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ハワイ 編
守るものがあると強くなれる
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「うん、面倒くさい。でもそこがいいと思うよ。人間らしい。そんな正樹を気に掛ける慎也も、愛情深くていいと思うよ」
言ったあと私は振り向いて、慎也の腰の上に横向きに座る。
そして彼の首に両手を回し、キスをした。
「慎也は優しいよね」
彼はくすぐったそうに微笑む。
「そうかな。自分ではあまりそう思わないけど。好き嫌いが割と激しくて、好きな人以外にはテンプレートな対応しかしない」
先日の元カノさんとのやり取りを思い出し、私は微妙に笑う。
「それでも、優しいよ」
私はこの二十九年、そこそこ色んな人を見てきた。
中には「駄目」と思ったら、完全に相手をシャットアウトしてしまう人もいた。
それを思えばテンプレートな対応でも、きちんと相手をする慎也は誠実だと思っていた。
「優美が言うなら、そういう事にしておこうかな」
慎也は微笑み、キスをしてくる。
「結婚前、正樹がどんな弱音を吐いたか分からないけど、俺は何とかなるって思ってる」
「ん」
「正樹は波瀾万丈に生きてきて、傷付きすぎて臆病になってる。だから悲観的になる気持ちは分かるんだ。俺は繊細じゃないから、『何とかなる』って思うようにしてる。〝病は気から〟じゃないけど、『できる』って思っていたら大体できる気がするから」
「うん。そういうトコ、好きだよ」
「ありがと」
慎也はまた私にキスをする。
「俺だって優美を独り占めしたい。でも、多分俺のほうが気持ちに余裕があると思うんだ。本音を言えば、二人とも優美を求めて堪らない。けど俺は余程の事がなければ、冷静さを失わない自信がある」
そう言った彼を、とても頼もしく思った。
正樹が頼りないとかではない。
二人は兄弟だけれど、それぞれ別の人間だから比べてはいけない。
きっと、慎也の辛抱強い性格は遺伝なんだろうな、と思う。
玲奈さんを見ると、「あぁ、この人はおっとりしたお嬢様だけれど、とても芯の強そうな人だな」という印象を抱く。
多分、慎也の性格は、彼女から継がれたものなんじゃないかと思っている。
「前にも言ったと思うけど、しんどくなったらパンクする前にきちんと宣言する。優美に甘えるなり、友達と遊んで発散するよ。自分のキャパは分かっているから、そう簡単に潰れないのも分かってる」
「うん。でも無理しないでね」
「……何だろう。多分俺は、守るものがあると強くなれるタイプだと思うんだ。こんな事を言ったら、正樹の兄としての沽券に関わるかもしれないけど」
「ううん、そんな事ないよ。家族は守り合うものだもん」
慎也は微笑み、私の肩を支えた手の親指で、スリ……と肌を撫でる。
「皆が笑顔でいられたらいいなって思うよ。優美と俺の子供、正樹との子供の幸せも、全力で守っていきたい。俺は三人の中で一番年下で、まだガキっぽいところがあるかもしれない。けど、学びながら進んでいきたい。初めての事でも、皆に相談してどんどんトライしていきたい」
「うん!」
彼らしい言葉に、私は笑顔になる。
慎也は私を愛しげな目で見たあと、手を握って自分の胸板に導いた。
「俺の胸の奥には、大学三年生の時に出会った優美がいつまでも輝いている。あの時に感じた、『この人のようになりたい』っていう気持ちをずっと掲げていたい。綺麗事であっても常に理想を目指していたいんだ」
私は照れくさくなって俯き、彼に抱きつく。
「……そんな大したもんじゃないんだけどな」
「生身の優美を、決して理想化しない。ただ……、何だろうな。あの時に感じたショックにも似た、世界が変わった感覚を忘れずにいたいんだ。久賀城家の息子で、社会的地位も約束されていて、資産もそこそこある。ちょっと間違えたら鼻持ちならない奴になりそうで怖い。不安になった時、初心に返る原点として、あの時に感じた羞恥を覚えておきたい」
まじめだなぁ。
でも、そこが好きだ。
私は顔を上げ、慎也の頬を撫でる。
「慎也はきっと大丈夫だよ。そう思える人は、たとえ道を踏み外したとしても、人に何かを言われたら元に戻れる。本当に道を踏み外してずーっと行ってしまう人は、近しい人の声も、世間一般の常識も何も耳に入らないから」
いい意味でプライドの低い人は、他者の意見を聞き入れられる。
悪い意味でプライドの高い人は、自分の考えに凝り固まったまま意見を変えない。
前者の場合「良い人間でありたい」とか、「悪い所があったら改善したい」という気持ちがあるから、柔軟に自分をアップデートできるんだと思う。
他人の意見を聞き入れる事や、自分の失敗を認めるのを恥としている人は、後者になりやすい。
