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ハワイ 編

無理してない?

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「お陰様で!」

「二回目の結婚、しっかり楽しんだよ」

 私と正樹が明るく返事したので、慎也も「そっか」と嬉しそうに笑ってくれた。

「しかしすっごい部屋だねぇ……」

 多分スイートルームで、白いソファに大きな液晶テレビがあるのはテンプレとして、メインとなるのは半分外になっているテラスルームだ。

 そこから直接、プライベートプールに入れる白い階段がある。
 そして広々としたテラスには円形のジェットバスがあるほか、ダイニングテーブルもあって、インフィニティプールの向こうにある海を眺めながら食事ができる。
 一階にはバス洗面所、独立したお手洗い、キッチンやバーカウンターがあり、ベッドルームもある。
 さらに上への階段があり、一階よりやや面積の狭い二階にはベッドルームとリビングがある。

「三人で三泊するなら丁度いいだろ」

 微笑む慎也の顔が……意味深だ。

 今夜、三人での初夜になるんだ。

 そう思うとようやく〝ゴール〟に思え、私は吐息混じりに笑う。
 そして、三人での初夜を迎える前に、自分と向き合って気持ちを落ち着けたいと思った。

「ねぇ、ちょっと散歩行ってきていい?」

「僕らも行くよ」

「ううん。ちょっと一人がいい」

 そう言うと、今までずっと誰かと一緒だったとすぐに理解し、二人は快く送り出してくれた。

 心配性な慎也に、「変な男についていくなよ」とは釘を刺されたけど。



**



 彼らは部屋にいるらしいので、私は手ぶらで外に出た。

 こっちにいると毎日サンサンといい日差しがあるので、せっせと日焼け止めを塗るのがアホらしく思えてくる。
 ずっとハワイにいるなら気にする事もないんだろうけど、日本に帰ったらまた美白ケアにこだわるなら、やらないと……という感じで塗り続けている。

 文香さまはハワイに来てまでアームカバーはしていないけれど、帽子とサングラスはしっかりだ。
 彼女は日本では日傘にアームカバー、帽子、サングラスと抜かりがない。

 そういえば、文香はどこいったかな?

 ハワイ島に来るのも一緒だったと思ったけど。

 メインは新婚旅行なので、「基本的に邪魔はしないよ」と言っていた。
 けど「息抜きに遊びたい時はいつでも呼んで」と言ってくれていたので、どこでも応じてくれる彼女にとても感謝している。

 海の側まで来ると、屋根のあるベッドが幾つか並び、そこでカップルがのんびりとしていた。
 端っこのベッド空いてるから、使わせてもらおうかな……と思った時、その隣に文香と和人くんを見つけて嬉しくなった。

「よっ」

 声を掛けると、サングラスを外した文香が笑顔になった。

「よっ。元気?」

「元気! ……だけど、ちょっと疲れてるわ」

「あはは! お疲れさん。でも今夜からもっと疲れるんでしょ?」

 言葉の裏でドシモを言い、私たちは笑い合う。
 横にいる和人くんはちょっと居心地悪そうにしていて、申し訳ない。

「そうなんだけどさ~」

 私が隣のベッドに腰掛けると、文香がこっちに移動してきた。
 そして二人してベッドの上に寝そべり、海を眺めながら話をする。最高。

「……無理してない? 大丈夫?」

 文香は私の髪を撫でつけて耳に掛け、優しい声で尋ねてくる。

「うん。大丈夫。幸せだよ」

「それならいいんだけど」

 彼女はさらに私の頭を撫で、手を握ってきた。
 目を閉じて波の音に耳を澄まし、しばらく二人とも黙る。

「あんたは人の期待に応えようとして、つい頑張っちゃう子だからねぇ」

 しみじみと言った文香の言葉が、胸の奥に染み入る。

「……チャレンジと無理は、紙一重かな?」

「そうでない? 苦しさを『楽しい』と思えているうちはいいけど、本当はつらいのに自分を欺し欺しやっていたら、それはもう〝無理〟だよ。そんで、その境界ってとても曖昧だと思う。好きな事をしている時は、自分の負担に気付きにくい」

 文香は私の毛先をいじり、三つ編みをし始める。

「あんた一人が、あの二人を『幸せにしないと!』って頑張らなくていいんだからね。あいつらはもう大の大人だし、自分の機嫌ぐらい自分でとれる財力も行動力もある。仕事の能力もあるし、男としての格が高い。優美が世話を焼かなきゃって思う以上に、手が掛からない奴らだと思うよ」
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