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折原家への挨拶 編
折原家は、正樹さんの存在を認めます
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慎也も、兄の隣で少し俯き、目を潤ませていた。
「優美さんを心から愛していますし、彼女の幸せのためなら何だってしたい。ですが、僕よりも先に優美さんに惚れていたのに、僕を尊重してくれた弟も大切に思っています」
彼は傷付いたように笑う。
「弟が本来なら得るはずだった幸せを、強引に半分奪ったのは僕です。だから、僕は結婚しなくていいですし、優美さんに関するすべての〝一番〟を弟に譲るつもりです。二人の側にいて、優美さんを一緒に愛させてもらえるのなら、僕はそれだけで幸せだからです」
すべてを言い切ったあと、正樹は明るく笑った。
「だから、僕はご挨拶に伺えなかったんです。結果的に大変な非礼となり、申し訳なく思っています」
正樹の話を聞き、お母さんは大きな溜め息をついた。
そしてハッキリとした声で言う。
「なら、三人で幸せになりなさい。折原家は、正樹さんの存在を認めます」
その言葉の中に〝母〟を感じた。
二人とも私を愛して一生を共にするなら、一人だけ仲間はずれになっているなど許さない。
そんな〝母〟ならではの思いがあった。
何だか、小学生の私たちに「三人で仲良くしなさい」と言われた気持ちになった。
許しを得てクシャリと表情を歪める正樹に、お母さんはしっかりと頷いてみせる。
「私たちは娘が一番大事。優美が本当に幸せになれるなら、世間が……みたいな事はどうだっていいの。そりゃあ、重婚は法律で認められていないし、新たな問題も出てくるでしょう。でも折原家の事は、いつでも安心して帰って来られる実家と考えていいからね」
安心して帰ってこられる家。
その言葉を聞いて、私は涙を零した。
「…………ありがとうっ」
涙を流した私の背中を、お母さんがポンポンと叩く。
「大変だろうけど、何かあったらすぐに連絡しなさい」
「うん……っ」
泣き笑いの表情で頷いた私を見て、お母さんは微笑みながら溜め息をつく。
そして少し表情を引き締めると、少しわざとらしい感じで言った。
「二人が優美を本気で好きなのは分かったけど、くれぐれも無理をさせないように!」
その言葉の意味するところを察した私は赤くなり、二人は思わず笑顔になってから「はい!」とやけにいい返事をした。
話が落ち着くと、お父さんが話題を変えた。
「近所の寿司屋で寿司でも取るか。前は慎也くんとしか挨拶をしてなかったから、今は自宅だけど、正樹くんとも話をしてどんな人かもっと知りたい」
「あら、いいわね」
お祖母ちゃんが同意し、いそいそと電話に向かう。
「どうせだから、一番いいお寿司にするわね」
「あはは! お祖母ちゃんこの状況に乗じて」
私が笑うと、お祖母ちゃんは指を立てて唇の前に寄せ、「しー」というジェスチャーをする。
うちのお祖母ちゃんはなかなかお茶目で、そこが大好きだ。
そのあと和やかな雰囲気になり、お寿司が届くまでたわいのない会話をする。
途中で、慎也が私に言う。
「優美の部屋、見てみたい」
「えぇっ!?」
まさか部屋が見たいなんて言われると思わず、私は渋る。
「別にいいじゃない。減るもんじゃないし」
「……別にいいんだけど……」
お母さんにも言われ、私は立ち上がって「上だよ」と歩き始めた。
階段を上がったあと、私は二人に向けて「ちょっと待って」と手を突きだす。
「最終チェックだけさせて」
「いいよ」
クスクス笑っている正樹を後ろに、私は部屋に駆け込むとさっきの着替えで放り投げていたままの服などを、布団の下に隠す。
あとは……、多分大丈夫。
「どうぞー」
部屋から顔を出して招くと、ワクワクした表情の二人が私の部屋に入ってきた。
「適当に座って」
私の部屋は八畳で、ごく普通にシングルベッドがあり、子供の頃から使っている学習机と本棚などがある。
使っていたテレビやオーディオ機器は、一人暮らしをする時に持って行って、そのうち自分で稼いだお金で好きな物を買う際に処分してしまった。
なので実家の部屋は、本当に使っていない物しか置いていない。
クローゼットの中身もほぼなくて、代わりにお母さんとかお祖母ちゃんの、季節外の服とかが掛かっている。
