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慎也と元カノ 編

お互い無傷でなんてあり得ない

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「まー、それは置いといて。好きな人が結婚するって聞いて何も伝えられず、悶々として生きてくのはちょっとつらそうだけど」

「優美、どっちの味方?」

 慎也が半眼になる。

「どっちの味方っていうより、将来に響かないようにしたい。今、臭い物に蓋をしても、蓋の下がグツグツ煮えて、いつか噴き出さないと言い切れない。傷が浅いうちに解決しておくほうがいいんじゃないかな?」

「『寝た子を起こすな』っていう言葉もあるけど」

「ガンガンに起きて電話掛けてきてるじゃん」

 そう言うと、慎也はスンッと大人しくなった。

「引導渡してあげなよ。慎也の顔を見て話せたら、ある程度の諦めはつくかもしれない。まぁ、未練が大きくなる可能性もあるけど。好きな人本人の言葉を聞いて、最後まで〝いい女〟として終わりたい気持ちは、あるんじゃないかな」

 元カノに引導を勧める婚約者、我ながら酷い。
 慎也は溜め息をつき、私の肩を抱いてくる。

「……優美は妬かないの?」

「妬かないよ? 信じてるもん」

 ケロリとして言ったけれど、顎をつままれ親指で唇をなぞられた。

「何とも思わないなら、ここまで口を出さないよな?」

 言われて、私は目だけで天井を仰ぎ、唇をすぼめる。

「……そう、かも」

 タコの口で言ったからか、慎也が笑いだした。

「好きですからー」

 少しわざとらしく言い、私は慎也の太腿に自分の片脚を重ねる。
 ちょっと拗ねた顔をしたからか、慎也は甘く微笑んでキスをしてきた。

「素直な優美が好きだよ」

「ん」

 ちゅ、ちゅ、とキスを交わしているうちに、慎也が私を押し倒してきた。
 キスはやがて舌を絡めた深いものに変わり、彼は私の脚を広げるとその間に腰を入れる。

 お風呂上がりなので、私はTシャツにホットパンツという姿だ。
 グレーのスウェット地の股間に、慎也がグリッと芯を帯び始めた部分を押しつける。

「……もぉ……」

 布地越しに肉芽を刺激され、吐息をついた時――、薄く開いたドアの間から覗く目と、目が合った。

「ア……ァ……、ア、ア、ア、ァ…………ァ……」

「やめろーーーーーーっっ!!!!」

 某ホラー映画の声を出す正樹を、私は思いきり怒鳴りつけた。

「なーんだもぉぉぉぉ…………、正樹ぃぃぃいい…………」

 慎也はせっかくのイチャイチャが邪魔されて、がっくり項垂れている。

「あっはは! 僕のいないところでイチャつこうとするからだよ」

 正樹がかるーく笑って部屋の中に入ってきて、向かいの一人掛けのソファに座った。

「慎也、アレ? こないだ言ってた元カノ?」

「ん……」

 あら、正樹は知ってたんだ。

「途中から聞いてたけど、僕も優美ちゃんと同意見かな。今後つきまとわれる可能性があるなら、今のうちにバッサリ切っておきなよ。傷を負わず時間で解決しようとするから、相手は『拒絶されてない』って夢を見るんだよ。慎也が優しい子なのは分かるけどさ、ハッキリ断っておいで。人との縁を切るのに、お互い無傷でなんてあり得ないんだから」

 正樹に言われ、慎也は溜め息をつく。

「無傷でいられるなら、その関係はもっと良好なはず、か」

「そう、その通り。元カノだって『おめでとう、幸せになってね』って素直に祝福してくれる子なら、縁を切る必要もないでしょ。そういう人は言わなくても分かってるんだよ。そして言わないと分からないのは、説明しても分かってくれない奴が多い。そんで、そういう人は、大体繋がってるだけマイナスにしかならない」

 正樹は自分の事だとグダグダな時もあるけれど、慎也や私の事になるとしっかりハッキリ意見を言ってくれるから頼もしい。

「付き合ってた時は、物分かりのいい子に思えたんだけどな」

「好きな男の前なら、どんだけだって猫かぶれるでしょ。慎也は優しいし紳士的だから、女の子だって最高の自分を見せようとする。大学生当時、周りから理想のカップルみたいに見られてなかった?」

 正樹の質問に、慎也は心当たりがあったのか返事をしない。

「あのさ、私思うんだけど、どうしてその子と別れたの?」

 軽く挙手して質問すると、慎也が私を見た直後、思いっきり視線を逸らした。

 ん?

 目を剥いて顔を前に突き出す私を見て、正樹がちょっと意地悪な顔をする。

「その子、慎也が最後に付き合ってた子なんだけど、街中で優美ちゃんに出会ってから、別れを切り出したっぽいんだよね」

「んんんんああああああ…………」

 私のせいか!

 思わず頭を抱え、激しくうなる。
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