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折原家への挨拶 編

すんっませんっしたぁ!

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 彼らは窓を開け、私たちに挨拶をする。

「それじゃあ、また!」

 助手席の窓から正樹が手を振り、慎也が車を発進させる。
 車が角を曲がるまで私たちは見送り、ぞろぞろと家の中に戻っていく。

「いい人たちね」

 お母さんが言い、私は二人を誇らしく思って「うん!」と頷く。

「本当は昨日、同窓会で昔太ってた事をいじられてたんだ。二人は私が男の子と会うのを気にして、こっそり跡をつけてきたみたい。いじられてとっても惨めな気持ちになっていた時、颯爽と王子様みたいに助けてくれた」

 昨日の事を思い出しても、もう何とも思わなくなっていた。

「……そう。そっちの話もきちんと聞きたかったわ。お説教ばっかりしちゃって、ばつが悪いったら。きちんと優美を守ってくれてるのね。今度会ったらお礼を言わないと」

 お母さんは、渋ってしまったのを後悔しているようだった。

 けど、簡単に「いいよー」と言える問題でもなかった。
 だから、結局これで良かったと思っている。

「今度ゆっくり話してあげて。きっと二人も喜ぶと思う。あんな風に、自分たちの事を正面切って認めてくれた他人って初めてだろうから」

 サンダルを脱いで上がり框に上がった時、お母さんにポンッとお尻を叩かれた。

「ん?」

「他人じゃないでしょう? もう家族よ」

 その言葉を聞いて、私は破顔した。





「……あれ?」

 部屋に戻ってスマホを開くと、恐ろしい数の通知がメッセージアプリに入っていて、私は頬を引きつらせる。
 恐る恐るアプリを開くと、文香さまから怒りのメッセージがたっくさん……、それはもう、たっくさん届いていた。メリーさんもびっくりである。

「えーと……」

 未読メッセージの先頭から順番に読んでいくと……、ようするに。

「駅前のホテルにいるから、遊びに来い、案内しろって事か」

 昨日、イタリアンバルで二人と一緒に助けてくれたあと、堂平山に行って現地解散してしまった。

 文香は二人と同じホテルを取っていて、本来ならあのあと、五人でホテルに戻って話をする……予定だったらしい。

 ……スミマセン。ラブホイッテマシタ……。

 私はむやみやたらに頭を掻き、鼻の下を掻き、どう返事をしたらいいものか迷う。

 すると、既読がついたのに気付いた文香さまから、手痛いお言葉が届いた。

『どうせセックスしてたんでしょ。知ってる』

 すんっっっません……!!

 あー、駄目だなぁ……。
 二人を優先して、文香をおざなりにしたつもりはないけど、昨日のは不誠実だった。

 きちんとお礼も言えてなかったし。

 溜め息をつき、私は返事を打つ。

『大変申し訳ございません。仰る通りです。つきまして、地元の美味しい店でご馳走しますので、デートなど如何でしょうか?』

 メッセージを送ると、ポン、とすぐに『許す』とゆるキャラがいかめしい顔をして〝コクリ〟と頷いているスタンプが送られてきた。

 怒りを引きずらないところ、好きだよ。

 そのあと、私は着替えて文香との待ち合わせ場所に向かった。





「すんっませんっしたぁ!」

 私は文香の姿を見るなり、大きい声を上げて思いきり頭を下げた。

 う……。返事がない。

 後頭部にヒヤリとした視線が突き刺さっているのが分かる。

「……スミマセン。ちょっと、色々ありまして」

 もう少し間を置いたあと、文香は溜め息をついてポンポンと私の頭を撫でた。

「よし。〝色々〟を聞こうじゃないか。オゴリ飯と一緒に」

「喜んで!」

 そして私たちは大宮駅前すぐにある、イタリアンの店に入った。

 その店は薄暗い店内にシャンデリアが下がり、上質な革のソファとウッド調で整えられた品のいい店だった。
 ここが〝いつもの〟店ではないけれど、友達と一回入った事はある。
 どうやらお寿司屋さんがやっているイタリアンというのがコンセプトらしく、新鮮な魚貝を使ったメニューやワインが目玉らしい。

 友達と来た時はランチだったけれど、ディナーコースはランクによって割とお値段がする。
 ここは一つ、お詫びの意味も込めて、奮発して一人六千円のコースをご馳走する事にした。
 最高ランクのコースでないところが、ちょっと情けないんだけど……。

 文香から連絡があった直後に、私は店に連絡して予約しておいた。

 雰囲気のいいお店は、コンセプト通り和洋折衷というか、和伊折衷なのかな? カウンター席の前ではカポクオーコ(イタリアンのシェフをこう呼ぶらしい)が料理をしている。
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