、初めて聞いた時はめっちゃ笑った。
「優美ちゃん、はい、あーん」
俊希に食べさせている私に、正樹がエビチリを食べさせてくれる。
「んンんん(あんがと)!」
ちなみにこれはお祖母ちゃんの手作りで、卵とじされていて辛さがマイルドな、私の好物だ。
「食べたい物があったら言ってね」
「うん分かった」
相変わらず二人は狛犬ポジションにいて、あれこれサポートしてくれる。
前は二人で私の両脇を固めて「近づく男許さん」みたいな感じだったけど、今は自分の腕が四本増えたみたいにあこれこれしてくれて、ありがたい。
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