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慎也と元カノ 編
ヤバさと紙一重
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テーブルに片肘をついて斜めに見てくるものだから、流し目の色っぽさに思わずキュンとする。
「頑張ったね。偉い、偉い」
甘えた慎也の髪を撫でると、彼は気持ちよさそうに目を細める。
「愛情深い元カノさんだったね」
「僕から見ると、あれは依存だけどね」
正樹がスパッと言い、私とはまるっきり違う切り口に、思わず目を見開く。
「別れたのに、七年も想ってるなんて普通じゃない。会話の途中でも、慎也をつけてたとか言ってただろ。幾ら好きでも、そこまでやるのは異常なんだよ。別れて一年以内とかならまだ同情の余地があるけど、慎也がE&Eフーズに入ったあとの事も把握してたでしょ? あれはもう、完全にアウト」
「割と厳しいね、正樹」
溜め息をつくと、彼はケロリとして言う。
「他人事だから幾らでも言えるよ。目を覚ますのに第三者の意見は必要だと思う。大事なのは慎也が変な感傷に呑まれない事だと思うよ。あと少しで結婚式なんだし」
「……確かに、そうだな。サンキュ」
慎也が同意して頷く。
「それに僕は優美ちゃんの事を『遊んでそうな女』って言ったのを許してない。『メソメソ泣いたら、言う事を聞いてくれるかもしれない』って考える女も嫌い」
「なかなか、手厳しいね」
私は苦笑いする。
「彼女みたいに、過去の栄光にいつまでも縋ってる人、結構見るよ。SNSのプロフィールとかでも、リアルタイムから何年も経つのに、最終学歴とか、元○○とか受賞歴とか書いてる人、今の自分に自信がないんじゃないの? 現役で活躍している人は次の記録を打ち立てるのに必死だよ。過去にしがみつく暇なんてないんだよ。結局〝今〟満たされてないから、自分が一番輝いていた時期に執着してるんだよ。プロフィールに書いてるっていう事は、それだけ他人に『知ってほしい』って思う証拠だしね」
「あー、確かにそれはあるかも」
正樹のたとえが的確で、思わず頷いてしまった。
「慎也の元カノは、今を楽しめてないんだろうね。金融はシビアな世界だ。つらい毎日のなか、自分を傷つけない優しい思い出に縋りたい気持ちは、ある程度理解できる。でも過去に依存して生きている人が、現実に立ち向かえると思えない。思いきりフッて丁度良かったんだよ」
思わず「お見事」と拍手をしたくなる。
兄の言葉を聞き、慎也は頷いた。
「これから一歩踏みだして、前進してくれる事を祈るよ」
「私が悪女として出る必要はなかったね。何か勝手にヤバイ人扱いして申し訳ない」
反省した私を、慎也がフォローする。
「いや、ヤバさと紙一重だったんじゃないか? 別れて七年経って、結婚するって聞いて『やり直そう』って連絡してくるの、普通じゃないから。ぶっちゃけ、俺も困ってたし。今日会って理解してもらえたけど、会わないままだったら正樹が危惧してたみたいに、つきまとわれていたかもしれない」
「確かに」と私は頷く。
そして弓香さんを思いだして言った。
「もっと自分に価値を感じて、幸せになれたらいいね。彼女、すっごいポテンシャル高そうだもん。めっちゃ美人さんだし、仕事もできそうだし。メンタルはちょっと弱そうだけど、性格は悪くないでしょ? いい感じに修正したら、きっと幸せになれるって信じてる」
私の言葉を聞いて、正樹は菩薩のような笑みを浮かべて「優美ちゃんだねぇ……」としみじみ言っている。
ちょっとディスってるの、知ってるぞ。
「ていうか、正樹がSNSの事を知ってるの、意外。やってるの?」
普段、二人とSNSアカウントの話はあえてしていなかった。
そこだけの付き合いとか、大切にしているものはあるだろうから尊重したい。
それにリアルで毎日顔を合わせているのに、SNSまで関わるのはちょっと可哀想かなと思って、何も言わないでいた。
「やってるよ。すっごいつまんない事しか呟いてないけど」
そう言って正樹はスマホを開き、オレンジ色にカエルのイラストが描かれてある、ポツリッターのアプリを開く。
外国企業の大手SNSの日本バージョンみたいなもので、ユーザーは比較にならないほど少ない。
けれど利用規約とかが日本的で、こっちのほうが心地いいという人はいて、ジワジワとユーザー数を増やしている。
カエルがモチーフなのも、『蛙飛び込む池の音』からみたいで、シーンとした所でポツンと独り言を言うように、肩の力を入れずやろう、っていう感じみたいだ。
「はい、これ」
正樹が見せてきたアカウントには、茶色いハートマークに昆虫みたいに六本の足がついたアイコンがある。
そしてアカウント名は〝恋するG〟だ。
「……Gって……」
「ゴキブリだよ。嫌われ者の僕にぴったりでしょ」
