上 下
271 / 539
同窓会 編

僕が欠陥人間なのは知ってるでしょ?

しおりを挟む
「その人、もっとデートしたいとか、二人でエッチしたいとか言ってなかった?」

「ん?」

 正樹は斜め上を見て目を細め、記憶をたぐっている。

「……言われたかもしれない。『乱交イベント来る割には、普通の事を言う子だな』と思った印象があった」

「それってさぁ……」

 私は溜め息をつき、確信する。

「正樹の事が好きだったんだよ」

「えぇっ?」

 彼は初耳だと言わんばかりに声を上げ、素の表情でこちらを見ている。

「だから、いつまでも気持ちに気付かないで乱交ばっかりしてる正樹に、愛想尽かしたんじゃない? プロポーズは嬉しかったかもしれないけど、〝自分〟を見てくれない正樹との未来を描けなかった。だから断った」

「俺も、それは結構前から思ってた」

 ベッドの上に胡座をかいていた慎也が、軽く挙手して同意する。
 正樹はいまだ混乱した表情をしていて、両手でゆっくり頭を抱えると、深く溜め息をついた。

「……マジか……」

 深く混乱している彼を見て、ちくんと胸が痛んだ。
 なぜ私は嫉妬すると分かっている事に、自ら顔を突っ込んでしまうのか。

「振られてショックだった程度には、好きだったんでしょ?」

 からかい混じりに言うと、複雑そうな表情の正樹が顔を上げる。

 私は自分で自分の傷に塩を塗りまくっている。アホだ。

 だからと言って、「誤解を解いて付き合い直してみたら?」なんて絶対に言わないけど。
 その辺、私は我が儘を言うるもりだし、事実婚してくれるって言った正樹を手放さない。

「いやー、好きだったかどうかは分かんないな」

 けれど正樹は顔を上げたあと、ケロッとして少し乱れた髪を掻き上げる。

「え? でも、結婚したいって思ったんでしょ?」

「まー、当時は『結婚したら、スワッピングに同意してくれる妻ができる』って考えてたよ」

「控えめに言って最低だろ? だから正樹を受け入れられるのって、優美ぐらいしかいないんだよ」

 慎也がクックックッ……と笑い、兄の最低さを主張する。

「ぶっちゃけ、僕は〝ふり〟は誰より得意だよ。まともなふり、できる男のふり、理想の彼氏、夫のふり。人が求めるものを敏感に感じ取って、演技するのは得意なんだ」

「んー、何となく、今までのあれこれで察するけど」

 久賀城家にいて、家族の感情とかには人一倍敏感だったのは言われなくても分かる。

 人の顔色を窺うのが当たり前になった子供は、外でも同じ事をする。

「あの子が求めたから、普通の恋人がするようなデートをしてあげた。でも結局、僕とあの子を繋いでいたのはイベントなんだ。それがないただの男女なら、一日と持たなかったと思う」

 私は安堵に似た、何とも言えない感情にかられる。

「優美ちゃん、何て顔してんの。僕が欠陥人間なのは知ってるでしょ? だから僕は君の法的な夫にならない決断をした」

 そう言われると、分かっていてもちょっと傷付いてしまう。
 視線を下げた私の頭を、正樹が撫でてきた。

「だからー。何て顔してるの。『愛してない』なんて一言も言ってないでしょ。法的な夫にはならないけど、優美ちゃんの事は心から愛してるし、一緒に暮らして子供を産んでもらいたいって思ってるよ?」

「ん……。そう、だね。分かってる」

 もうちょっと、あと少しで、この面倒くさいモードを切り替える事ができそうだ。

 私は必死になって、頭の中でエクササイズビデオの〝ジョンコーチのアーミーキャンプ〟を思い浮かべた。

『自分に負けるな! 弱い自分に別れを告げ、強い自分をイメージしろ!』

 頭の中でジョンコーチが軽快にステップを踏みながら言ってくる。

 押忍!

「……ねぇ、優美。今の話ってラットスプレッドしながら聞く話?」

 慎也がツッコミを入れ、私はハッとする。
 その時になって、自分が軽く両肘を曲げた状態で、背中の筋肉に力を入れていた事に気がついた。

「ぶわっはははは!」

 それに気付いた正樹が笑いだし、「でもでもだって」な空気が一変する。

「ていうか、いま何を考えてた訳?」

 慎也に不審そうな目を向けられ、私は渋々と白状する。

「……〝ジョンコーチのアーミーキャンプ〟」

 二人は声もなく笑い崩れ、ベッドをドンドンと叩いて爆笑する。

「今の流れでなんで?」

 滲んだ涙を指で拭い、正樹が訪ねてくる。

「だって……、めんどくさい女オーラ全開になってたから、気持ちを切り替えないとって思って」

「からの、それか」

 慎也が俯いて顔を隠しながら笑う。

「でも、僕は嬉しかったよ。優美ちゃん、妬いてくれたんでしょ?」

 正樹が私の頭を撫で、スルリと頬から顎に手を滑らせる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

チョロイン2人がオイルマッサージ店でNTR快楽堕ちするまで【完結】

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:295

呪われた悪女は獣の執愛に囚われる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:561

堕ちる犬

BL / 連載中 24h.ポイント:1,604pt お気に入り:1,274

花は風と共に散る【美醜逆転】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,351

いつも姉のモノを強請る妹は

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:68

処理中です...