389 / 539
妊娠・出産 編
その意気でいこう!
しおりを挟む
それはそれ、これはこれ、と私は手でジェスチャーする。
「うん……。ありがと。……何か、自分が憎まれる側になって、どれだけ自分が他人に嫌な事をしていたのか思い知った。それで、あの時の自分が如何に異常だったのかも分かった」
カフェモカを飲む彼女に、私は微笑みかける。
「卑怯な事をする人を、無視できる強さを身につけよう。誰だって過ちを犯す。でもそれを非難していいのは、正当な権利のある人だけだよ。その人たちが『見ていて不快だった』っていうだけで五十嵐さんに嫌がらせしているなら、ただの第三者の〝お気持ち〟にすぎない」
彼女はコクンと頷く。
「結局、彼女たちは男性社員と仲良くできていた五十嵐さんに、嫉妬してただけだと思う。それ以外に考えようがない。自分たちがしたくてもできない事を、あなたがしていたから、見下して悪者にして、ストレス発散しているだけ。本社にいた時は男性社員まで敵に回すかもしれないから手を出せなかったけど、今が絶好の機会って思ってるんでしょ」
私は肩をすくめる。
「そういうのは、放っておいていいよ。新しい会社で働きづらくなる実被害が出るなら、きちんと上司に言おう。正樹経由での再就職だし、多少融通は利かせてくれるはず。っていうか、今回の場合、五十嵐さんは悪くないからね?」
「うん、あんまりやり過ぎになるようなら、きちんと相談しようと思ってる」
彼女は溜め息をつき、ケーキの残りをつつく。
「第一、五十嵐さんの悪口を吹き込まれた人がいるとして、まともな人なら真に受けないと思うよ。むしろ『いきなり何言ってんだこいつ?』になって終わり。人って、自分の平和な生活を脅かされるのが一番嫌だと思うの。一般的な人ならまずそう。自分にはまったく関係ないのに、第三者がああしたこうしたって、私なら聞きたくない。誰かが誰かを悪く言う姿を見たくない」
彼女は頷いて「だね」と呟く。
「逆に悪口を真に受ける人は、五十嵐さんに悪い人であってほしいと願う人だよ。もしくは噂に踊らされやすい人。そういう人たちは〝それまで〟だから、五十嵐さんの中のふるいに掛けちゃっていいと思う」
私は、そう考えるようにしてきた。
他人から不確かな情報を吹き込まれて、それでたやすく意見を変えてしまう人とは友達でいたいとは思わない。
私の事もいつ裏切るか分からないからだ。
吹く風によってクルクル方向を変える風見鶏みたいな人に大事な話なんてできないし、信頼もできない。
友達になるなら、やっぱり自分の中に善悪の基準や分別の軸をしっかり持っていて、公平な判断ができる人がいい。
それはある程度、他人に嫌われてもいいと覚悟の決まった人の考え方だ。
誰かが間違えた事を言った時、自分が被害に遭わないために話を合わせるのも処世術だけど、「それは違うと思う」と言える人は貴重だ。
大体の人は、うまくやり過ごすためにその場で話を合わせるだろう。
私はぶっちゃけ、人に嫌われるのに慣れちゃったし、嫌な人に嫌われても別にいいやと思っているので、気兼ねなく人に意見したいと思っていた。
そのほうがあとでモヤモヤしないし、自分の誇りも守れる。
「私も前の会社で悪口言われてたけど、他人の悪口ばっかり言う人は、その口の悪さで身を滅ぼすよ。周りがその人を避けていく。気がつけば孤立しているか、同族の仲間しか残っていない。その〝仲間〟は調子のいい時だけ話を合わせて、困った時には絶対に助けず、いの一番に逃げてく。まともな感覚の人は、もうすでにその異常性に気付いて距離を取ってる」
五十嵐さんは頷く。
「中にはそういう〝仲間〟でも、助け合ってるか分からないけどね。でも、五十嵐さんが仲良くしたいのは、〝そういう人〟たちじゃないでしょ?」
その問いに、彼女はしっかり頷いた。
「うん。もう風見鶏みたいな友達はいらない。私の事を真剣に心配してくれる、本当の友達がいい。尊敬できる人で、『その人みたいになりたい』って思える人。中学生女子みたいに、誰かがちょっとでも目立ったら全員で無視するような、子供っぽい人は要らない」
