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慎也と元カノ 編
今、幸せなの?
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「……それだと尚更、私が悪女役で出張るしかなくない?」
再度提案したけれど、溜め息をつき私を見た慎也に首を横に振られた。
「俺が会って話をつける。優美を悪役になんてしたくない」
慎也はそう言って、スマホを手に取って部屋を出ていった。
私は正樹と顔を見合わせ、コソコソと話し合う。
「優美ちゃん、出歯亀する?」
「するでしょ」
「ヨシ!」
正樹は両手で指さし確認をし、よく分からないけれど私にハイタッチしてくる。
そしてその週末、結婚式を前にめちゃくちゃ忙しいのに、慎也は元カノに会いに行き、私と正樹はこっそりと跡をつけたのだった。
**
土曜日、慎也はお昼前に家を出て表参道にあるカフェに入った。
黒いテーパードパンツにシャツ、デニムジャケットというカジュアルな格好だったけれど、長身でイケメンなので道行く女性が振り向いていた。
なお、私は髪を纏めて、いつもならあまり着ない、ゆるふわな雰囲気のワンピースを着ている。
その隣にいる正樹はサングラスを掛け、中折れハットを被ってローゲージのニット、デニムという格好だ。
一応変装しているつもりなんだけれども、お互い怪しくて堪らなくて笑いを堪えるのに必死だ。
とはいえ、出歯亀なのでコソコソと同じ店に入り、少し離れた所に座った。
紅茶を売りにしているカフェで、内装はシンプルだ。
「慎也!」
彼の姿を見つけて、先に席に着いていた女性が嬉しそうに声を上げ立ち上がる。
ふむ……。
第一印象ではきれいめのお姉さんという感じだ。
身長は百六十センチメートル前後で、中肉中背。艶のあるロングヘアは綺麗に巻いて、前髪を斜めに流している、色白で目の大きな美人さんだ。
清純派のタレントや女優、またはモデルをしていても頷ける感じで、白いニットにベージュのスカートという色使いが守ってあげたい雰囲気を醸しだしている。
「……確かに、お似合いな感じ」
お水を持って来た店員さんに会釈をし、私はポソッと呟く。
「僕も会った事あるけど、外面はいい子だよ。内側はどうか分かったもんじゃないけど」
言いながら正樹は手描きイラスト風のメニューを見て、「何にしようかなぁ」と呟く。
紅茶専門店だけあって、スコーンが美味しそうだけれど、クレープや紅茶味のテリーヌとかもあり、迷ってしまう。
……とはいえ、今日の目的は食ではなく慎也だ。
私はメニューを見て悩んでるふりをしながら、彼らの会話に耳を澄ませていた。
**
「久しぶりだね。変わってなくてびっくりした」
俺の目の前で笑う元カノ――滝本弓香を見て、相変わらず綺麗な女だな、とは思った。
大学生時代は周囲から憧れられていて、美人で成績優秀なのに鼻に掛けず、皆から好かれていた。
賢くて物分かりがよく素直で、面倒なところのない女性だと思っていた。
だから付き合おうと思ったし、実際付き合っていて心地いい関係を築けていたと思っている。
だからこそ、俺が結婚すると聞いて、こんなに食い下がって、しつこく「やり直したい」と言うのは意外で堪らなかった。
彼女ならもっと人生を軽々と歩んでいて、俺と別れたあともいい男と出会って、仕事も恋もうまくやれていると信じていたからだ。
「弓香も変わってないな」
社交辞令で挨拶をすると、彼女は「そんな事ないよ、老けたもん」と照れながら毛先をいじる。
今はこうして友好的に話せていても、彼女の主張は分かっている。
これからの話題と展開を考えるだけで、重たい気持ちになっていた。
適当にオーダーしたあと、弓香が水を飲み意味ありげな笑みを浮かべる。
「……今、幸せなの?」
その微笑みの中に、「私がいなくても一人で幸せになっているの?」と責める色がある。
「幸せだよ」
俺は微笑み返し、きっぱり言い切る。
その態度に、弓香はあからさまに傷付いた顔をした。
そして俯き、しばらく黙る。
彼女が何か言うまで俺も沈黙していた。
チラッと見た彼女は、大学生時代よりも少し痩せたように見える。
「……私、慎也と別れた時の事、いまだに納得できていないの」
やがて弓香が口を開いたのは、オーダーした紅茶とスコーンが運ばれてきてからだった。
