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折原家への挨拶 編

あとになれば些細な事

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「どうなったの?」

 今までの爆笑はどこかへ、文香は真剣に聞いてくれる。

「家まで送ってくれたあと、正樹が慎也を車で待ってたら、庭作業してたお祖母ちゃんが正樹を引っ張ってきたの。車の中で話してたんだけど、理解してくれたみたい」

「三人で……って認めてくれたの?」

「うん」

 微笑んで頷くと、文香は目を丸くしてから笑顔になり、ハーッと息をついた。

「良かったねぇ!」

「うん、ありがと」

 私たちはお代わりした白ワインで乾杯をして、クーッと飲む。
 文香が選んだワインはクセがなくて、水みたいにスイスイ飲める。

 美味しいワインを飲んで、親友に祝福してもらう。
 とっても幸せだ。

 文香はしばらく放心していたけれど、やがてニヤニヤしながら「うん、うん」と何度も頷いた。

「こりゃ、今度五人で集まって祝杯を挙げるしかないね。正樹も喜んでるんじゃない? 優美と結婚するの諦めても、本当は結婚したいぐらい好きなんでしょ? 法的に認められなくても、相手の親に認めてもらえたっていうのは大きいよ」

「そうだね」

 久賀城のご家族には正樹の深い事情までは話していないから、うちの家族のほうが知っていると言える。

 話そうと思えば話せるだろうけど、実の家族だからこそ性的な事も含めて打ち明けるのはきついだろう。

 でも、家族だからといって、すべてを赤裸々に話さなくてもいいと思う。

 大人になるにつれ、自分の胸にだけ抱えておきたいものが増えていく。
 友達には言えても、家族に言えない事もできてくる。

 家族だから様子のおかしい時は察するんだろうけれど、そこは無理に聞かないのが大人同士、家族の間合いっていうもんだ。

「これで……、もういいのかな?」

 私はハーブの香りがするフォカッチャで、パスタの残りのソースをすくって食べる。

「いーんじゃない? っていうか、全人類にきちっと説明する義理はないし、肝心な人への挨拶が済んだなら、あとはもう勢いで結婚しちゃいなよ」

「ははっ、勢いって」

 思わず笑ってから、私はグラスに残っているワインを飲み干し、笑う。

「ま、いっか。あの二人と一緒なら、なんだかんだいって乗り越えられる気がする」

「そうそう。結婚なんて本人たちが納得してりゃいーのよ。結婚するのは親でも家族でもない、本人たち。結婚したあとだって色んな事が起こるのは当たり前。今あんたらが直面してる問題なんて、あとになれば些細な事って思えるんじゃない?」

「うわ、やな未来」

 私は思わず笑う。

 けど、文香の言う通りだ。

 結婚して終わり、じゃない。
 むしろ結婚してから、本格的なスタートだ。

 人生八十年から九十年になったと言われていて、私たちはまだ三十年ぐらい。

 これから嫌ってほど色んな事があるのに、ちょっとつらい事があるからってへこたれてらんない。
 しぶとく、粘っこく生きて、最後には「いい人生だったなー」と思いたい。

 そんな事を話しながらスズキのオーブン焼きを食べ、赤ワインをオーダーして仔牛のフィレ肉を食べる。
 最後に芸術的に美味しいティラミスを食べてコーヒーを飲み、私は満腹になってお腹をさすった。

「文香はあとどれぐらい埼玉にいるの?」

「んー? スマホとタブレットさえあれば大丈夫。優美があと一週間こっちにいるなら、私もいよっかな。週末に学生時代の友達と会うんでしょ? それまでの平日、私と遊んでよ」

「うん、分かった」

「よし! 正樹が認められたお祝いに今日は私がご馳走しよう!」

「えぇっ!? いいよ! 私が無視しちゃったお詫びだし!」

「いーのいーの、遠慮なくガバガバワイン飲んだし、自分の分は自分で払うし、ついでにプレご祝儀だと思って受け取って」

「うー……」

 二人分のコースと飲み物代を入れたら、結構なお値段になる。
 お詫びの意味も込めて、お金用意したんだけど……。

「じゃあ明日からのデートで、カフェとかディナーとか、リーズナブルな所でいいから案内してよ。で、よさげな所でご馳走して」

「値段違くない?」

「そんなもん、細かく言わないでよ。優美らしくない」

「んー、分かった! ごちになります!」

 パンッと胸の前で手を合わせると、文香はご機嫌に笑った。



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