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妊娠・出産 編
出産
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それからコース料理が運ばれてきて、慎也と正樹と話しながらじっくり味わわせてもらう。
「文香、綺麗だね。もともとスーパー美人だったけど、今日は別格」
「優美ちゃんも世界一綺麗だよ」
正樹がナイフとフォークを両手に、ニコニコ笑う。
「いや、ありがたいけどそうじゃなくて」
私を褒めてくれるのは嬉しいけれど、今は文香の話だ。
「しかし婚約が決まったあと、悔しがってたな。よっぽど優美と一緒に新婚旅行に行きたかったんだろうか」
慎也が言い、自分の言葉に自分で首を傾げている。
結婚が決まって式や新婚旅行の予定を立てていたけれど、その時に文香は「妊婦を連れていけない~!」とめっちゃ悔しがっていた。
「あはは、ほんっとうに仲良しだよね。まあ、これからの人生のほうが長いんだから、いつでも旅行行きなよ。今は体を大切にして、余裕ができた時にゆっくり遊べばいい」
「うん」
結婚して妊娠してから、正樹は落ち着いた男性になっていた。
私と結婚式を挙げて、心理的に落ち着いたからだと思う。
生活そのものは以前と変わらないマンションでの三人暮らしだ。
正樹が頻繁に自分の指輪を見て、チラチラと私の指輪を見てニヤついている。
きっと今でも、「自分は法的には私の夫ではない」という寂しさを抱えていると思う。
それでも結婚式を挙げて、私が自分とおそろいの指輪をつけて一緒に生活しているので、安心しているんだろう。
彼の不安定さの根幹は、大切な母親を亡くなってしまったところにある。
加えて女性不信もあり、パートナーができても相手への信頼を長らく得られていなかった。
でも私がどすこいと受け止め、結婚式も挙げて幸せが現実のものになったと、ジワジワ実感しているんだと思う。
軽い性格、口調はそのままだけれど、以前のように不安定になる事はほぼなくなった。
むしろ私が身重になってからは、父親になる自覚が芽生えて真剣に心配してくれている。
いっぽうで、今でも二人きりになると、チラッと慎也に嫉妬しちゃうっていう話は聞いている。
けど、私と慎也が大好きだからすべて受け入れると決めている。
私に子供ができてからは、慎也の子供ではあるけれど、自分の息子だという事で、本当に気を遣ってくれている。
以前の子供みたいな彼も好きだったのでちょっと寂しさはあるけれど、これから家族が増えていく事や、もう社長さんになった事を思うと安心してもいる。
「子供の成長はすぐだって言うしね。きっと生まれてから大変だと思うけど、手の掛かる時期なんてあっという間だと思うんだ。その〝大変〟を楽しめたらいいな。……って、言うだけタダだけど」
あはは、と笑うと慎也がトントンと背中を叩く。
「可能な限り協力するし、サポートしてくれる人も雇うし、じっくり向き合おう。まず、無事出産してからだ」
「そうだね」
微笑んで、私はグラスに入ったジュレをスプーンですくった。
**
そして七月二十五日。
私は分娩台に座って叫んでいた。
「んああぁあああぁあーーー!! このぉっ、あぁあああぁあっっ!!」
さっきから叫び声の合間に「この」とか「だからぁ!」とか挟まるんだけど、四の五の言ってらんない。
慎也は側に立ち、酢飯のように私を団扇で扇いでくれている。
「優美! 頑張れ!」
彼も勿論出産立ち会いは初めてなので、怖いのか知らないけど雰囲気がいつもと違う。
慎也の切羽詰まった声を聞き、私は心の中で叫ぶ。
しゃらくせぇ!
ヒッヒッフーの呼吸ですよ!
「ちくしょおおおおおお!!」
「久賀城さん! いきんでー!」
痛い!
モーレツに腹が立つぐらい痛くて、もう涙で顔がグシャグシャだ。
ほんっとうに痛くて、こんなん聞いてない!!
