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ハワイ 編
まだ実感が湧かないんだよ
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「来ちゃったの? ゆっくりしてたら二人が来たから、ヤバイと思って新聞で顔隠してたのに」
「何でそういう事言うの? おいでよ」
ツンツンと正樹のTシャツの袖を引っ張ると、彼はまた苦笑いして立ち上がった。
新聞を軽く畳み、彼は一緒に私たちの席までくる。
「おはよ」
「ん、おはよう」
正樹は一瞬迷ったあと、慎也の隣に腰掛けた。
遠慮してるなぁ……。
「正樹はいつ来たの?」
「んー、僕、朝はちょっと走ってた。で、シャワー浴びてここに来たのが八時半ぐらいかな」
「じゃあ、そんなに違わないんだ」
「僕が来た頃は他の皆もチラホラいたけど、食べ終わったあとに散歩に行ったみたい」
「そっか」
私はスクランブルエッグを食べ、頷く。
「気付いてて声かけてくれなかったの? 遠慮してたの?」
ズバッと言うと、正樹は動揺して横を向く。
「今さら何なの? 夜ならともかく、明るい時まで気配を殺そうとしなくていいんだよ?」
「ん、んー……」
正樹は曖昧な返事をしてから、スタッフを呼んでコーヒーを頼む。
「……昨晩、聞こえてた?」
急に慎也が直球を投げたので、私も正樹も咳き込みかけた。
「……まー、ちょっとは」
「ご、ごめん!」
思わず私は小さな声で謝り、さすがに赤面して俯く。
いつも現場に正樹もいるから、別の場所にいる彼に聞かれてるって、すっごい変な気持ちだ。
「……いや、あれはあれで寝取られみたいで興奮したけどね」
ああ、安定の正樹がいる。
「でも壁に耳つけたりしてないから、安心して」
……ちょっとずつ調子が出てきましたね。
その時、私のパンケーキが運ばれてきた。
プレートに、薄いパンケーキが五枚ぐらい斜めに重なっている。
上には粉砂糖やアーモンド、エディブルフラワーにフルーツがふんだんにのっていて豪華だ。
ハワイ発祥で日本で流行してるお店では、これでもか! ってぐらい生クリームがのってたけど、目の前にあるパンケーキは隅っこに良心的な量だ。
メープルシロップとバターも用意されてるから、色んな味で楽しめそうだ。
「いただきまーす。あっ、写真!」
大切な事を思いだし、私はスマホを出して綺麗なパンケーキを撮影する。
そのあと「あ」と思って、席から立って二人の後ろに行くと、インカメラにして「はい、撮るよー」と三人で記念撮影した。
「急だな」
慎也が思わず笑い、今になって寝癖がないか頭に手をやって確かめている。
ちなみに慎也は正樹に比べて寝癖が自由奔放なタイプだ。
「せっかくの新婚旅行だし、思い出は残しておかないと」
それから海も写しておいた。
慎也のエッグベネディクトも運ばれてきて、私たちは食事を始める。
正樹は少し黙っていたけど、ポツリと呟いた。
「結婚一日前なのに何言ってんだって言われるかもだけど、まだ実感が湧かないんだよ」
彼は自分の弱さをさらけ出して、皮肉げに唇を歪ませている。
「私も慎也も一緒だから、大丈夫だよ」
パンケーキをモグモグしながら私がケロリとして言ったからか、正樹は目を丸くして私を見てくる。
「……マジ?」
「マジ」
慎也が挙手して頷く。
「……だって、結婚したじゃん。籍入れたし、昨晩だって……」
正樹はめちゃくちゃ困惑した顔をしている。
何となく分かるし、「そうじゃないんだよな」っていう気持ちもある。
「何があっても〝昨日の続きは今日〟なんだよ。籍入れたからって、ガラッと急に何かが変わる訳じゃない。結婚式もそう。成人式もだけど、結局はセレモニーじゃん。『私たち、結婚しました。どうぞ宜しくお願いします』って周りの人に伝えるための式。結婚式挙げて、二人の意識がガラッと変わるならそれはちょっと何か……怖いよ。謎のヤバイ儀式じゃん」
私が言った向かいで慎也が頷き、あとを引き受ける。
「正樹だって、大学卒業して会社入って、すぐに責任ある考え方ができるようになった訳じゃないだろ? 幾ら優秀でも、副社長になってすぐ仕事ができた訳じゃない」
