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妊娠・出産 編
はいっ、お土産!
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後日。
「はいっ、お土産!」
私の前には困惑顔の五十嵐さんがいる。
以前に会った時より、健康的そうで何よりだ。
「あ、ありがと……」
「クッキー詰め合わせと、ハワイ限定の紅茶。あとは可愛いエコバッグ」
「……沢山ありがとう。なんか、ごめん」
「ううん」
私たちはカフェにいて、私は気を抜かずにハーブティーのみのオーダーだ。
五十嵐さんはカフェモカにケーキセットを頼んでいて、「うんうん、美味しく食べてね」と鉄の心で微笑んでいる。
「結婚式でご祝儀も包んでなかったのに、お土産もらって何か悪い」
「あー、それは呼べなかったこっちの事情もあるし、気にしないで。むしろ気を遣わせてごめん。お土産は、どうせまた会うし、それなら渡したいなって思っただけ」
結婚して新婚旅行に行ったと分かっているのに、お土産なしというのも気まずい。
たとえご祝儀をもらっていなくても、旅行に行ったと分かっている人と会うなら、何かしらお土産を渡した方がスマートだと思った。
「その後、どう?」
実は彼女の事、ずっと気になっていた。
例の変な男どもと縁が切れたのは良かったけど、再就職先とか、その後の生活をうまく変えられているかとか、ちょいちょい気になっていた。
あんまり人にお節介を焼きすぎるのもいけないと、ハワイで思い知ったはずだ。
それでもやはり、自分が彼女の人生に踏み入ってしまった自覚はある。
だから彼女が一人で進めるようになるまでは、様子を窺っておきたいなと思った。
「うん……、まあまあ」
そう答えた表情が、やや満足げなので私も安心した。
「良かった」
「新しく勤め始めた会社、久賀城ホールディングスの子会社なの。……折原さん、副社長に何か言ってくれた?」
「え? 言ってない」
あのあと五十嵐さんの話題にならなかったので、本当に何も知らない。
「そっか……。……あのね、あれからほどなくして、副社長から連絡があって、『まじめに働く気があるなら、この会社の面接を受けろ』って」
「へええ……。そうなんだ……」
あれだけやだやだ言っておいて、正樹はちゃんとアフターケアをしてくれていた。
「……そのあと、メッセージでお礼は言って既読にはなったんだけど、返事はもらえてなくて。……折原さんから副社長に、『ありがとうございます』って伝えておいてくれるかな?」
「うん、分かった」
ほっこり気持ちが暖かくなり、私は微笑む。
「いやぁ、良かった」
ニコニコして言うけれど、五十嵐さんは微妙な表情だ。
「どしたの?」
「んー……」
彼女はせっかくのケーキを、あまりその気がなさそうにつついて口に入れ、モグモグする。
嚥下して少ししてから、自嘲めいた表情になった。
「前の会社の同僚に、嫌な噂を流されてる」
「あー……」
何となく経緯が分かって、私は渋い顔で頷いた。
「まあ、自業自得だからいいんだけどさ」
そう言えている彼女は、以前よりずっと大人っぽく落ち着いたように見えた。
「噂の中身は、自業自得もあるし、尾ひれ背びれがついたのもある。新しい会社の人にまで、それを伝えてくる人もいる。……まー、私、本社ではぶりっこキャラで男性を弄んでいい気になってたから、女性社員に嫌われてたんだろうね」
あの混乱していた状態から、よくそこまで自己分析できるようになったな、と、上から目線だけれど彼女の成長に驚いている。
「そういうの、私も経験あるけど、放っておくしかないよ。必死になって否定するほど、向こうは喜ぶもん。『見て見て~、必死に言い訳してる』って、酒の肴になるのが目に見えてる」
「……だね。私もそう思った」
五十嵐さんは溜め息をつき、髪を掻き上げる。
「……私、折原さんに対しても〝そう〟だった。浜崎を奪われたくなくて、嫌な女だっていう証拠を掴んで、未練がありそうな彼に突きつけてやろうと思ってた。だから、SNSとかも見張ってたんだ。嫌っているくせに、放っておけなくて気になって仕方がなくて、依存症みたいにあなたの事ばかり気にしてた。……ごめん」
「ううん、終わった事だしそこまで掘り返して反省しなくていいよ。反省は大事。でも、何度も振り返って反省しすぎると、罪悪感や負のループから抜けられなくなるから、落ち込むのはせいぜい長くて三日から一週間ぐらいにしとこ。大事なのは改善。精神的に自分を責め続けても何の解決にもならないよ。むしろやる気が奪われてコスパが悪い」