「久賀城さん! 呼吸止めないで!」
「あぁあああああぁーっ!! 先生えぇええぇっ! もうやめるっ、やだあああぁっ!」
ベット脇の手すりに掴まっていきみ、私は弱音を吐く。
「諦めたらそこで出産終了だよ!」
そこで先生がいきなり某漫画の名言をぶっ込んできた。
「ぶっっはははははは! いてっ、あーっ!」
「先生!」
あ、先生が助産師さんに怒られてる……。
「頭が出てきたよ! あともう少し!」
「文香、綺麗だね。もともとスーパー美人だったけど、今日は別格」
「優美ちゃんも世界一綺麗だよ」
正樹がナイフとフォークを両手に、ニコニコ笑う。
「いや、ありがたいけどそうじゃなくて」
私を褒めてくれるのは嬉しいけれど、今は文香の話だ。
「しかし婚約が決まったあと、悔しがってたな。よっぽど優美と一緒に新婚旅行に行きたかったんだろうか」
慎也が言い、自分の言葉に自分で首を傾げている。
結婚が決まって式や新婚旅行の予定を立てていたけれど、その時に文香は「妊婦を連れていけない~!」とめっちゃ悔しがっていた。
「あはは、ほんっとうに仲良しだよね。まあ、これからの人生のほうが長いんだから、いつでも旅行行きなよ。今は体を大切にして、余裕ができた時にゆっくり遊べばいい」
「うん」
結婚して妊娠してから、正樹は落ち着いた男性になっていた。
私と結婚式を挙げて、心理的に落ち着いたからだと思う。
生活そのものは以前と変わらないマンションでの三人暮らしだ。
正樹が頻繁に自分の指輪を見て、チラチラと私の指輪を見てニヤついている。
きっと今でも、「自分は法的には私の夫ではない」という寂しさを抱えていると思う。
それでも結婚式を挙げて、私が自分とおそろいの指輪をつけて一緒に生活しているので、安心しているんだろう。
彼の不安定さの根幹は、大切な母親を亡くなってしまったところにある。
加えて女性不信もあり、パートナーができても相手への信頼を長らく得られていなかった。
でも私がどすこいと受け止め、結婚式も挙げて幸せが現実のものになったと、ジワジワ実感しているんだと思う。
軽い性格、口調はそのままだけれど、以前のように不安定になる事はほぼなくなった。
むしろ私が身重になってからは、父親になる自覚が芽生えて真剣に心配してくれている。
いっぽうで、今でも二人きりになると、チラッと慎也に嫉妬しちゃうっていう話は聞いている。
けど、私と慎也が大好きだからすべて受け入れると決めている。
私に子供ができてからは、慎也の子供ではあるけれど、自分の息子だという事で、本当に気を遣ってくれている。
以前の子供みたいな彼も好きだったのでちょっと寂しさはあるけれど、これから家族が増えていく事や、もう社長さんになった事を思うと安心してもいる。
「子供の成長はすぐだって言うしね。きっと生まれてから大変だと思うけど、手の掛かる時期なんてあっという間だと思うんだ。その〝大変〟を楽しめたらいいな。……って、言うだけタダだけど」
あはは、と笑うと慎也がトントンと背中を叩く。
「可能な限り協力するし、サポートしてくれる人も雇うし、じっくり向き合おう。まず、無事出産してからだ」
「そうだね」
微笑んで、私はグラスに入ったジュレをスプーンですくった。
**
そして七月二十五日。
私は分娩台に座って叫んでいた。
「んああぁあああぁあーーー!! このぉっ、あぁあああぁあっっ!!」
さっきから叫び声の合間に「この」とか「だからぁ!」とか挟まるんだけど、四の五の言ってらんない。
慎也は側に立ち、酢飯のように私を団扇で扇いでくれている。
「優美! 頑張れ!」
彼も勿論出産立ち会いは初めてなので、怖いのか知らないけど雰囲気がいつもと違う。
慎也の切羽詰まった声を聞き、私は心の中で叫ぶ。
しゃらくせぇ!
ヒッヒッフーの呼吸ですよ!
「ちくしょおおおおおお!!」
「久賀城さん! いきんでー!」
痛い!
モーレツに腹が立つぐらい痛くて、もう涙で顔がグシャグシャだ。
ほんっとうに痛くて、こんなん聞いてない!!
「久賀城さん! 呼吸止めないで!」
「あぁあああああぁーっ!! 先生えぇええぇっ! もうやめるっ、やだあああぁっ!」
ベット脇の手すりに掴まっていきみ、私は弱音を吐く。
「諦めたらそこで出産終了だよ!」
そこで先生がいきなり某漫画の名言をぶっ込んできた。
「ぶっっはははははは! いてっ、あーっ!」
「先生!」
あ、先生が助産師さんに怒られてる……。
「頭が出てきたよ! あともう少し!」
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