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妊娠・出産 編
一生に一度
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サポートしてくれる人を雇う話を聞いていたし、私だって慎也のこれからを心配した。
だから無理に育休を取らなくてもいいよ、と彼に言ったのだ。
けれどそれに強く反対したのは、正樹だった。
『出産、育児は子供一人に対し、一生に一度しかない。父親が子供と触れ合う時間を作るのは大事だし、何より一番大変な優美ちゃんに慎也が寄り添って、少しでも子育て情報をシェアすべきだ』
そう言って、仲良くなってきたらしい役員のおじさまたちと飲み会を開きがてら、全員をお酒の席で口説き落として、円満に育休を取れるようにしてくれた。
勿論、久賀城ホールディングス内でも社内改革はどんどん進められていて、女性も男性も働きやすい職場にするのを第一に考えているそうだ。
男性が育休申請をして、戻って来たら仕事を回してもらえないとか、浦島太郎状態とかを許したくないと言っていた。
当然、女性も同じだ。
世界の人口は増えているのに、日本は少子高齢化が進んでいる。
もっと子供を大切に、子育てをする夫婦を大切にしなきゃいけない。
そう言って、正樹は真正面から久賀城ホールディングスを、良い方向に変えようとしていた。
もともと父の昌明さんがフランスで育ったのもあり、彼が社長をしていた時点で変わってはいたそうだ。
働きやすい会社は社員の労働意欲が増し、その社風や魅力に惹かれて顧客も集まる。
少なくとも、昌明さんや正樹はそう考えている。
久賀城ホールディングスの株価も、年々着実に右肩上がりになっているらしい。
正樹が働いている現場を、私はいまだに見た事がない。
けれど、こういう話を聞いて尊敬する気持ちと、好きだなぁ……という気持ちが再度沸き起こった。
そして、そこまでお膳立てしてもらったのなら、と、慎也は産休を受け入れた。
私は俊希におっぱいコール、おむつコール、眠たいコール、その他コールをされて不規則な生活を送っていて、慎也もそのサポートを全面的にしてくれていた。
家政婦さんには引き続き来てもらって家事をお願いしている。
私と慎也も作れる時には食べたい物を作っているけれど、ドタバタで疲れ切ってそれどころじゃない場合もあるので、本当に助かっている。
他にも、シッターさんにいつでも連絡できるようにしてくれていた。
けど、なるべく自分たちでお世話をして、どうしても用事があるとか、疲れ切った時にお願いしようと相談した。
「あー、おいし……」
ゴクゴクとスムージーを飲み、息をつく。
飲み終わったあと、どうしても眠たくてまたゴロンと横になってしまった。
「ごめんね。最近俊希中心になって、家の事とか何もできてない」
「何言ってんの。そのために家政婦さんを雇ったんでしょ。子育てに専念しなよ」
一人掛けのソファに座っている正樹が、組んだ脚をブラブラさせて言う。
「優美と一緒にいて痛感するけど、マジで子育て大変だから、こうやって家政婦さんに甘えられるなら、甘えといたほうがいい。それでなくても頻繁にコールが掛かって、ろくに眠れてないだろ」
そういう慎也も疲労を滲ませている。
俊希が泣いたら彼も一緒に出動してくれているので、本当に頼もしい。
最初は正樹もやる気に満ちて出動してくれていたんだけど、彼には社長さんという大切な仕事があるので、正樹の睡眠だけは死守してもらった。
勿論「僕だけ参加しないなんて……」と言っていた。
けど働いていない私と、育休を取っている慎也、現役で働いている(しかも経営者)正樹とでは条件が違う。
「……ねぇ、慎也。お願いがあるんだけど」
「ん?」
「そろそろ、体動かしたい。ストレッチはしてるけど、ウォーキングとか少しずつやっていきたい。俊希が眠っている間、サッと行ってきていい? 慎也もジム行きたいだろうし、交代でやろうよ」
「OK。気分転換大事。二人でベビーカー押してウォーキングもいいし」
「うん!」
話し合った私に、正樹が無言で指を突きつける。
「何?」
「一か月検診を無事乗り越えたらね。それまでは大人しくしといて。内なるケモノは胸の奥で飼っておいて」
「んふふ、内なるケモノ。……そうだね。気がはやりすぎた。でも、慎也の体は産後でも何でもないんだから、自由にしていいんだからね」
「ありがと。でもまだ体を思うように動かせないストレスはあると思うから、なるべく無神経な事はしないでおくな」
「もう……、いいのに」
慎也の優しさに感謝して、私は彼の手を握る。
育児は大変で毎日が戦いだけれど、こうやって二人が気遣ってくれて助けてくれる人たちもいるから、恵まれているなぁ、と思う。