きっぱり言い切った彼女に、私は手でグーを作って突きだした。
「よし、その意気でいこう!」
「ん!」
二人して、トンッと拳を合わせる。
「『自分の周り五人の平均が、自分』。……私はまだまだ、理想の自分になれていない。でも折原さんみたいな人と付き合っていけるように、レベルアップのための努力はできる。健康的な生活を始めたし、こないだジムにも入会した」
「おっ、いいね!」
私はニカッと笑ってサムズアップする。
「まだまだプロポーションは変わっていないし、筋トレも軽い重りで精一杯。でも、『自分磨きのために何かをやれてる』っていう満足感はある。何もしないでスマホ弄って、好きでもない相手と付き合ってるより、鍛える人に交じって、『意識高い系の事ができてる』って思えるほうがずっといい」
「うんうん。動機は何でもいいよ。自分のテンションがアガるように生きていこう。でも、ずっと気持ちを張り詰めさせて頑張ってると、いつか糸がプツッといっちゃうから、適度に自分にご褒美あげてね」
私が彼女のケーキを指さすと、五十嵐さんは嬉しそうに笑ってケーキを頬張った。
そのあと、おずおずと話しかけてきた。
「うん……。ありがと。……何か、自分が憎まれる側になって、どれだけ自分が他人に嫌な事をしていたのか思い知った。それで、あの時の自分が如何に異常だったのかも分かった」
カフェモカを飲む彼女に、私は微笑みかける。
「卑怯な事をする人を、無視できる強さを身につけよう。誰だって過ちを犯す。でもそれを非難していいのは、正当な権利のある人だけだよ。その人たちが『見ていて不快だった』っていうだけで五十嵐さんに嫌がらせしているなら、ただの第三者の〝お気持ち〟にすぎない」
彼女はコクンと頷く。
「結局、彼女たちは男性社員と仲良くできていた五十嵐さんに、嫉妬してただけだと思う。それ以外に考えようがない。自分たちがしたくてもできない事を、あなたがしていたから、見下して悪者にして、ストレス発散しているだけ。本社にいた時は男性社員まで敵に回すかもしれないから手を出せなかったけど、今が絶好の機会って思ってるんでしょ」
私は肩をすくめる。
「そういうのは、放っておいていいよ。新しい会社で働きづらくなる実被害が出るなら、きちんと上司に言おう。正樹経由での再就職だし、多少融通は利かせてくれるはず。っていうか、今回の場合、五十嵐さんは悪くないからね?」
「うん、あんまりやり過ぎになるようなら、きちんと相談しようと思ってる」
彼女は溜め息をつき、ケーキの残りをつつく。
「第一、五十嵐さんの悪口を吹き込まれた人がいるとして、まともな人なら真に受けないと思うよ。むしろ『いきなり何言ってんだこいつ?』になって終わり。人って、自分の平和な生活を脅かされるのが一番嫌だと思うの。一般的な人ならまずそう。自分にはまったく関係ないのに、第三者がああしたこうしたって、私なら聞きたくない。誰かが誰かを悪く言う姿を見たくない」
彼女は頷いて「だね」と呟く。
「逆に悪口を真に受ける人は、五十嵐さんに悪い人であってほしいと願う人だよ。もしくは噂に踊らされやすい人。そういう人たちは〝それまで〟だから、五十嵐さんの中のふるいに掛けちゃっていいと思う」
私は、そう考えるようにしてきた。
他人から不確かな情報を吹き込まれて、それでたやすく意見を変えてしまう人とは友達でいたいとは思わない。
私の事もいつ裏切るか分からないからだ。
吹く風によってクルクル方向を変える風見鶏みたいな人に大事な話なんてできないし、信頼もできない。
友達になるなら、やっぱり自分の中に善悪の基準や分別の軸をしっかり持っていて、公平な判断ができる人がいい。
それはある程度、他人に嫌われてもいいと覚悟の決まった人の考え方だ。
