【本編完結】【R-18】逃れられない淫らな三角関係~美形兄弟に溺愛されています~

臣桜

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ハワイ 編

疲れた

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 ぼんやりと海の彼方を見て、私は涙を流す。

「……ずっと、怒りがあったのかもしれない。高校生時代に『変わろう』って思ったあと、頑張った結果、一部の人から憎まれるようになった。『これだけ頑張ってるのに』って周りに伝えようとしても〝努力アピール〟になっちゃう。何も言わなければ、『楽して幸せになったずるい奴』ってレッテルを貼られて、好き放題言われる」

「そんなもんだよねぇ」

 正樹が小さく笑う。

「文句を言う人は放っておこうって、文香と一緒に楽しい事ばかりしていたら、文香まで悪く言われるようになった。地元が埼玉で実家は二世帯と知った人から、地元や家族まで悪く言われるようになった。ただ、自分の幸せと目標、夢を追い求めているだけなのに、生きているだけで罪みたいに言われる。……それが、ずっと続いた。……勿論、全員じゃない。いい人と仲良くなれた。けど、信用するまでとても時間が掛かった。ずっと人を疑い続けるのがつらくて、それなら全員に対して平等に、〝作り上げたキャラクター〟で接したら楽になれるんじゃないか、って思ってしまった」

 そして〝営業部の折原さん〟ができあがった。

 ハキハキして行動的で、負けず嫌いで豪快で、竹を割ったような性格。
 嫌がらせをされても傷付かず、仕事で見返して美味しいお酒を飲んで、最高の親友と笑い合う。

〝営業部の折原さん〟が好かれ、憎まれるほど、キャラクターの設定は深まり、自分を守るコーティングも固くなっていった。

「嘘をついたつもりじゃなかったの。強くなるために勉強したし、鍛えた。曲がった事はせず、誇りのままに生きた。……ただ、そうするうちに本当の自分の性格とか、本当はどんな女性になりたかったのかとか、分からなくなった。『ポジティブに、皆が憧れる姿に』っていう気持ちが私を支配して、本当はどうしたかったのか迷子になった」

 溜め息をつき、私は波に揺られて水中花のようにそよぐワンピースの裾を見る。

「本当は途中で、『もうやだ!』って地団駄踏んで我が儘言いたかったのかもしれない。営業の仕事だって、うまくいかない事は勿論あった。その時『挽回しよう!』って爽やかに言うんじゃなくて、居酒屋で悪態ついてくだ巻きたかった。初めて五十嵐さんにあれこれされた時だって、本当はビンタして罵詈雑言浴びせてやりたかった。……でも、大人だから。皆の理想の〝折原さん〟は、そんな事をしないから我慢してた。きっと私は、皆が望む振る舞いを本能で分かっていた」

 そこまで言い、私はエネルギー切れのロボットのように息をついて言葉を止めた。

 しばらく三人とも、海に身を浸したまま黙る。

 やがて、私は呻くように言う。

「……本当はもっと我が儘を言いたかった。佐藤さんや五十嵐さんみたいに、ネガティブな事でも、思った事をそのまま言える人を羨む気持ちもあったのかもしれない」

「ま、それってやったらアウトなやつだけどな。フツーの大人は我慢する」

 慎也が苦笑する。

「皆、何かを我慢して生きているのは分かってる。自分だけがつらいんじゃない。けど、『こんなに頑張ってるのに、どうして悪く言われなきゃいけないんだろう? 理不尽だ』っていう思いがあった。〝出る杭は打たれる〟って、『出るために沢山努力したのに、どうして打たれなきゃいけないの?』って思った」

「世の中、理不尽だらけだよね」

 正樹が笑い、言った。

「頑張りすぎて疲れちゃったんだね。よく頑張ったと思うよ。ダイエットだって、価値観や考え方を変える事って、生半可な努力じゃできない。努力って楽しくないでしょ? 我慢して何かを自分に課し続けるって、しんどいよ。いい人であるのも、ポジティブに考えるのも、嫌な事を笑い飛ばす事だって、そうなれるまでに沢山の我慢と努力があったはずだ」

 疲れた。

 その言葉が心に染み入る。

「……そうだね。私、疲れたんだと思う」

 ぼんやりと海を見ながら、私は覇気なく呟く。

「優美はいつも、期待以上のパフォーマンスを出そうとしていた。素通りすればいいのに手を差し伸べ続けた。君は聖女じゃない。困っている人の前を通り過ぎても、誰も責めない」

 慎也に言われ、私は苦笑する。

「……〝いい人〟でありたかったのになぁ」

 諦めたように笑う私は、〝強い女〟の〝営業部の折原さん〟が自分から少し離れた場所にいるのに気づいた。

 彼女は本当の私じゃない。

 認めたくなかったけど、素の私は〝違う〟。

「善く、理想でありたかった。『さすがだね』って言われたかった。頼られて甘えられて、好かれたかった」

 ――でも、私はそういうキャラじゃない。

 ポロッと涙を零し、笑う。

 まるで頑張って稼いできた実業家が、「私は成金です」って言うようなものだ。

 そんな私の肩を、正樹がポンポンと叩いた。

「そういうのは専門家に任せようよ。人を導く各ジャンルのプロがいる。一般人は道ばたで困った人を見かけたら、ちょっと手伝いするぐらいでいいんだよ。『自分なら何かできる』『自分が解決してあげたい』は、悪いけど傲慢だよ」
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