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折原家への挨拶 編

じゃあ、いいじゃない

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「一族経営をされているわね。会社名で検索をして、社長さんの名前をドラッグして画像検索したら、一緒に写っているあなたの顔も出てきたわ。副社長の正樹さん」

 僕はもう、苦笑いするしかできない。

「凄いですね」

「何も凄くないわ。若い子は普通にするでしょ? 私がしている事も普通だわ」

 言われて、彼女が高齢だからと侮っていた事に気付かされた。

「大変な無礼を、心からお詫び申し上げます」

「気にする事はないわ。副社長さんを驚かせられたなら、『やった』って思えるじゃない」

 こうやって物事を楽しめる面は、優美ちゃんととても似ている。

「とてもプライベートな話だと分かっているけれど、優美との関係を聞いてもいい?」

 核心を突かれ、僕は思わず黙る。

 優美ちゃんはお祖母ちゃん子だ。

 良美さんだって彼女をとても可愛がってるに決まってる。
 可愛い孫の性事情なんて、聞きたくないだろう。

 何て言っていいか分からずに唇を引き結んでいると、良美さんが質問を変えた。

「あの子の事が好き?」

 それに対しても、僕は返答に迷う。

「正直に教えてほしいの。何もあなたを叱ろうなんて思っていないわ。どうしたら優美が一番幸せになれるか考えたいの」

 その言葉を聞き、また僕は「ああ、優美ちゃんのお祖母ちゃんだな」と感じる。

 彼女は僕たちの敵にまわらない。
 理解したからこそ、素直になれる気がした。

「……僕は、彼女を愛しています」

 こわごわと言ったけれど、良美さんはニッコリと笑っただけだ。

「……彼女と、…………弟と、…………三人で、……関係を持っています」

 こんなに、僕らの関係を打ち明ける事を「怖い」と感じたのは初めてだ。

 世の中の大抵の事は、僕自身の能力と久賀城の名前、キャリアでどうにかなると思っていた。

 けど僕は、女性関係だけ人より劣っている。
 おまけに、大切な女性を弟とシェアしている。

 世間的にその行為が認められにくく、へたすれば異常な行為と見られるのも分かっている。

 これから結婚を控えている優美ちゃんの身内から、「もてあそんでんじゃねーよ」と激怒されても仕方がない。
 不誠実、不潔と罵られても反論できない。

 今まで「秘密にしていればいい」と思えていたのは、事情を知るのが久賀城の家族だけだったからだ。

 秘密を知られる相手が〝外〟の人になるだけで、こんなにも怖くなる。

 何より一番怖いのは、優美ちゃんが悪者にされる事だ。
 彼女はあんなに素晴らしい人なのに、僕が関わった事によって〝男を二人受け入れる不潔な女〟と思われるのが堪らなく恐ろしい。
 彼女の家族だからこそ、娘、または孫に失望したと思われるのが怖くて堪らない。

 そうなったら、何が何でも彼女の名誉を守るつもりでいる。

 けれど、そうならないのが一番で……。

 いつのまにか俯いて、膝の上で拳を握っている僕の手に、良美さんの温かな手が重なる。

「優美を傷つけているの?」

「いいえ!」

 僕はとっさに顔を上げ、少し大きめの声で否定する。

 目の前には、穏やかに微笑んだ良美さんがいる。

「優美を愛していて、大切に思ってくれている?」

「……はい」

「それは、慎也さんも同じよね?」

「はい」

 優しい声の彼女を相手にしていると、何でか知らないけど泣きたくなってくる。

「じゃあ、いいじゃない」

 目の前で彼女が微笑んだ時には、僕の目には涙が溜まっていた。

 ずっと、自分の性癖を、慎也以外の家族にすら隠していた。

 遊び仲間は知っているけど、認めてほしい人に認められ、知られた訳じゃない。
 自分の〝人の愛し方〟は、歪んでいて間違えていると自覚していた。

 ――けど、どこかで「認めてほしい」と思っていたのも事実なんだ。

 絶対無理だと分かっていたけれど、誰かに認めてほしかった。
「間違えていないよ、大丈夫だよ」と言ってほしかった。

 その言葉を、優美ちゃんのお祖母ちゃんがくれた。

 許してくれた。

 涙が、零れ落ちて頬を伝っていく。

「日本は一夫一妻だけど、世の中には一夫多妻の国があるし、非公式に色んな関係を結んでいる人がいるわ。そもそも、神様だって色んなヤンチャをしたじゃない」

「あははっ、ゼウスなんて最低ですね」

 人と神様を比べられたら、もう笑うしかない。

「私はコンピューターお婆ちゃんで、世の中の色んな事に興味があるわ。世界には色んな愛の形がある。そして自分の孫がどんな〝愛〟の形を持っても、受け入れてあげたいって思っているの」

 微笑む彼女は、どこまでも優しい。
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