315 / 539
慎也と元カノ 編
さようなら
しおりを挟む
「……進んでないのは、私だけなんだね」
彼女は溜め息をつく。
「仕事、楽しい?」
俺は話題を変える。
確か今は大手金融にいるはずだ。
「うん。もう慣れた感じがあるから、毎日キラキラしてるとか、そういうのはないけど。やりがいあるよ」
「人脈もあるはずだから、合コンでも参加してみたら? 見つけようとしてみろよ」
「ん……」
弓香は曖昧に微笑む。
「私が結婚するとして、慎也は結婚式に来てくれる?」
「行かないよ。相手に失礼だ」
きっぱり否定すると、彼女は悲しそうに俯いた。
「今回、弓香を結婚式に招待しなかったのは、君を嫌いになったとかじゃなくて、妻になる女性に失礼だからだ。もう完全に関係が終わっていて、お互いの幸せを心から祝える〝友達〟ならワンチャンありかもしれない。でも弓香はまだ俺に未練を持っている。そんな状態で結婚式に来てほしくないし、妻になる人に嫌な想いをしてほしくない」
彼女は肩を落とし、溜め息をついて微笑む。
「私はもう、慎也の守備範囲にいないんだね。へたをすれば敵になる」
「守りたいものはもう決まってる。それに、別れてからもう七年になる。お互い変わっていて当たり前だと思わないか?」
弓香はクシャリと泣き笑いの表情になった。
「慎也を好きになって、もう、十年目だよ。…………長すぎた、ね。……疲れちゃった」
俺は会話の終わりを感じつつも、罪悪観で一杯になっていた。
弓香は決して嫌な女じゃないし、悪ではない。
だからこそ、この店に来てからずっとひどい疲労を感じていた。
「今までありがとう」
礼を言うと、弓香はとても傷付いた表情で痛々しく笑って頷く。
「私も……、ありがとう。……大好きだったよ。愛してた」
また、弓香は涙を流す。
「ごめんね。もう帰るね」
そう言って、弓香は立ち上がった。
「まだもう少し好きでいると思うけど、それは許して。もう、連絡はしないから」
「ん」
「さようなら」
弓香はヒールの音を立てて歩いていく。
やがて店員の「ありがとうございました」という声がして、彼女が店を出ていったのを知った。
**
……やばい。
思った以上にほんまもんの奴だった。
運ばれてきたクレープを綺麗に食べたあと、私は正樹と一緒に紅茶を飲んでいた。
……んだけど、聞こえてくる二人の会話を聞いて、おもいっきり反省していた。
「優美ちゃん、落ち込んでる?」
向かいに座っている正樹が、新しい飲み物を頼もうとメニューを広げながら、意地悪に笑う。
「すっごい後悔してる。来るんじゃなかった」
頭を抱えて言うと、正樹が「あっは!」と笑う。
「慎也はいい子だから、付き合ってた子も割とまともなんだよね。僕はこういう流れになるって分かってたけど、ま、面白かったからいいんじゃない?」
「面白かったって……」
こういう時、正樹の感覚はちょっと分からない。
「僕は絶対に体験できない事だから、面白かったよ。世の中の男と女は、こういう会話してるんだなぁー、って」
「あー、そっちか」
正樹は真剣にお付き合いとか、してこなかっただろうからなぁ。
「他人の恋愛を覗き見すると、ドキドキするよね」
「んー、私は罪悪感のほうのドキドキかなぁ」
「なら、見学料払ってもらっていい?」
いきなり慎也が割り込んできて、私は紅茶を噴きだしかけた。
「隣、座るよ」
慎也はめちゃくちゃ疲れた顔で私の隣に座る。
「あれー? 変装してたのにバレた?」
「正樹は声がでかいんだよ。それに俺が優美の声を聞き間違える訳ないだろ」
慎也は溜め息をつき、気分転換に冷たい紅茶を頼む。
そのあと私の手を握ってきた。
「きちんとフッてケリつけたから、褒めて」
彼女は溜め息をつく。
「仕事、楽しい?」
俺は話題を変える。
確か今は大手金融にいるはずだ。
「うん。もう慣れた感じがあるから、毎日キラキラしてるとか、そういうのはないけど。やりがいあるよ」
「人脈もあるはずだから、合コンでも参加してみたら? 見つけようとしてみろよ」
「ん……」
弓香は曖昧に微笑む。
「私が結婚するとして、慎也は結婚式に来てくれる?」
「行かないよ。相手に失礼だ」
きっぱり否定すると、彼女は悲しそうに俯いた。
「今回、弓香を結婚式に招待しなかったのは、君を嫌いになったとかじゃなくて、妻になる女性に失礼だからだ。もう完全に関係が終わっていて、お互いの幸せを心から祝える〝友達〟ならワンチャンありかもしれない。でも弓香はまだ俺に未練を持っている。そんな状態で結婚式に来てほしくないし、妻になる人に嫌な想いをしてほしくない」
彼女は肩を落とし、溜め息をついて微笑む。
「私はもう、慎也の守備範囲にいないんだね。へたをすれば敵になる」
「守りたいものはもう決まってる。それに、別れてからもう七年になる。お互い変わっていて当たり前だと思わないか?」
弓香はクシャリと泣き笑いの表情になった。
「慎也を好きになって、もう、十年目だよ。…………長すぎた、ね。……疲れちゃった」
俺は会話の終わりを感じつつも、罪悪観で一杯になっていた。
弓香は決して嫌な女じゃないし、悪ではない。
だからこそ、この店に来てからずっとひどい疲労を感じていた。
「今までありがとう」
礼を言うと、弓香はとても傷付いた表情で痛々しく笑って頷く。
「私も……、ありがとう。……大好きだったよ。愛してた」
また、弓香は涙を流す。
「ごめんね。もう帰るね」
そう言って、弓香は立ち上がった。
「まだもう少し好きでいると思うけど、それは許して。もう、連絡はしないから」
「ん」
「さようなら」
弓香はヒールの音を立てて歩いていく。
やがて店員の「ありがとうございました」という声がして、彼女が店を出ていったのを知った。
**
……やばい。
思った以上にほんまもんの奴だった。
運ばれてきたクレープを綺麗に食べたあと、私は正樹と一緒に紅茶を飲んでいた。
……んだけど、聞こえてくる二人の会話を聞いて、おもいっきり反省していた。
「優美ちゃん、落ち込んでる?」
向かいに座っている正樹が、新しい飲み物を頼もうとメニューを広げながら、意地悪に笑う。
「すっごい後悔してる。来るんじゃなかった」
頭を抱えて言うと、正樹が「あっは!」と笑う。
「慎也はいい子だから、付き合ってた子も割とまともなんだよね。僕はこういう流れになるって分かってたけど、ま、面白かったからいいんじゃない?」
「面白かったって……」
こういう時、正樹の感覚はちょっと分からない。
「僕は絶対に体験できない事だから、面白かったよ。世の中の男と女は、こういう会話してるんだなぁー、って」
「あー、そっちか」
正樹は真剣にお付き合いとか、してこなかっただろうからなぁ。
「他人の恋愛を覗き見すると、ドキドキするよね」
「んー、私は罪悪感のほうのドキドキかなぁ」
「なら、見学料払ってもらっていい?」
いきなり慎也が割り込んできて、私は紅茶を噴きだしかけた。
「隣、座るよ」
慎也はめちゃくちゃ疲れた顔で私の隣に座る。
「あれー? 変装してたのにバレた?」
「正樹は声がでかいんだよ。それに俺が優美の声を聞き間違える訳ないだろ」
慎也は溜め息をつき、気分転換に冷たい紅茶を頼む。
そのあと私の手を握ってきた。
「きちんとフッてケリつけたから、褒めて」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,767
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる