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折原家への挨拶 編

クラシック掛けて雰囲気ぶち上げてあげてんの

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「何だよ」

「かっわいいなぁ……。慎也、可愛いなぁあ……。今夜一緒に寝ようか」

「アホか!」

 やばい。ふざけスイッチが入った。

「何なら、風呂で洗いっこしてもいいよ?」

「頼むから勘弁してくれ」

 そのあとはいつもの正樹に戻って、元麻布の家まで正樹オンパレードになった。

 嬉しかったのか、いつもより少しテンションが高く感じた。



 元麻布のマンションに戻ったあと、一休みしてから兄弟水入らずで一杯引っかけつつ食事をとった。

 お互い以前より、もっと打ち解けた関係になれた気がした。

 それもこれも優美のお陰だと思うと、感謝と共に愛しさがこみ上げる。
 早く彼女に会いたい。

(帰って来たら、優美の好きな肉汁ハンバーグ作ったげようかな)

 美味いワインを飲んでご機嫌になった俺は、彼女の笑顔を思い浮かべながら、正樹の言葉に相槌を打って笑った。



**



 その後一週間の平日は、文香に地元を案内して、B級グルメを満喫した。

 地元の友達に会う時は、了承を得て文香も連れて行った。

 文香はあまり友達が多くなく、友達を作るのもちょっと上手じゃない。
 なので少し心配だったけど、うまくフォローできたみたいで皆と打ち解けたようだった。

 友達はFamの事は知っているらしく(知らない子もいたけれど)、コスメや投資の話に興味を持っていた。

 一応プロなので本当なら個人的に詳しく話を聞くなら、金銭が発生したかもしれない。
 でも文香は「優美の友達ならいつでも話を聞くよ」と言ってくれた。
 そのうちタイミングのいい時に、テーマ別で〝Famを囲む会〟を開くようだ。
 友達は時間を無駄にしないために、質問を纏めておくと言っていた。

 そして二週間の埼玉滞在が終わり、私は文香と一緒に東京に戻る事になる。

 文香の事を和人くんが迎えに来て、彼女に「どうせなら三人のほうが楽しいでしょ」と言われて、お言葉に甘えて車に乗せてもらった。

 慎也と正樹に『迎えはいりません』とメッセージを送ると、何でか知らないけど『おこです!』というスタンプを送られた。……知らん。

 迎えに来てくれた和人くんと埼玉ランチを食べ、それから港区まで戻った。

 文香たちのマンションにも寄って、お茶をして飽きる事なくおしゃべりを楽しんだ。

 そして十七時ぐらいになり、徒歩十分の距離なので歩いて帰る事にした。





「ただいまーぁ」

 ドアを開けてすぐは誰もいないけど、一応そう言う。

 目の前にある現代アートの絵画は、正樹がインテリアデザイナーと相談して決めてもらったんだそうだ。
 彼いわく、「僕はあんまりセンスないから、外注するのが一番」らしい。

 廊下を進んでリビングダイニングに続くドアを開き、もう一度言う。

「ただいまー」

 吹き抜けの空間は、いつ見ても圧倒される。
 目の前には夕焼け空に沈みかけるビルのシルエットと、煌々としたネオンが広がる。

 広々としたリビングのソファには正樹が座っていて、こっちを見て「おかえり!」と立ち上がった。

 テレビはついておらず、クラシック音楽――バッハのゴルトベルク変奏曲が流れている。

「慎也、ただいま」

 正樹にハグされながら、キッチンで働いている彼に声を掛ける。

「ん、おかえり」

 あれ、テンション低いな。

「慎也どったの?」

 正樹に尋ねると、彼はニヤニヤして私のボストンバッグを持ってくれる。

「優美ちゃんとドライブできると思ったのに、文香ちゃんに取られたから拗ねてるんだよ」

「あ、あー! ごめんね! ドライブぐらい、いつでもできると思ったから」

 慎也は私をチラッと見て、ボウルの中にある何かを捏ねる。
 私は正樹の腕の中から抜け出し、キッチンに向かった。

「慎也さーん……」

 彼を呼ぶと、慎也はボウルの中にあるハンバーグのタネをこねこねしたまま、チラッと私を見る。

 慎也は不機嫌そうなオーラを出しているのに、正樹がぶっ壊した。

「さっきから慎也が生肉弄ってるから、クラシック掛けて雰囲気ぶち上げてあげてんの」

「ちょ……っ、羊たちの……! 博士!」

 すぐに正樹の意図を理解した私は、横を向いてブフォッと噴き出した。
 私たちがゲラゲラ笑うからか、慎也も怒ったふりをするのをやめたようだ。

「正樹さぁ……」

「ちょっと慎也、悦に入った感じになってみてよ」

「優美?」

 慎也に突っ込まれたあと、三人でまた爆笑した。
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