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妊娠・出産 編

俺たちの愛を疑わなくていいからな

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「いつ生まれるんだ?」

 慎也が気の早い事を尋ねてくる。
 フフッとなりながら、「そりゃ知りたいよね」と嬉しくなった。

「計算サイトでの予想だけど、もし妊娠していたら多分七月じゃないかと思う」

「優美と同じ誕生日月じゃん!」

 慎也が目を丸くする。

「ねえねえ、優美ちゃん! ベビーリングって知ってる? 赤ちゃんの指輪! それ、優美ちゃんとおそろいで誕生日月の宝石を」

「却下!」

 すぐジュエリーに走りたがる男を、私はピシャリと切り捨てる。
 それからハッとして釘を刺しておく。

「言っておくけど、ベビー用品は必要になるかな、って頃まで買わなくていいからね? それに性別がハッキリする前に、自分の希望で物を買わない事」

「優美ちゃん厳しい……」

「家は広いけど、子供生まれたら多分ゴチャッとするだろうし、無駄に物を増やさないどこうね。必要になったら都度買う」

 二人には釘を刺したから安心したんだけど、私は家族や久賀城家の皆さん、そしてアランさん達の存在を忘れていた……。

 贈り物が連チャンして悲鳴を上げるようになるのは、また後日の話。

「まぁ、とにかく、体を大事にしてくれ。ほんっとに。今までの無茶とか禁止。ダメゼッタイ」

「……分かりました」

 逆に慎也に釘を刺され、私はスンッと大人しくなる。
 五十嵐さんに絡んでいた男たちに立ち向かい、殴られたのはやり過ぎたと反省してる。

「トレーニングは激しく体を動かさないなら大丈夫と思うけど、お医者さんと相談して気をつけてこうね」

 正樹に言われて返事をしたあと、私は自分のお腹をつい見下ろす。

「うん。……あー、でも……」

「でも?」

 彼に顔を覗き込まれ、私は情けなさを覚えつつ白状する。

「ハワイで太って、イタリアでも太ってきたんだ」

「そのボディで?」

 慎也がスッパリと突っ込んでくる。
 褒められた……のかもしれないけど、増量した自覚があるので明るく「ありがとう」と言えない。

「まぁ、女性ならではの悩みと、トラウマがあるのは分かるけどさ。まず医者にかかって相談だ。んで、どれぐらい運動したらいいのか聞いておこう」

「うん」

 私の隣でスマホを弄っていた正樹が、顔を上げた。

「妊娠十二週から、ウォーキングとか、マタニティヨガ、マタニティアクアとかやっていいみたいだよ。優美ちゃんが望むような、思いっきり体を絞るのはできないけど、それは我慢しとこう?」

「そうだね」

「『お肉がついた』って言っても、僕らから見たら『どこが?』だからね? 自分の事だから過敏になるかもしれないけど、他の人は何も気にしてないよ」

「うん、分かってる」

 そうだ。自分の事だから過敏になっているんだ。

 プロポーションの維持も、鍛えて満足感を得るのも、すべて自分のためだった。
 むしろ依存症の気もあって、文香からは「もうちょっと手を抜いてもいいんじゃない?」と言われていたほどだった。

 体脂肪数値を見ても、平均以下だった。
 少しでも体重が増えたら「太った!」と怯えてしまうのは、やっぱりトラウマがあったからだ。気にしすぎ。

「あとさ、優美がトレーニングしてたのは、自分のためっていうのもあるんだろうと思う。その中に少しでも俺と正樹に『スケベボディと思われたい』とかあるなら、ぜんっぜん気にしなくていいからな?」

「……スケベボディって思ってたの?」

 私は逆に、慎也をうさんくさい目で見る。
 あ、咳払いして誤魔化した。

「それはともかく。俺たちは優美の外見がどう変わっても、歳を重ねてもずっと愛してる。惚れたのは中身だ。だから、外見の変化で俺たちの愛を疑わなくていいからな?」

「うん、ありがと」

 そう言ってもらえて、スッと胸の中にあった重苦しいものが軽くなった。

 やっぱり、好きな人の前では最高の自分でいたい。

 加えて、ダイエットに成功してから周りから「美人」とか「ナイスバディ」と言われて、いい気になっていた自分がいる。

 努力したのは自分だから、堂々と自分の魅力を披露したい。

 そういう気持ちからだったけれど、根っこにあるのはやっぱり「憧れの兄弟の前に出ても、恥ずかしくない自分になりたい」という恋愛の絡んだ欲だった。

 私は、痩せて愛されたかった。

 今は二人と結婚して満たされているから、過去の自分が切望したものを笑って見守る気持ちになれる。
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