「優美ちゃん、いいからもうちょっと寝なよ」
「ん……」
だから無理に育休を取らなくてもいいよ、と彼に言ったのだ。
けれどそれに強く反対したのは、正樹だった。
『出産、育児は子供一人に対し、一生に一度しかない。父親が子供と触れ合う時間を作るのは大事だし、何より一番大変な優美ちゃんに慎也が寄り添って、少しでも子育て情報をシェアすべきだ』
そう言って、仲良くなってきたらしい役員のおじさまたちと飲み会を開きがてら、全員をお酒の席で口説き落として、円満に育休を取れるようにしてくれた。
勿論、久賀城ホールディングス内でも社内改革はどんどん進められていて、女性も男性も働きやすい職場にするのを第一に考えているそうだ。
男性が育休申請をして、戻って来たら仕事を回してもらえないとか、浦島太郎状態とかを許したくないと言っていた。
当然、女性も同じだ。
世界の人口は増えているのに、日本は少子高齢化が進んでいる。
もっと子供を大切に、子育てをする夫婦を大切にしなきゃいけない。
そう言って、正樹は真正面から久賀城ホールディングスを、良い方向に変えようとしていた。
もともと父の昌明さんがフランスで育ったのもあり、彼が社長をしていた時点で変わってはいたそうだ。
働きやすい会社は社員の労働意欲が増し、その社風や魅力に惹かれて顧客も集まる。
少なくとも、昌明さんや正樹はそう考えている。
久賀城ホールディングスの株価も、年々着実に右肩上がりになっているらしい。
正樹が働いている現場を、私はいまだに見た事がない。
けれど、こういう話を聞いて尊敬する気持ちと、好きだなぁ……という気持ちが再度沸き起こった。
そして、そこまでお膳立てしてもらったのなら、と、慎也は産休を受け入れた。
私は俊希におっぱいコール、おむつコール、眠たいコール、その他コールをされて不規則な生活を送っていて、慎也もそのサポートを全面的にしてくれていた。
家政婦さんには引き続き来てもらって家事をお願いしている。
私と慎也も作れる時には食べたい物を作っているけれど、ドタバタで疲れ切ってそれどころじゃない場合もあるので、本当に助かっている。
他にも、シッターさんにいつでも連絡できるようにしてくれていた。
けど、なるべく自分たちでお世話をして、どうしても用事があるとか、疲れ切った時にお願いしようと相談した。
「あー、おいし……」
ゴクゴクとスムージーを飲み、息をつく。
飲み終わったあと、どうしても眠たくてまたゴロンと横になってしまった。
「ごめんね。最近俊希中心になって、家の事とか何もできてない」
「何言ってんの。そのために家政婦さんを雇ったんでしょ。子育てに専念しなよ」
一人掛けのソファに座っている正樹が、組んだ脚をブラブラさせて言う。
「優美と一緒にいて痛感するけど、マジで子育て大変だから、こうやって家政婦さんに甘えられるなら、甘えといたほうがいい。それでなくても頻繁にコールが掛かって、ろくに眠れてないだろ」
そういう慎也も疲労を滲ませている。
俊希が泣いたら彼も一緒に出動してくれているので、本当に頼もしい。
最初は正樹もやる気に満ちて出動してくれていたんだけど、彼には社長さんという大切な仕事があるので、正樹の睡眠だけは死守してもらった。
勿論「僕だけ参加しないなんて……」と言っていた。
けど働いていない私と、育休を取っている慎也、現役で働いている(しかも経営者)正樹とでは条件が違う。
「……ねぇ、慎也。お願いがあるんだけど」
「ん?」
「そろそろ、体動かしたい。ストレッチはしてるけど、ウォーキングとか少しずつやっていきたい。俊希が眠っている間、サッと行ってきていい? 慎也もジム行きたいだろうし、交代でやろうよ」
「OK。気分転換大事。二人でベビーカー押してウォーキングもいいし」
「うん!」
話し合った私に、正樹が無言で指を突きつける。
「何?」
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「んふふ、内なるケモノ。……そうだね。気がはやりすぎた。でも、慎也の体は産後でも何でもないんだから、自由にしていいんだからね」
「ありがと。でもまだ体を思うように動かせないストレスはあると思うから、なるべく無神経な事はしないでおくな」
「もう……、いいのに」
慎也の優しさに感謝して、私は彼の手を握る。
育児は大変で毎日が戦いだけれど、こうやって二人が気遣ってくれて助けてくれる人たちもいるから、恵まれているなぁ、と思う。
「優美ちゃん、いいからもうちょっと寝なよ」
「ん……」
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