再度提案したけれど、溜め息をつき私を見た慎也に首を横に振られた。
「俺が会って話をつける。優美を悪役になんてしたくない」
慎也はそう言って、スマホを手に取って部屋を出ていった。
私は正樹と顔を見合わせ、コソコソと話し合う。
「優美ちゃん、出歯亀する?」
「するでしょ」
「ヨシ!」
正樹は両手で指さし確認をし、よく分からないけれど私にハイタッチしてくる。
そしてその週末、結婚式を前にめちゃくちゃ忙しいのに、慎也は元カノに会いに行き、私と正樹はこっそりと跡をつけたのだった。
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土曜日、慎也はお昼前に家を出て表参道にあるカフェに入った。
黒いテーパードパンツにシャツ、デニムジャケットというカジュアルな格好だったけれど、長身でイケメンなので道行く女性が振り向いていた。
なお、私は髪を纏めて、いつもならあまり着ない、ゆるふわな雰囲気のワンピースを着ている。
その隣にいる正樹はサングラスを掛け、中折れハットを被ってローゲージのニット、デニムという格好だ。
一応変装しているつもりなんだけれども、お互い怪しくて堪らなくて笑いを堪えるのに必死だ。
とはいえ、出歯亀なのでコソコソと同じ店に入り、少し離れた所に座った。
紅茶を売りにしているカフェで、内装はシンプルだ。
「慎也!」
彼の姿を見つけて、先に席に着いていた女性が嬉しそうに声を上げ立ち上がる。
ふむ……。
第一印象ではきれいめのお姉さんという感じだ。
身長は百六十センチメートル前後で、中肉中背。艶のあるロングヘアは綺麗に巻いて、前髪を斜めに流している、色白で目の大きな美人さんだ。
清純派のタレントや女優、またはモデルをしていても頷ける感じで、白いニットにベージュのスカートという色使いが守ってあげたい雰囲気を醸しだしている。
「……確かに、お似合いな感じ」
お水を持って来た店員さんに会釈をし、私はポソッと呟く。
「僕も会った事あるけど、外面はいい子だよ。内側はどうか分かったもんじゃないけど」
言いながら正樹は手描きイラスト風のメニューを見て、「何にしようかなぁ」と呟く。
紅茶専門店だけあって、スコーンが美味しそうだけれど、クレープや紅茶味のテリーヌとかもあり、迷ってしまう。
……とはいえ、今日の目的は食ではなく慎也だ。
私はメニューを見て悩んでるふりをしながら、彼らの会話に耳を澄ませていた。
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「久しぶりだね。変わってなくてびっくりした」
俺の目の前で笑う元カノ――滝本弓香を見て、相変わらず綺麗な女だな、とは思った。
大学生時代は周囲から憧れられていて、美人で成績優秀なのに鼻に掛けず、皆から好かれていた。
賢くて物分かりがよく素直で、面倒なところのない女性だと思っていた。
だから付き合おうと思ったし、実際付き合っていて心地いい関係を築けていたと思っている。
だからこそ、俺が結婚すると聞いて、こんなに食い下がって、しつこく「やり直したい」と言うのは意外で堪らなかった。
彼女ならもっと人生を軽々と歩んでいて、俺と別れたあともいい男と出会って、仕事も恋もうまくやれていると信じていたからだ。
「弓香も変わってないな」
社交辞令で挨拶をすると、彼女は「そんな事ないよ、老けたもん」と照れながら毛先をいじる。
今はこうして友好的に話せていても、彼女の主張は分かっている。
これからの話題と展開を考えるだけで、重たい気持ちになっていた。
適当にオーダーしたあと、弓香が水を飲み意味ありげな笑みを浮かべる。
「……今、幸せなの?」
その微笑みの中に、「私がいなくても一人で幸せになっているの?」と責める色がある。
「幸せだよ」
俺は微笑み返し、きっぱり言い切る。
その態度に、弓香はあからさまに傷付いた顔をした。
そして俯き、しばらく黙る。
彼女が何か言うまで俺も沈黙していた。
チラッと見た彼女は、大学生時代よりも少し痩せたように見える。
「……私、慎也と別れた時の事、いまだに納得できていないの」
やがて弓香が口を開いたのは、オーダーした紅茶とスコーンが運ばれてきてからだった。
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