誰かが間違えた事を言った時、自分が被害に遭わないために話を合わせるのも処世術だけど、「それは違うと思う」と言える人は貴重だ。
大体の人は、うまくやり過ごすためにその場で話を合わせるだろう。
私はぶっちゃけ、人に嫌われるのに慣れちゃったし、嫌な人に嫌われても別にいいやと思っているので、気兼ねなく人に意見したいと思っていた。
そのほうがあとでモヤモヤしないし、自分の誇りも守れる。
「私も前の会社で悪口言われてたけど、他人の悪口ばっかり言う人は、その口の悪さで身を滅ぼすよ。周りがその人を避けていく。気がつけば孤立しているか、同族の仲間しか残っていない。その〝仲間〟は調子のいい時だけ話を合わせて、困った時には絶対に助けず、いの一番に逃げてく。まともな感覚の人は、もうすでにその異常性に気付いて距離を取ってる」
五十嵐さんは頷く。
「中にはそういう〝仲間〟でも、助け合ってるか分からないけどね。でも、五十嵐さんが仲良くしたいのは、〝そういう人〟たちじゃないでしょ?」
その問いに、彼女はしっかり頷いた。
「うん。もう風見鶏みたいな友達はいらない。私の事を真剣に心配してくれる、本当の友達がいい。尊敬できる人で、『その人みたいになりたい』って思える人。中学生女子みたいに、誰かがちょっとでも目立ったら全員で無視するような、子供っぽい人は要らない」
きっぱり言い切った彼女に、私は手でグーを作って突きだした。
「よし、その意気でいこう!」
「ん!」
二人して、トンッと拳を合わせる。
「『自分の周り五人の平均が、自分』。……私はまだまだ、理想の自分になれていない。でも折原さんみたいな人と付き合っていけるように、レベルアップのための努力はできる。健康的な生活を始めたし、こないだジムにも入会した」
「おっ、いいね!」
私はニカッと笑ってサムズアップする。
「まだまだプロポーションは変わっていないし、筋トレも軽い重りで精一杯。でも、『自分磨きのために何かをやれてる』っていう満足感はある。何もしないでスマホ弄って、好きでもない相手と付き合ってるより、鍛える人に交じって、『意識高い系の事ができてる』って思えるほうがずっといい」
「うんうん。動機は何でもいいよ。自分のテンションがアガるように生きていこう。でも、ずっと気持ちを張り詰めさせて頑張ってると、いつか糸がプツッといっちゃうから、適度に自分にご褒美あげてね」
私が彼女のケーキを指さすと、五十嵐さんは嬉しそうに笑ってケーキを頬張った。
そのあと、おずおずと話しかけてきた。
0
お気に入りに追加
1,819
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R-18・短編】部長と私の秘め事
臣桜
恋愛
彼氏にフラれた上村朱里は、酔い潰れていた所を上司の速見尊に拾われ、家まで送られる。タクシーの中で元彼との気が進まないセックスの話などをしていると、部長が自分としてみるか?と言い……。
かなり前に企画で書いたものです。急いで一日ぐらいで書いたので、本当はもっと続きそうなのですがぶつ切りされています。いつか続きを連載版で書きたいですが……、いつになるやら。
ムーンライトノベルズ様にも転載しています。
表紙はニジジャーニーで生成しました
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。
風
恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。
飼主さんが大好きです。
グロ表現、
性的表現もあります。
行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。
基本的に苦痛系のみですが
飼主さんとペットの関係は甘々です。
マゾ目線Only。
フィクションです。
※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる