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同窓会 編
僕が欠陥人間なのは知ってるでしょ?
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「その人、もっとデートしたいとか、二人でエッチしたいとか言ってなかった?」
「ん?」
正樹は斜め上を見て目を細め、記憶をたぐっている。
「……言われたかもしれない。『乱交イベント来る割には、普通の事を言う子だな』と思った印象があった」
「それってさぁ……」
私は溜め息をつき、確信する。
「正樹の事が好きだったんだよ」
「えぇっ?」
彼は初耳だと言わんばかりに声を上げ、素の表情でこちらを見ている。
「だから、いつまでも気持ちに気付かないで乱交ばっかりしてる正樹に、愛想尽かしたんじゃない? プロポーズは嬉しかったかもしれないけど、〝自分〟を見てくれない正樹との未来を描けなかった。だから断った」
「俺も、それは結構前から思ってた」
ベッドの上に胡座をかいていた慎也が、軽く挙手して同意する。
正樹はいまだ混乱した表情をしていて、両手でゆっくり頭を抱えると、深く溜め息をついた。
「……マジか……」
深く混乱している彼を見て、ちくんと胸が痛んだ。
なぜ私は嫉妬すると分かっている事に、自ら顔を突っ込んでしまうのか。
「振られてショックだった程度には、好きだったんでしょ?」
からかい混じりに言うと、複雑そうな表情の正樹が顔を上げる。
私は自分で自分の傷に塩を塗りまくっている。アホだ。
だからと言って、「誤解を解いて付き合い直してみたら?」なんて絶対に言わないけど。
その辺、私は我が儘を言うるもりだし、事実婚してくれるって言った正樹を手放さない。
「いやー、好きだったかどうかは分かんないな」
けれど正樹は顔を上げたあと、ケロッとして少し乱れた髪を掻き上げる。
「え? でも、結婚したいって思ったんでしょ?」
「まー、当時は『結婚したら、スワッピングに同意してくれる妻ができる』って考えてたよ」
「控えめに言って最低だろ? だから正樹を受け入れられるのって、優美ぐらいしかいないんだよ」
慎也がクックックッ……と笑い、兄の最低さを主張する。
「ぶっちゃけ、僕は〝ふり〟は誰より得意だよ。まともなふり、できる男のふり、理想の彼氏、夫のふり。人が求めるものを敏感に感じ取って、演技するのは得意なんだ」
「んー、何となく、今までのあれこれで察するけど」
久賀城家にいて、家族の感情とかには人一倍敏感だったのは言われなくても分かる。
人の顔色を窺うのが当たり前になった子供は、外でも同じ事をする。
「あの子が求めたから、普通の恋人がするようなデートをしてあげた。でも結局、僕とあの子を繋いでいたのはイベントなんだ。それがないただの男女なら、一日と持たなかったと思う」
私は安堵に似た、何とも言えない感情にかられる。
「優美ちゃん、何て顔してんの。僕が欠陥人間なのは知ってるでしょ? だから僕は君の法的な夫にならない決断をした」
そう言われると、分かっていてもちょっと傷付いてしまう。
視線を下げた私の頭を、正樹が撫でてきた。
「だからー。何て顔してるの。『愛してない』なんて一言も言ってないでしょ。法的な夫にはならないけど、優美ちゃんの事は心から愛してるし、一緒に暮らして子供を産んでもらいたいって思ってるよ?」
「ん……。そう、だね。分かってる」
もうちょっと、あと少しで、この面倒くさいモードを切り替える事ができそうだ。
私は必死になって、頭の中でエクササイズビデオの〝ジョンコーチのアーミーキャンプ〟を思い浮かべた。
『自分に負けるな! 弱い自分に別れを告げ、強い自分をイメージしろ!』
頭の中でジョンコーチが軽快にステップを踏みながら言ってくる。
押忍!
