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慎也と元カノ 編
他人の事は気にするだけ無駄
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話を元に戻すと、慎也が「ああ」と顔を上げる。
「……一応、あれだな。色々ブロックしておくか」
「ブロックしちゃうの?」
「連絡手段を断つほうがいいだろ」
私は慎也の腕を掴み、「うーん……」と考える。
「彼女、最後に『もう連絡しない』って言ってたし、それを信じるんじゃ駄目なのかな? ブロックされたって知ったら、余計に気になるかもしれない」
慎也はまじめな顔で首を横に振る。
「もう諦めるっていう形で話がついたのに、SNSで探りを入れられるのが嫌だ。仮に結婚式に参加した友達が写真を投稿したとする。まぁ、モザイク掛けないで、顔出しのまま投稿するバカはいないと信じてるけど。そういうのがきっかけで、万が一にも優美に危害が加わる事があったら嫌なんだよ」
一理ある。……けど。
「確かにそれはもっともだけど……。けど、よく聞く話では、人ってブロックされてるって知ったほうが、普通に無視されるよりショックを受けるらしいよ。刺激を与えないほうがいいんじゃないかなーって思う。私の情報にしても、多分彼女のあの感じだと、もう知っていておかしくないと思うよ?」
私の言葉に、正樹も頷く。
「僕も同意かな。あの子のストーカーぶりなら、すでに優美ちゃんのSNSとか特定してそう。そんで、慎也といちゃついてないかチェックしてるよ」
「んー」
私は「ありえる~」と思って生暖かく笑う。
そして言葉を続けた。
「あと思うんだけど、慎也だけ彼女をブロックしても意味がないと思うの。関わらせたくないのは分かるけど、慎也の友達や家族、結婚式の参加者、これから関わる全員に元カノさんをブロックしてって言えないでしょ? しかもそんな、皆でブロックするなんて、子供のいじめみたいでダサいし。だから、放っといていいと思うよ。ネットをやってる以上、情報は流れるもの。久賀城家の御曹司が結婚するってなったら、秘密にするほうが無理。それについては、私はもう諦めてる」
私がパンと手を打って広げてみせると、正樹が「まんぞく寿司」と茶化してくる。
ので、テーブルの下で足を踏んでおいた。
そんな兄をガン無視して、慎也は溜め息をつく。
「そう……、だな。ネットやってる以上、情報から締めだそうなんて無理だよな。それこそ、見ようと思えば幾つでもアカウント作れるし」
そうなのである。見ようと思う人はどれだけでも捨て垢を作って、徹底的に見る。
見ない人は見ない。これが真理だ。
「そうそう! 大事なのはスルー力だと思うよ。彼女はこれ以上接触しないって言ってたんだから、信じよう。で、慎也もこれ以上、彼女を傷つける事はしないでおこう」
「ん……」
慎也は溜め息混じりに頷く。
正樹はカップに残っていた紅茶を飲み、にっこり笑う。
「結局最後は、人間、ゴシップ的な感情を抑えられるかどうかなんだよ。常に衝動に負けてる人は、他人を気にしてSNSとかチェックしてばっかりになる。優美ちゃんは誰かに見られてるって分かっていても、他人の事はどうにもできないって分かってるから、『まぁいいや』精神で放置できてるでしょ。慎也も気にすんのやめなよ。僕らを気にする人は、掃いて捨てるほどいるんだから」
まともな事を言う兄に、慎也は「そうだな」と頷く。
「気にしても話題にする奴はするもんな。たとえ訴えたとしても、思考回路から何まで支配して禁止する訳にいかない」
諦めたように溜め息をついた慎也の肩を、私はポンと叩く。
「そうそう! 他人の事は気にするだけ無駄。自分で『気にしな~い』って暗示掛けて、楽しい事考えよう!」
「ん」
微笑んだ慎也は、「そろそろ出るか」と腕時計を見る。
「出歯亀したから、僕がご馳走してあげる」
正樹は笑って伝票を掴み、三人でお店をあとにした。
**
慎也の元カノ事件も無事落ち着き、私たちは新婚旅行のハワイ行きの準備を少しずつ進めていた。
私はブライダルエステに通っていて、贅沢な気持ちだ。
ウエディングドレスを格好良く着こなすために、日々のトレーニングも欠かしていない。
それでもって十月の大安吉日、私は慎也と婚姻届を出しにいく事にした。
証人は文香……とか色々悩んだけれども、やっぱり王道で両家の両親に頼む事にした。
文香は忙しいなか一緒に来てくれて、私が入籍する現場を見届けてくれると言う。
港区区役所で集合したあと、私はちょっと緊張して慎也と一緒に区役所内を進む。
入籍が終わったあとは、向かいにあるホテルでランチ予定なので、皆ちょっとかしこまった格好をしている。
慎也はスーツ姿で、私は白っぽいレースの膝丈ワンピースに、ラピスラズリブルーのカーディガンを羽織っていた。
