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折原家への挨拶 編

嘘、つけないですよね、彼女

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 その優しさが、僕の事を「仕方ないなぁ」って受け入れてくれた、優美ちゃんに繋がる。

「もとから私は新しいものに対応できる人じゃなかったけど、グングン変わっていく優美を見て、見習わないとって思ったの。学びたいと思って優美にコンピューターを教わって、ネットでニュースを見て色んな事にアンテナを伸ばして、柔軟に理解しようとしたわ」

「優美ちゃんのお陰ですか?」

「そうね」

 にっこり笑った彼女を見て、僕は思わず笑う。

「すっごいなぁ……、優美ちゃん」

 自分だけ変わっただけじゃない。

 彼女には周りを巻き込んで、いいほうに変えていく力がある。
 だから好きだし、憧れている。

 ずっと、彼女は太陽で、僕と慎也は向日葵みたいだと思っていた。

「凄いでしょう? 自慢の孫なの」

「そうですね。本当に同意します。僕の自慢の恋人です」

 良美さんと微笑み合っていると、とてもリラックスしているのを感じた。

「正樹さんは、こういう場では隠れる事になっているの?」

 改めて尋ねられ、僕は素直に答える。

「僕は一度結婚に失敗しました。三人じゃないと駄目だっていうのも、僕が原因なんです。本当は優美ちゃんと慎也の二人だけで、関係が完結するはずでした。けど、……色々あって」

「良かったら話して? ちゃんと知りたいわ」

 彼女の器の広さに感謝し、僕はかいつまんでだけれど、家庭事情から今に至る様々な事を話した。
 話し終えた時、良美さんはゆっくりと何度も頷いていた。

「それでいいんじゃない? 誰にだってコンプレックスや暗い面はある。けれど優美はあなたを受け入れたんでしょう?」

「はい」

「じゃあ、いいのよ。三人の凸凹がカチッと嵌まって、三人で運命の人だっただけだわ。人は誰しも、それぞれ個人の形をしたパズルのピースを持っているの。同じサラリーマンでも、趣味や家庭環境が違う。そういう風にすべてのピースに違いがあるわ。あなた達三人は、それがうまく嵌まっただけ」

 ずっと悩んでいた事が、一人の老婦人の前では取るに足らない事になる。
 それがとても不思議で、新鮮だった。

「そう騒ぎ立てる事じゃないわ。人は自分が思っているほど〝特別〟ではないの。悩んでいる人は皆、ちょっと思い上がっているわね。悩んでいると〝自分〟ばかりになって、視野が狭くなるわ。あなた達が思っているほど、世間はあなた達に興味を持っていないのよ。それに一回離婚したぐらい何? 世の中、何回も再婚している人はいるわ」

 大らかな彼女と話していると、自分が今まで抱えてきた事がとても些末な事に思えてきた。

「ありがとうございます」

「何もお礼を言われる事じゃないわ」

 無欲なところも、優美ちゃんと似ている。

「けど……、どうしてここまで僕の事が分かったんですか? 普通なら運転手で納得してくれそうなんですが」

 そもそも、それが大きな疑問だった。

 彼女は一つ息をついて笑った。

「優美の態度がずっと引っ掛かっていたの」

「……挨拶、うまくいかなかったんですか?」

 結婚報告は、僕ら三人が銀座で利佳と遭遇した日だった。
挨拶はうまくいったって聞いてたけど……。

「慎也さんは、とても感じのいい挨拶をしてくれたわ。家族みんな、優美を任せられるって思った。……でも、優美は何か気がかりそうな、百パーセントじゃない笑顔だったのよ」

「あー……。嘘、つけないですよね、彼女」

「そうなの」

 僕と良美さんは笑い合う。

「優美とは時々電話をしているけど、意味深な事を言われたわ」

「どんな?」

「『好きな人を全員幸せにしたい』って、とても真剣に言っていた。何が、とは言わなかったけれど、友達や周りの人程度の〝好きな人〟ではないのはすぐに分かったわね」

「あはは……」

 素直すぎるなぁ、優美ちゃん。

「だから、もしかしたら……だけれど、慎也さんの他に大切な人がいるのかと、少し疑っちゃった。でも、優美は二股をする性格じゃない。だから、誰の事を悩んでいるのか、ずっと分からないでいた」

 そこまで言って、良美さんは僕を見て微笑む。

「けどさっき、あなたを見てすべてが繋がったわ」

「あー……。……ホント、やっぱホテルで待機してたら良かった」

 僕は両手で頭を抱える。

「私に知られた事、後悔してる?」

「いえ、そうじゃなくて……。何て言うか……、うーん……」

「いいのよ。人にあまり知られたくない事だったわよね」

「……はい」

 諦めて頷く僕の肩を、良美さんがポンと叩く。
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