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入籍 編

慎也と水族館デート

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「待っててね」

「分かった」

 そしてホテル前で私と慎也はタクシーに乗り、場所を変える事にする。

「お兄ちゃん、寂しいなら私がデートしてあげるよ」

 後ろで未望ちゃんが正樹の腕を組む。

 正樹が笑っているのを見て、私は周囲の理解者のありがたみを感じるのだった。



**



 私と慎也は品川までいって、水族館デートする事にした。

 入場整理券を事前にウェブで取得していたので、スマホを見せたらチケットを買えるはずだ。

「優美、あれ乗る?」

 慎也が指さしたのは、入り口近くにあるメリーゴーランドみたいなアトラクションだ。
 その近くには大型ボートが空中でスイングする系のもあり、見るとワクワクしてくる。

「勿論!」

 それぞれのアトラクションにも料金が掛かるらしいので、慎也がまとめて買ってくれた。

「ありがとね。私が誘ったのに」

「いいって」

 そのあと、手を繋いで幻想的な水族館をゆっくり鑑賞した。

「優美とこうやって二人きりでデートするの、初めてかもな?」

「多分」

「複雑な関係だけど、うまくやっていけるって信じてるよ」

「信じてるんじゃなくて、うまくやっていくんだよ」

「だな」

 小さな声で会話をして笑い合い、私たちは手を繋いだまま身を寄せる。

「結婚したんだなぁ……」

 私は左手の薬指にある婚約指輪を見て、しみじみと言う。
 二人と結婚すると決まったあと、急遽もう一つ婚約指輪が増えて、重ねてつけている。

「久賀城優美になったな?」

「だね。慎也の奥さんであるけど、正樹の奥さんとしても久賀城」

「〝岬くん〟とこうなるって思ってた?」

「思ってなかった。避けてたし」

 今だから笑えるけど、当時の慎也にとっては「勘弁してくれよ……」だっただろう。

「だよなぁ。当時の俺から見たら、優美は高嶺の花だったし」

「営業部の王子様が何言ってんだか」

 私と慎也は言い合って、ニヤリと笑う。

「……まぁ、格好いいとは思ってたけどね。初恋の人だし、まさかの再会を果たしちゃうし」

〝そこ〟が一番聞きたかったところなのか、慎也が薄暗いなかでニコニコしたのが分かった。

「俺が食事とか飲みに誘った時、本当は嬉しかった?」

「そりゃあ、イケメンに誘われてるし嬉しかったに決まってるよ」

「優美、酒好きだし、意地張ってないで誘いに応じれば良かったのに」

「言ったじゃん。好きになったら駄目だって思ってたし、昔の私を思いだされたくなかったの」

「そうやって拒んでた女を、落として結婚まで持っていったって、俺って相当じゃない?」

 耳元で囁き、慎也が色っぽく笑う。

「根性は認めます。岬くんは仕事でも根性あったし」

「ずっと好きだったんです。折原さん」

 慎也は〝岬くん〟モートドになって、また囁いてくる。

「も……っ、もぉ……っ」

 タメ口の〝慎也〟にすっかり慣れてしまったので、〝岬くん〟モードになられると実は弱い。

 決して男として見るもんかと思っていたのに、ハプバーで遭遇して、彼が男として求めてくれていると思い知らされた。

〝慎也〟は今の私にとって夫で、毎日一緒に生活している身近な人だ。

 けれど〝岬くん〟は会社の後輩で、男勝りの私をずっと慕ってくれていた人。
 それでいて営業部での成績が良くて皆に人気があって、私の初恋の人。……の一人。

 どうしても〝岬くん〟は私の中でイメージが綺麗すぎて、憧れの対象になってしまう。

 だからこうやって〝岬くん〟モードになると、小っ恥ずかしくなって堪らない。

「折原さんとデートしたいなって思ってたんで、今すっごく幸せです。折原さんは俺を選んでくれたから、これから一生俺を見てくれるって思っていいんですよね? 飯に誘っても、飲みに誘っても断りませんよね?」

「ちょ……、もぉ……、やめ……」

 照れた私は距離を取ろうとするけれど、慎也にグイッと手を引っ張られて逃がしてもらえない。

「優美」

 最後に呼び捨てにされ、腰の辺りがゾクゾクッとしてしまった。

「…………っ、あー、青くて綺麗だねぇ」

 私はスーッと息を吸い、ゆっくり吐き、慎也の意識を水槽に向けようとする。

「お、かわした」

「だまらっしゃい。人が一生懸命努力している姿を、おちょくるんじゃないの」

 端から見ればイチャイチャしてるのに、私たちは子供っぽい言い合いをしている。
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