勿論正樹もいて、彼もスーツを着て私たちを兄として見守っている。
「……一応、あれだな。色々ブロックしておくか」
「ブロックしちゃうの?」
「連絡手段を断つほうがいいだろ」
私は慎也の腕を掴み、「うーん……」と考える。
「彼女、最後に『もう連絡しない』って言ってたし、それを信じるんじゃ駄目なのかな? ブロックされたって知ったら、余計に気になるかもしれない」
慎也はまじめな顔で首を横に振る。
「もう諦めるっていう形で話がついたのに、SNSで探りを入れられるのが嫌だ。仮に結婚式に参加した友達が写真を投稿したとする。まぁ、モザイク掛けないで、顔出しのまま投稿するバカはいないと信じてるけど。そういうのがきっかけで、万が一にも優美に危害が加わる事があったら嫌なんだよ」
一理ある。……けど。
「確かにそれはもっともだけど……。けど、よく聞く話では、人ってブロックされてるって知ったほうが、普通に無視されるよりショックを受けるらしいよ。刺激を与えないほうがいいんじゃないかなーって思う。私の情報にしても、多分彼女のあの感じだと、もう知っていておかしくないと思うよ?」
私の言葉に、正樹も頷く。
「僕も同意かな。あの子のストーカーぶりなら、すでに優美ちゃんのSNSとか特定してそう。そんで、慎也といちゃついてないかチェックしてるよ」
「んー」
私は「ありえる~」と思って生暖かく笑う。
そして言葉を続けた。
「あと思うんだけど、慎也だけ彼女をブロックしても意味がないと思うの。関わらせたくないのは分かるけど、慎也の友達や家族、結婚式の参加者、これから関わる全員に元カノさんをブロックしてって言えないでしょ? しかもそんな、皆でブロックするなんて、子供のいじめみたいでダサいし。だから、放っといていいと思うよ。ネットをやってる以上、情報は流れるもの。久賀城家の御曹司が結婚するってなったら、秘密にするほうが無理。それについては、私はもう諦めてる」
私がパンと手を打って広げてみせると、正樹が「まんぞく寿司」と茶化してくる。
ので、テーブルの下で足を踏んでおいた。
そんな兄をガン無視して、慎也は溜め息をつく。
「そう……、だな。ネットやってる以上、情報から締めだそうなんて無理だよな。それこそ、見ようと思えば幾つでもアカウント作れるし」
そうなのである。見ようと思う人はどれだけでも捨て垢を作って、徹底的に見る。
見ない人は見ない。これが真理だ。
「そうそう! 大事なのはスルー力だと思うよ。彼女はこれ以上接触しないって言ってたんだから、信じよう。で、慎也もこれ以上、彼女を傷つける事はしないでおこう」
「ん……」
慎也は溜め息混じりに頷く。
正樹はカップに残っていた紅茶を飲み、にっこり笑う。
「結局最後は、人間、ゴシップ的な感情を抑えられるかどうかなんだよ。常に衝動に負けてる人は、他人を気にしてSNSとかチェックしてばっかりになる。優美ちゃんは誰かに見られてるって分かっていても、他人の事はどうにもできないって分かってるから、『まぁいいや』精神で放置できてるでしょ。慎也も気にすんのやめなよ。僕らを気にする人は、掃いて捨てるほどいるんだから」
まともな事を言う兄に、慎也は「そうだな」と頷く。
「気にしても話題にする奴はするもんな。たとえ訴えたとしても、思考回路から何まで支配して禁止する訳にいかない」
諦めたように溜め息をついた慎也の肩を、私はポンと叩く。
「そうそう! 他人の事は気にするだけ無駄。自分で『気にしな~い』って暗示掛けて、楽しい事考えよう!」
「ん」
微笑んだ慎也は、「そろそろ出るか」と腕時計を見る。
「出歯亀したから、僕がご馳走してあげる」
正樹は笑って伝票を掴み、三人でお店をあとにした。
**
慎也の元カノ事件も無事落ち着き、私たちは新婚旅行のハワイ行きの準備を少しずつ進めていた。
私はブライダルエステに通っていて、贅沢な気持ちだ。
ウエディングドレスを格好良く着こなすために、日々のトレーニングも欠かしていない。
それでもって十月の大安吉日、私は慎也と婚姻届を出しにいく事にした。
証人は文香……とか色々悩んだけれども、やっぱり王道で両家の両親に頼む事にした。
文香は忙しいなか一緒に来てくれて、私が入籍する現場を見届けてくれると言う。
港区区役所で集合したあと、私はちょっと緊張して慎也と一緒に区役所内を進む。
入籍が終わったあとは、向かいにあるホテルでランチ予定なので、皆ちょっとかしこまった格好をしている。
慎也はスーツ姿で、私は白っぽいレースの膝丈ワンピースに、ラピスラズリブルーのカーディガンを羽織っていた。
勿論正樹もいて、彼もスーツを着て私たちを兄として見守っている。
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