「はいっ、お土産!」
私の前には困惑顔の五十嵐さんがいる。
以前に会った時より、健康的そうで何よりだ。
「あ、ありがと……」
「クッキー詰め合わせと、ハワイ限定の紅茶。あとは可愛いエコバッグ」
「……沢山ありがとう。なんか、ごめん」
「ううん」
私たちはカフェにいて、私は気を抜かずにハーブティーのみのオーダーだ。
五十嵐さんはカフェモカにケーキセットを頼んでいて、「うんうん、美味しく食べてね」と鉄の心で微笑んでいる。
「結婚式でご祝儀も包んでなかったのに、お土産もらって何か悪い」
「あー、それは呼べなかったこっちの事情もあるし、気にしないで。むしろ気を遣わせてごめん。お土産は、どうせまた会うし、それなら渡したいなって思っただけ」
結婚して新婚旅行に行ったと分かっているのに、お土産なしというのも気まずい。
たとえご祝儀をもらっていなくても、旅行に行ったと分かっている人と会うなら、何かしらお土産を渡した方がスマートだと思った。
「その後、どう?」
実は彼女の事、ずっと気になっていた。
例の変な男どもと縁が切れたのは良かったけど、再就職先とか、その後の生活をうまく変えられているかとか、ちょいちょい気になっていた。
あんまり人にお節介を焼きすぎるのもいけないと、ハワイで思い知ったはずだ。
それでもやはり、自分が彼女の人生に踏み入ってしまった自覚はある。
だから彼女が一人で進めるようになるまでは、様子を窺っておきたいなと思った。
「うん……、まあまあ」
そう答えた表情が、やや満足げなので私も安心した。
「良かった」
「新しく勤め始めた会社、久賀城ホールディングスの子会社なの。……折原さん、副社長に何か言ってくれた?」
「え? 言ってない」
あのあと五十嵐さんの話題にならなかったので、本当に何も知らない。
「そっか……。……あのね、あれからほどなくして、副社長から連絡があって、『まじめに働く気があるなら、この会社の面接を受けろ』って」
「へええ……。そうなんだ……」
あれだけやだやだ言っておいて、正樹はちゃんとアフターケアをしてくれていた。
「……そのあと、メッセージでお礼は言って既読にはなったんだけど、返事はもらえてなくて。……折原さんから副社長に、『ありがとうございます』って伝えておいてくれるかな?」
「うん、分かった」
ほっこり気持ちが暖かくなり、私は微笑む。
「いやぁ、良かった」
ニコニコして言うけれど、五十嵐さんは微妙な表情だ。
「どしたの?」
「んー……」
彼女はせっかくのケーキを、あまりその気がなさそうにつついて口に入れ、モグモグする。
嚥下して少ししてから、自嘲めいた表情になった。
「前の会社の同僚に、嫌な噂を流されてる」
「あー……」
何となく経緯が分かって、私は渋い顔で頷いた。
「まあ、自業自得だからいいんだけどさ」
そう言えている彼女は、以前よりずっと大人っぽく落ち着いたように見えた。
「噂の中身は、自業自得もあるし、尾ひれ背びれがついたのもある。新しい会社の人にまで、それを伝えてくる人もいる。……まー、私、本社ではぶりっこキャラで男性を弄んでいい気になってたから、女性社員に嫌われてたんだろうね」
あの混乱していた状態から、よくそこまで自己分析できるようになったな、と、上から目線だけれど彼女の成長に驚いている。
「そういうの、私も経験あるけど、放っておくしかないよ。必死になって否定するほど、向こうは喜ぶもん。『見て見て~、必死に言い訳してる』って、酒の肴になるのが目に見えてる」
「……だね。私もそう思った」
五十嵐さんは溜め息をつき、髪を掻き上げる。
「……私、折原さんに対しても〝そう〟だった。浜崎を奪われたくなくて、嫌な女だっていう証拠を掴んで、未練がありそうな彼に突きつけてやろうと思ってた。だから、SNSとかも見張ってたんだ。嫌っているくせに、放っておけなくて気になって仕方がなくて、依存症みたいにあなたの事ばかり気にしてた。……ごめん」
「ううん、終わった事だしそこまで掘り返して反省しなくていいよ。反省は大事。でも、何度も振り返って反省しすぎると、罪悪感や負のループから抜けられなくなるから、落ち込むのはせいぜい長くて三日から一週間ぐらいにしとこ。大事なのは改善。精神的に自分を責め続けても何の解決にもならないよ。むしろやる気が奪われてコスパが悪い」
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