「……ねぇ、優美。今の話ってラットスプレッドしながら聞く話?」
慎也がツッコミを入れ、私はハッとする。
その時になって、自分が軽く両肘を曲げた状態で、背中の筋肉に力を入れていた事に気がついた。
「ぶわっはははは!」
それに気付いた正樹が笑いだし、「でもでもだって」な空気が一変する。
「ていうか、いま何を考えてた訳?」
慎也に不審そうな目を向けられ、私は渋々と白状する。
「……〝ジョンコーチのアーミーキャンプ〟」
二人は声もなく笑い崩れ、ベッドをドンドンと叩いて爆笑する。
「今の流れでなんで?」
滲んだ涙を指で拭い、正樹が訪ねてくる。
「だって……、めんどくさい女オーラ全開になってたから、気持ちを切り替えないとって思って」
「からの、それか」
慎也が俯いて顔を隠しながら笑う。
「でも、僕は嬉しかったよ。優美ちゃん、妬いてくれたんでしょ?」
正樹が私の頭を撫で、スルリと頬から顎に手を滑らせる。
「ん?」
正樹は斜め上を見て目を細め、記憶をたぐっている。
「……言われたかもしれない。『乱交イベント来る割には、普通の事を言う子だな』と思った印象があった」
「それってさぁ……」
私は溜め息をつき、確信する。
「正樹の事が好きだったんだよ」
「えぇっ?」
彼は初耳だと言わんばかりに声を上げ、素の表情でこちらを見ている。
「だから、いつまでも気持ちに気付かないで乱交ばっかりしてる正樹に、愛想尽かしたんじゃない? プロポーズは嬉しかったかもしれないけど、〝自分〟を見てくれない正樹との未来を描けなかった。だから断った」
「俺も、それは結構前から思ってた」
ベッドの上に胡座をかいていた慎也が、軽く挙手して同意する。
正樹はいまだ混乱した表情をしていて、両手でゆっくり頭を抱えると、深く溜め息をついた。
「……マジか……」
深く混乱している彼を見て、ちくんと胸が痛んだ。
なぜ私は嫉妬すると分かっている事に、自ら顔を突っ込んでしまうのか。
「振られてショックだった程度には、好きだったんでしょ?」
からかい混じりに言うと、複雑そうな表情の正樹が顔を上げる。
私は自分で自分の傷に塩を塗りまくっている。アホだ。
だからと言って、「誤解を解いて付き合い直してみたら?」なんて絶対に言わないけど。
その辺、私は我が儘を言うるもりだし、事実婚してくれるって言った正樹を手放さない。
「いやー、好きだったかどうかは分かんないな」
けれど正樹は顔を上げたあと、ケロッとして少し乱れた髪を掻き上げる。
「え? でも、結婚したいって思ったんでしょ?」
「まー、当時は『結婚したら、スワッピングに同意してくれる妻ができる』って考えてたよ」
「控えめに言って最低だろ? だから正樹を受け入れられるのって、優美ぐらいしかいないんだよ」
慎也がクックックッ……と笑い、兄の最低さを主張する。
「ぶっちゃけ、僕は〝ふり〟は誰より得意だよ。まともなふり、できる男のふり、理想の彼氏、夫のふり。人が求めるものを敏感に感じ取って、演技するのは得意なんだ」
「んー、何となく、今までのあれこれで察するけど」
久賀城家にいて、家族の感情とかには人一倍敏感だったのは言われなくても分かる。
人の顔色を窺うのが当たり前になった子供は、外でも同じ事をする。
「あの子が求めたから、普通の恋人がするようなデートをしてあげた。でも結局、僕とあの子を繋いでいたのはイベントなんだ。それがないただの男女なら、一日と持たなかったと思う」
私は安堵に似た、何とも言えない感情にかられる。
「優美ちゃん、何て顔してんの。僕が欠陥人間なのは知ってるでしょ? だから僕は君の法的な夫にならない決断をした」
そう言われると、分かっていてもちょっと傷付いてしまう。
視線を下げた私の頭を、正樹が撫でてきた。
「だからー。何て顔してるの。『愛してない』なんて一言も言ってないでしょ。法的な夫にはならないけど、優美ちゃんの事は心から愛してるし、一緒に暮らして子供を産んでもらいたいって思ってるよ?」
「ん……。そう、だね。分かってる」
もうちょっと、あと少しで、この面倒くさいモードを切り替える事ができそうだ。
私は必死になって、頭の中でエクササイズビデオの〝ジョンコーチのアーミーキャンプ〟を思い浮かべた。
『自分に負けるな! 弱い自分に別れを告げ、強い自分をイメージしろ!』
頭の中でジョンコーチが軽快にステップを踏みながら言ってくる。
押忍!
「……ねぇ、優美。今の話ってラットスプレッドしながら聞く話?」
慎也がツッコミを入れ、私はハッとする。
その時になって、自分が軽く両肘を曲げた状態で、背中の筋肉に力を入れていた事に気がついた。
「ぶわっはははは!」
それに気付いた正樹が笑いだし、「でもでもだって」な空気が一変する。
「ていうか、いま何を考えてた訳?」
慎也に不審そうな目を向けられ、私は渋々と白状する。
「……〝ジョンコーチのアーミーキャンプ〟」
二人は声もなく笑い崩れ、ベッドをドンドンと叩いて爆笑する。
「今の流れでなんで?」
滲んだ涙を指で拭い、正樹が訪ねてくる。
「だって……、めんどくさい女オーラ全開になってたから、気持ちを切り替えないとって思って」
「からの、それか」
慎也が俯いて顔を隠しながら笑う。
「でも、僕は嬉しかったよ。優美ちゃん、妬いてくれたんでしょ?」
正樹が私の頭を撫で、スルリと頬から顎に手を滑らせる。
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