「……そうだね。肩書きはあっても、中身がすぐ伴う訳じゃない」
理解した彼に、私は頷いて笑いかける。
「何でそういう事言うの? おいでよ」
ツンツンと正樹のTシャツの袖を引っ張ると、彼はまた苦笑いして立ち上がった。
新聞を軽く畳み、彼は一緒に私たちの席までくる。
「おはよ」
「ん、おはよう」
正樹は一瞬迷ったあと、慎也の隣に腰掛けた。
遠慮してるなぁ……。
「正樹はいつ来たの?」
「んー、僕、朝はちょっと走ってた。で、シャワー浴びてここに来たのが八時半ぐらいかな」
「じゃあ、そんなに違わないんだ」
「僕が来た頃は他の皆もチラホラいたけど、食べ終わったあとに散歩に行ったみたい」
「そっか」
私はスクランブルエッグを食べ、頷く。
「気付いてて声かけてくれなかったの? 遠慮してたの?」
ズバッと言うと、正樹は動揺して横を向く。
「今さら何なの? 夜ならともかく、明るい時まで気配を殺そうとしなくていいんだよ?」
「ん、んー……」
正樹は曖昧な返事をしてから、スタッフを呼んでコーヒーを頼む。
「……昨晩、聞こえてた?」
急に慎也が直球を投げたので、私も正樹も咳き込みかけた。
「……まー、ちょっとは」
「ご、ごめん!」
思わず私は小さな声で謝り、さすがに赤面して俯く。
いつも現場に正樹もいるから、別の場所にいる彼に聞かれてるって、すっごい変な気持ちだ。
「……いや、あれはあれで寝取られみたいで興奮したけどね」
ああ、安定の正樹がいる。
「でも壁に耳つけたりしてないから、安心して」
……ちょっとずつ調子が出てきましたね。
その時、私のパンケーキが運ばれてきた。
プレートに、薄いパンケーキが五枚ぐらい斜めに重なっている。
上には粉砂糖やアーモンド、エディブルフラワーにフルーツがふんだんにのっていて豪華だ。
ハワイ発祥で日本で流行してるお店では、これでもか! ってぐらい生クリームがのってたけど、目の前にあるパンケーキは隅っこに良心的な量だ。
メープルシロップとバターも用意されてるから、色んな味で楽しめそうだ。
「いただきまーす。あっ、写真!」
大切な事を思いだし、私はスマホを出して綺麗なパンケーキを撮影する。
そのあと「あ」と思って、席から立って二人の後ろに行くと、インカメラにして「はい、撮るよー」と三人で記念撮影した。
「急だな」
慎也が思わず笑い、今になって寝癖がないか頭に手をやって確かめている。
ちなみに慎也は正樹に比べて寝癖が自由奔放なタイプだ。
「せっかくの新婚旅行だし、思い出は残しておかないと」
それから海も写しておいた。
慎也のエッグベネディクトも運ばれてきて、私たちは食事を始める。
正樹は少し黙っていたけど、ポツリと呟いた。
「結婚一日前なのに何言ってんだって言われるかもだけど、まだ実感が湧かないんだよ」
彼は自分の弱さをさらけ出して、皮肉げに唇を歪ませている。
「私も慎也も一緒だから、大丈夫だよ」
パンケーキをモグモグしながら私がケロリとして言ったからか、正樹は目を丸くして私を見てくる。
「……マジ?」
「マジ」
慎也が挙手して頷く。
「……だって、結婚したじゃん。籍入れたし、昨晩だって……」
正樹はめちゃくちゃ困惑した顔をしている。
何となく分かるし、「そうじゃないんだよな」っていう気持ちもある。
「何があっても〝昨日の続きは今日〟なんだよ。籍入れたからって、ガラッと急に何かが変わる訳じゃない。結婚式もそう。成人式もだけど、結局はセレモニーじゃん。『私たち、結婚しました。どうぞ宜しくお願いします』って周りの人に伝えるための式。結婚式挙げて、二人の意識がガラッと変わるならそれはちょっと何か……怖いよ。謎のヤバイ儀式じゃん」
私が言った向かいで慎也が頷き、あとを引き受ける。
「正樹だって、大学卒業して会社入って、すぐに責任ある考え方ができるようになった訳じゃないだろ? 幾ら優秀でも、副社長になってすぐ仕事ができた訳じゃない」
「……そうだね。肩書きはあっても、中身がすぐ伴う訳じゃない」
理解した彼に、私は頷いて笑いかける。
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