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折原家への挨拶 編

最高のご褒美

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「『抜け駆けしてる』とか、『正樹を邪魔にしてる』とかじゃないの。三人で付き合うなら、バランスを取るのも大事。前だって、お互い二人きりの時間を作るって言ったじゃない。慎也と正樹と、交互に二人きりの時間を作るなら平等でいいんじゃない?」

 提案すると、慎也の肩からゆっくり力が抜ける。

「慎也はまじめだねぇ。正樹が〝ああ〟な分、慎也は縁の下の力持ちになって、今まで頑張っていたんだね。慎也は自分を目立たないと思って、ずっと我慢していたんだろうけど、私の前では隠さなくていいからね」

 彼の髪をよしよしと撫でると、慎也は溜め息をついて涙を拭う。

「……情けねぇ。好きな女を前にして、愚痴を言うしかできないなんて」

「前に言ってくれたよね。『長所だけを好きになったんじゃない』って。私は同じ言葉を慎也に送るよ」

 私の前で、悩み、綺麗な涙を流している慎也が、愛しくて堪らない。

「慎也は、自分では分かっていないかもしれないけど、スパダリなんて言葉じゃ済まないぐらい最高の男なの。慎也は『そうじゃない』って思うかもしれない。でも、私を含め世間の人は、慎也が思っている十倍も百倍も、あなたに価値を感じているよ」

 彼の形のいい耳を摘まみ、つぅ……と輪郭を辿って私は微笑む。

「そんな最高の男が、私の前でだけ弱さを見せてくれるなんて、最高のご褒美だよ。慎也が愛しくて堪らないもの。私に自分の弱さをさらけ出してくれて、頼ってくれる。それはとてもありがたい事なの」

「ん……」

「確かに慎也には欠点があるかもしれない。でもじゃんじゃんおつりが出るほど、慎也の魅力のほうがずーっと勝ってる。好きってそういう事だよ。好きだから、あなたの悩みを一緒に感じて、解決していきたいって思うの」

 私は彼の両頬を手で包み、笑いかける。

「大好きだよ。いつもの慎也も、悩んでる慎也も、ベッドでオラオラ言ってる慎也も、正樹の後ろで『仕方ないな』って微笑んでる大人っぽい慎也も、ぜーんぶ好き」

 彼はクシャリと笑い、私を抱き締めてきた。
 そしてごろんと仰向けになると、私の背中を何度も撫でる。

「……ありがとう。救われた」

「おう。何かあったらいつでも言って。全力で助けにいくから」

 私は顔を傾け、気持ちを込めて丁寧に彼にキスをした。
 髪をなでつけ、目元の涙をチロリと舌で舐め取る。

 そして私たちは微笑み合い、もう一度キスをした。

「そろそろ、下行こうか。お寿司来るかも」

「ん」

 私たちは起き上がり、乱れた服や髪を整える。

 そのタイミングで、チャイムが鳴った。

 階下からお母さんが「はーい」と返事をするのが聞こえ、私たちはあまりのナイスタイミングに、顔を見合わせて笑う。

 そして居間に下りて、特上生寿司にありつく事にした。





「優美ったら、子供の頃はたけしと玉子の取り合いしてたのよ」

 お母さんがビール片手にケラケラ笑う。

 ちなみに健というのは、私の弟だ。
 普段は都内で一人暮らしをして働いているので、今日は会えなかった。


「やだなぁ、お母さんいつの話してるの?」

「ちなみに優美ちゃん、今好きなネタは?」

 正樹が聞いてくる。

「え? やっぱりトロ! いくら! ウニ! 鉄板です!」

「よし! じゃあ今度一緒に美味い寿司食べに行こうね」

「あらあら、正樹さん、私という女を忘れたのね」

 お祖母ちゃんがイカのお寿司を箸で取りながら、のんびりととんでもないセリフをぶっ込んでくる。
 それに全員が笑い、正樹が返事をする。

「いつでも来てくださいよ。馴染みの店でも、築地でも豊洲でも、どこでもお連れします」

「じゃあ、正樹が魚なら、俺は肉で」

 明るく笑って、慎也が挙手する。

「あー! そのツアーは健が大喜びするわ」

「健くん、都内住みですぐ集合できるなら、今度事情を話しがてら食事に行こうか」

 慎也が言い、私と正樹は「そうだね」と合意する。

 そんな風に和気藹々としている私たち三人の姿を見て、家族たちも安心しているようだった。





 やがて十五時近くになり、二人は先に元麻布の家に帰る事となった。

「じゃあ、優美ちゃん、ゆっくり実家を楽しんで、友達と遊んでね」

「ありがと」

「帰りは言ってくれたら、迎えに来るから」

「うん」

 二人とハイタッチしたあと、彼らは車に乗った。

 正樹は家族に飲まされていたから、運転は慎也だ。
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