制服とかジャージもあるけど、いまだになんで取ってあるのか分からなくて、そろそろ捨て時かと思っていた。
「優美さんを心から愛していますし、彼女の幸せのためなら何だってしたい。ですが、僕よりも先に優美さんに惚れていたのに、僕を尊重してくれた弟も大切に思っています」
彼は傷付いたように笑う。
「弟が本来なら得るはずだった幸せを、強引に半分奪ったのは僕です。だから、僕は結婚しなくていいですし、優美さんに関するすべての〝一番〟を弟に譲るつもりです。二人の側にいて、優美さんを一緒に愛させてもらえるのなら、僕はそれだけで幸せだからです」
すべてを言い切ったあと、正樹は明るく笑った。
「だから、僕はご挨拶に伺えなかったんです。結果的に大変な非礼となり、申し訳なく思っています」
正樹の話を聞き、お母さんは大きな溜め息をついた。
そしてハッキリとした声で言う。
「なら、三人で幸せになりなさい。折原家は、正樹さんの存在を認めます」
その言葉の中に〝母〟を感じた。
二人とも私を愛して一生を共にするなら、一人だけ仲間はずれになっているなど許さない。
そんな〝母〟ならではの思いがあった。
何だか、小学生の私たちに「三人で仲良くしなさい」と言われた気持ちになった。
許しを得てクシャリと表情を歪める正樹に、お母さんはしっかりと頷いてみせる。
「私たちは娘が一番大事。優美が本当に幸せになれるなら、世間が……みたいな事はどうだっていいの。そりゃあ、重婚は法律で認められていないし、新たな問題も出てくるでしょう。でも折原家の事は、いつでも安心して帰って来られる実家と考えていいからね」
安心して帰ってこられる家。
その言葉を聞いて、私は涙を零した。
「…………ありがとうっ」
涙を流した私の背中を、お母さんがポンポンと叩く。
「大変だろうけど、何かあったらすぐに連絡しなさい」
「うん……っ」
泣き笑いの表情で頷いた私を見て、お母さんは微笑みながら溜め息をつく。
そして少し表情を引き締めると、少しわざとらしい感じで言った。
「二人が優美を本気で好きなのは分かったけど、くれぐれも無理をさせないように!」
その言葉の意味するところを察した私は赤くなり、二人は思わず笑顔になってから「はい!」とやけにいい返事をした。
話が落ち着くと、お父さんが話題を変えた。
「近所の寿司屋で寿司でも取るか。前は慎也くんとしか挨拶をしてなかったから、今は自宅だけど、正樹くんとも話をしてどんな人かもっと知りたい」
「あら、いいわね」
お祖母ちゃんが同意し、いそいそと電話に向かう。
「どうせだから、一番いいお寿司にするわね」
「あはは! お祖母ちゃんこの状況に乗じて」
私が笑うと、お祖母ちゃんは指を立てて唇の前に寄せ、「しー」というジェスチャーをする。
うちのお祖母ちゃんはなかなかお茶目で、そこが大好きだ。
そのあと和やかな雰囲気になり、お寿司が届くまでたわいのない会話をする。
途中で、慎也が私に言う。
「優美の部屋、見てみたい」
「えぇっ!?」
まさか部屋が見たいなんて言われると思わず、私は渋る。
「別にいいじゃない。減るもんじゃないし」
「……別にいいんだけど……」
お母さんにも言われ、私は立ち上がって「上だよ」と歩き始めた。
階段を上がったあと、私は二人に向けて「ちょっと待って」と手を突きだす。
「最終チェックだけさせて」
「いいよ」
クスクス笑っている正樹を後ろに、私は部屋に駆け込むとさっきの着替えで放り投げていたままの服などを、布団の下に隠す。
あとは……、多分大丈夫。
「どうぞー」
部屋から顔を出して招くと、ワクワクした表情の二人が私の部屋に入ってきた。
「適当に座って」
私の部屋は八畳で、ごく普通にシングルベッドがあり、子供の頃から使っている学習机と本棚などがある。
使っていたテレビやオーディオ機器は、一人暮らしをする時に持って行って、そのうち自分で稼いだお金で好きな物を買う際に処分してしまった。
なので実家の部屋は、本当に使っていない物しか置いていない。
クローゼットの中身もほぼなくて、代わりにお母さんとかお祖母ちゃんの、季節外の服とかが掛かっている。
制服とかジャージもあるけど、いまだになんで取ってあるのか分からなくて、そろそろ捨て時かと思っていた。
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