正樹は「あははっ」と笑っているけれども、あまりに卑下が激しくて何て突っ込んだらいいか分からない。
「頑張ったね。偉い、偉い」
甘えた慎也の髪を撫でると、彼は気持ちよさそうに目を細める。
「愛情深い元カノさんだったね」
「僕から見ると、あれは依存だけどね」
正樹がスパッと言い、私とはまるっきり違う切り口に、思わず目を見開く。
「別れたのに、七年も想ってるなんて普通じゃない。会話の途中でも、慎也をつけてたとか言ってただろ。幾ら好きでも、そこまでやるのは異常なんだよ。別れて一年以内とかならまだ同情の余地があるけど、慎也がE&Eフーズに入ったあとの事も把握してたでしょ? あれはもう、完全にアウト」
「割と厳しいね、正樹」
溜め息をつくと、彼はケロリとして言う。
「他人事だから幾らでも言えるよ。目を覚ますのに第三者の意見は必要だと思う。大事なのは慎也が変な感傷に呑まれない事だと思うよ。あと少しで結婚式なんだし」
「……確かに、そうだな。サンキュ」
慎也が同意して頷く。
「それに僕は優美ちゃんの事を『遊んでそうな女』って言ったのを許してない。『メソメソ泣いたら、言う事を聞いてくれるかもしれない』って考える女も嫌い」
「なかなか、手厳しいね」
私は苦笑いする。
「彼女みたいに、過去の栄光にいつまでも縋ってる人、結構見るよ。SNSのプロフィールとかでも、リアルタイムから何年も経つのに、最終学歴とか、元○○とか受賞歴とか書いてる人、今の自分に自信がないんじゃないの? 現役で活躍している人は次の記録を打ち立てるのに必死だよ。過去にしがみつく暇なんてないんだよ。結局〝今〟満たされてないから、自分が一番輝いていた時期に執着してるんだよ。プロフィールに書いてるっていう事は、それだけ他人に『知ってほしい』って思う証拠だしね」
「あー、確かにそれはあるかも」
正樹のたとえが的確で、思わず頷いてしまった。
「慎也の元カノは、今を楽しめてないんだろうね。金融はシビアな世界だ。つらい毎日のなか、自分を傷つけない優しい思い出に縋りたい気持ちは、ある程度理解できる。でも過去に依存して生きている人が、現実に立ち向かえると思えない。思いきりフッて丁度良かったんだよ」
思わず「お見事」と拍手をしたくなる。
兄の言葉を聞き、慎也は頷いた。
「これから一歩踏みだして、前進してくれる事を祈るよ」
「私が悪女として出る必要はなかったね。何か勝手にヤバイ人扱いして申し訳ない」
反省した私を、慎也がフォローする。
「いや、ヤバさと紙一重だったんじゃないか? 別れて七年経って、結婚するって聞いて『やり直そう』って連絡してくるの、普通じゃないから。ぶっちゃけ、俺も困ってたし。今日会って理解してもらえたけど、会わないままだったら正樹が危惧してたみたいに、つきまとわれていたかもしれない」
「確かに」と私は頷く。
そして弓香さんを思いだして言った。
「もっと自分に価値を感じて、幸せになれたらいいね。彼女、すっごいポテンシャル高そうだもん。めっちゃ美人さんだし、仕事もできそうだし。メンタルはちょっと弱そうだけど、性格は悪くないでしょ? いい感じに修正したら、きっと幸せになれるって信じてる」
私の言葉を聞いて、正樹は菩薩のような笑みを浮かべて「優美ちゃんだねぇ……」としみじみ言っている。
ちょっとディスってるの、知ってるぞ。
「ていうか、正樹がSNSの事を知ってるの、意外。やってるの?」
普段、二人とSNSアカウントの話はあえてしていなかった。
そこだけの付き合いとか、大切にしているものはあるだろうから尊重したい。
それにリアルで毎日顔を合わせているのに、SNSまで関わるのはちょっと可哀想かなと思って、何も言わないでいた。
「やってるよ。すっごいつまんない事しか呟いてないけど」
そう言って正樹はスマホを開き、オレンジ色にカエルのイラストが描かれてある、ポツリッターのアプリを開く。
外国企業の大手SNSの日本バージョンみたいなもので、ユーザーは比較にならないほど少ない。
けれど利用規約とかが日本的で、こっちのほうが心地いいという人はいて、ジワジワとユーザー数を増やしている。
カエルがモチーフなのも、『蛙飛び込む池の音』からみたいで、シーンとした所でポツンと独り言を言うように、肩の力を入れずやろう、っていう感じみたいだ。
「はい、これ」
正樹が見せてきたアカウントには、茶色いハートマークに昆虫みたいに六本の足がついたアイコンがある。
そしてアカウント名は〝恋するG〟だ。
「……Gって……」
「ゴキブリだよ。嫌われ者の僕にぴったりでしょ」
正樹は「あははっ」と笑っているけれども、あまりに卑下が激しくて何て突っ込んだらいいか分からない。
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