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ハワイ 編

せっかくのハワイだし!

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「私たち、世間的にはアラサーだけど、全然大人じゃないじゃん。でも年下から見たら〝大人〟って思われて、既婚者って言ったら〝落ち着いてる〟とか思われるんだよ。すぐ変われないのは、自分が一番分かってるはず。私が意識改革できたのだって数日じゃ無理。自分に呪いを掛ける自分と戦って何年も経って、気がついたら山の中腹にいる感じになる。『そういえば最近、すぐに弱音吐いたり〝どうせ私なんて〟って思わなくなったな』って気付くの。全部、そういうのの繰り返しだよ」

 正樹は表情を和らげ、私を見て微笑む。

「……良かった。何か、『僕だけ相応しくなかったらどうしよう』って思ってた」

 彼の言葉を聞いて、私はドンと胸を拳で叩く。

「だいじょーぶ! 私たち三人、同じだよ。数日スタートラインが違うけど、ほぼ同じ。この旅行が終わったら、またあのマンションで暮らすし、毎日の生活が続いていくだけ。その中で、何かがあったら皆で解決していく。そんだけ」

 それに慎也も頷いた。

「妊娠したら子供が生まれて〝変化〟が続いていく訳だけど、新しい出来事を拒否できる人生なんてないもんな。どんな人の人生にも、行く先には待ち構える扉がある。避ける事はできなくて、どんどん前に進んでいかないといけない。だから、そん時はそん時だ」

 慎也はエッグベネディクトを口に入れ、モグモグしながら正樹の背中をポンと叩く。

「あんまり深く考えんなよ。ハゲるぞ?」

「それは困る!」

 頭を押さえた正樹が真顔で言うので、私は噴き出してしまった。

「ちょっと優美ちゃん、笑わないでよ。僕、慎也より毛量少ないし、髪も柔らかいから心配なんだって」

「お義父さんフサフサじゃん。お義祖父さんも。大丈夫だって」

「ハゲたら男性ホルモンが強い証拠なんだってさ」

「適当言うなよ慎也……」

 会話が明るい方向に向き、私はホッとしていた。

 今日の午後にはマウイ島に向けて移動して、そのあとは結婚式の準備で忙しい。
 楽しい事や幸せな事はあっという間に過ぎてしまうから、考えすぎるのは勿体ない。
 今はただ、脳みそを空っぽにして「幸せだな~」とだけ感じていたい。

 せっかくのハワイだし!

 パンケーキの美味しさに表情を緩ませた私は、結婚式が終わった後にやってみたいアクティビティを話し始めた。



**



 チェックアウトしたあとホノルル空港に向かって、諸々の手続きを済ませたあと、マウイ島に向けて飛行機は離陸した。

 四十分ほどでマウイ島に着き、私たちは車に乗ってホテルまで向かう。

 やっぱりビーチ沿いの高級リゾートホテルで、私と慎也は同じ部屋に入った。

 お昼過ぎだったので、すぐ正樹と合流して、海を望むお店沿いをブラブラ歩き、ハンバーガーのお店に入った。
 家族たちは別行動で、食後、私たちはホテルの庭を歩き、明日のガーデンチャペルとなる場所を確認した。

「景色いいねぇ! 目の前が海! サイコー!」

 私はすぐスマホで写真を撮る。

「明日、正樹とここで結婚式かー! 楽しみだね!」

 潮風を浴びながら笑いかけると、彼も明るい表情で頷く。

「うん。……あー……。優美ちゃんと結婚かぁ。好きな子と結婚するの初めてだ」

 いや、その言い方は色々語弊がある。

 利佳さんとの結婚式は、チラッと聞いた限り都内の高級ホテルで盛大に挙げて、ハネムーンは海外で……のパターンだったらしい。
 王道パターンだし、同じホテルじゃなかったし、対して気にしてない。

 けど、私との式を「良かったな」って思ってくれたらいいな、と望んでる。

「幸せになろうぜ」

 私は正樹の腰を抱き、彼を見上げてニッと笑う。

「うん」

 正樹は目を細めて笑い、私にキスしてくる。
 そんな私の腰を反対側から慎也が抱き、「俺もな」と私のこめかみに唇をつけた。

 ホテルの建物は高層階だけど、目の前にはどこまでも広がる空と海がある。
 絶え間なく波の音が聞こえ、暖かな空気と湿度、匂いとに異国を感じる。

「……遠くまできたけど、出会ってから一年、スピード婚だったね」

「濃密な一年だったねぇ。僕、この一年で凄い変われた気がするよ。そんでもって、人を好きになる事、大切にする事についてすっごく考えた。その裏側で、自分自身も大切にしなきゃいけないんだって教えられた」

 そういった正樹は、遙か遠くを見て様々な表情を込めて微笑んでいる。

「『他人に言うは易し』で、第三者になら偉そうに言えたのに、僕は僕自身をないがしろにしすぎてた」

 彼は私の肩を組み、ポンポンと軽く叩く。

「そろそろ悲劇の主人公ぶるのやめて、家庭を持って幸せになる覚悟を持たないと。……まだ怖いし、たまにグチグチ言うかもしれないけど、僕は二人と一緒に前に進みたい。明るい場所で幸せになりたい」

 彼の言葉を聞き、私は切なく微笑む。

 正樹にとって、大きな一歩を踏み出す気持ちなんだろう。

 利佳さんとの結婚生活は、収入を得て家庭を支える意味では責任を果たしていたけど、夫としてはほぼ機能していなかっただろう。
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