後者の場合、表向き素直に「ごめんなさい、その通りですね」と合わせられても、裏で「自分にこんな注意をした」といつまでも根に持つ人がいる。
そこは私も、気をつけていきたいなと思っている。
言ったあと私は振り向いて、慎也の腰の上に横向きに座る。
そして彼の首に両手を回し、キスをした。
「慎也は優しいよね」
彼はくすぐったそうに微笑む。
「そうかな。自分ではあまりそう思わないけど。好き嫌いが割と激しくて、好きな人以外にはテンプレートな対応しかしない」
先日の元カノさんとのやり取りを思い出し、私は微妙に笑う。
「それでも、優しいよ」
私はこの二十九年、そこそこ色んな人を見てきた。
中には「駄目」と思ったら、完全に相手をシャットアウトしてしまう人もいた。
それを思えばテンプレートな対応でも、きちんと相手をする慎也は誠実だと思っていた。
「優美が言うなら、そういう事にしておこうかな」
慎也は微笑み、キスをしてくる。
「結婚前、正樹がどんな弱音を吐いたか分からないけど、俺は何とかなるって思ってる」
「ん」
「正樹は波瀾万丈に生きてきて、傷付きすぎて臆病になってる。だから悲観的になる気持ちは分かるんだ。俺は繊細じゃないから、『何とかなる』って思うようにしてる。〝病は気から〟じゃないけど、『できる』って思っていたら大体できる気がするから」
「うん。そういうトコ、好きだよ」
「ありがと」
慎也はまた私にキスをする。
「俺だって優美を独り占めしたい。でも、多分俺のほうが気持ちに余裕があると思うんだ。本音を言えば、二人とも優美を求めて堪らない。けど俺は余程の事がなければ、冷静さを失わない自信がある」
そう言った彼を、とても頼もしく思った。
正樹が頼りないとかではない。
二人は兄弟だけれど、それぞれ別の人間だから比べてはいけない。
きっと、慎也の辛抱強い性格は遺伝なんだろうな、と思う。
玲奈さんを見ると、「あぁ、この人はおっとりしたお嬢様だけれど、とても芯の強そうな人だな」という印象を抱く。
多分、慎也の性格は、彼女から継がれたものなんじゃないかと思っている。
「前にも言ったと思うけど、しんどくなったらパンクする前にきちんと宣言する。優美に甘えるなり、友達と遊んで発散するよ。自分のキャパは分かっているから、そう簡単に潰れないのも分かってる」
「うん。でも無理しないでね」
「……何だろう。多分俺は、守るものがあると強くなれるタイプだと思うんだ。こんな事を言ったら、正樹の兄としての沽券に関わるかもしれないけど」
「ううん、そんな事ないよ。家族は守り合うものだもん」
慎也は微笑み、私の肩を支えた手の親指で、スリ……と肌を撫でる。
「皆が笑顔でいられたらいいなって思うよ。優美と俺の子供、正樹との子供の幸せも、全力で守っていきたい。俺は三人の中で一番年下で、まだガキっぽいところがあるかもしれない。けど、学びながら進んでいきたい。初めての事でも、皆に相談してどんどんトライしていきたい」
「うん!」
彼らしい言葉に、私は笑顔になる。
慎也は私を愛しげな目で見たあと、手を握って自分の胸板に導いた。
「俺の胸の奥には、大学三年生の時に出会った優美がいつまでも輝いている。あの時に感じた、『この人のようになりたい』っていう気持ちをずっと掲げていたい。綺麗事であっても常に理想を目指していたいんだ」
私は照れくさくなって俯き、彼に抱きつく。
「……そんな大したもんじゃないんだけどな」
「生身の優美を、決して理想化しない。ただ……、何だろうな。あの時に感じたショックにも似た、世界が変わった感覚を忘れずにいたいんだ。久賀城家の息子で、社会的地位も約束されていて、資産もそこそこある。ちょっと間違えたら鼻持ちならない奴になりそうで怖い。不安になった時、初心に返る原点として、あの時に感じた羞恥を覚えておきたい」
まじめだなぁ。
でも、そこが好きだ。
私は顔を上げ、慎也の頬を撫でる。
「慎也はきっと大丈夫だよ。そう思える人は、たとえ道を踏み外したとしても、人に何かを言われたら元に戻れる。本当に道を踏み外してずーっと行ってしまう人は、近しい人の声も、世間一般の常識も何も耳に入らないから」
いい意味でプライドの低い人は、他者の意見を聞き入れられる。
悪い意味でプライドの高い人は、自分の考えに凝り固まったまま意見を変えない。
前者の場合「良い人間でありたい」とか、「悪い所があったら改善したい」という気持ちがあるから、柔軟に自分をアップデートできるんだと思う。
他人の意見を聞き入れる事や、自分の失敗を認めるのを恥としている人は、後者になりやすい。
後者の場合、表向き素直に「ごめんなさい、その通りですね」と合わせられても、裏で「自分にこんな注意をした」といつまでも根に持つ人がいる。
そこは私も、気をつけていきたいなと思っている。
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