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同窓会 編

ここにいるはずのない人の声

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 かくいう私も、ワインを飲んでいい感じになっている。

 ――と、さっきビミョーな感じの事を言った男子たちが、酔っ払った顔でこちらにやってきた。

 なんだろ。

 目を瞬かせてると、彼らは私を見て、手を打ち鳴らして笑ってきた。
 呆気にとられていると、彼らは向こうにいる裕吾に向かって大きな声で言う。

「お前、本当に折原抱いたの? 今はコレでも、元アレなのによく抱けたな?」

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にズグッと鈍い痛みが走った。

「やめろって! そんなんじゃないから!」

 裕吾は向こうで困った顔をしていて、必死に否定する。

 私には申し訳なさそうな目を向け、彼が私に悪意を持っていないのは理解した。

 周りにいる親友は、一触即発という感じでピリピリしている。
 元目立つ系の男子たちは、彼女たちの雰囲気には気付かずニヤニヤしながら私に言った。

「折原さぁ、成人式の時に裕吾がお前に声かけてデートしたの、本気で自分に魅力があるからって思ってた?」

 完全なる酔っ払いを前に、私は黙って彼らの次の言葉を待つ。

 先日、送別会で佐藤さん相手にあれだけ言葉を並べられたのに、ここにいる人たちは九十キロの私を知っている。
そう思うだけで、心臓がバクバクと嫌な音を立てる。

 昔の弱い私が、心の奥底で顔を出しかけていた。

「あれ、俺たちが作った罰ゲームだったんだよなぁ。着物着て成人式に現れた折原がすっかり〝アフター〟になってたから、じゃんけんして負けた奴が声を掛けてお持ち帰りする事になってたんだよ」

「…………っ」

 ドクッドクッと心臓が激しく鳴っているのは、お酒のせいだけじゃない。
 今の今まで飲んでいたのに、口の中がカラカラになっていた。

 いつもならポンポン言い返せるのに、せり上がった言葉が消えてしまう。

 結果的に私の心は真っ黒になり、黙り込んでしまった。

「終わったあと、裕吾が俺たちに〝感想〟を言ってたのも知らなかっただろ」

「思い上がったデブってこっえぇ!」

 何も、言葉が出てこない。

 頭の中が真っ白になって、手が震えて、目が潤んでしまう。

(私は……、〝こう〟じゃない。〝違う〟。私は、生まれ変わったはずで……)

 自分に対して必死に「違う」と言い聞かせても、恐怖のあまり何も言い返せない。

 目の前の彼らは、私の上司でもないし、機嫌を損ねたらこの先の人生が台無しになる訳でもない。

 けれど高校生当時にはスクールカーストがあって、私は圧倒的に〝底辺〟だった。

 ゲラゲラ笑う声が、遠くから聞こえるようだ。

 今まで「楽しく生きたい」「前向きに明るく生活したい」と思っていた信念、キラキラとした感情が、一気に冷めて死んでいくのを感じた。

 いじめは、心の殺人だ。

 そんな言葉を、不意に思いだした。

 私が固まっている間も、彼らは楽しそうに会話する。

「折原が休み時間になって、購買で幾つもパン買ってる姿、恐怖だったよな! あんなに喰ったら死ぬっての」

「弁当箱すっげぇデカくなかった? 男並みだよな!」

「っていうか、汗やばかっただろ! 夏場になったらハァハァ言ってて、口からも二酸化炭素出すし、体から蒸気出すし、めっちゃ湿度高ぇの」

「やだぁ、やめなよぉ」

 さっき私に話しかけてきた女子たちが、クスクス笑って言う。

 急に昔の凄まじい羞恥が私を襲ってきた。

 この場から消えたい。

 そんな気持ちに陥った私は、心を閉ざして俯き、肩を狭めていた。

 ――その時、声がした。

 ここにいるはずのない人の声だ。

「ねぇ、君、凄いね? 指輪してるっていう事は、〝ソレ〟で奥さんいるんだ? 何なら子供もいる? すっごぉ!」

 軽薄ともとれる声。そして人を煽るのが劇的に巧い、この声は――。

 ノロノロと顔を上げた私の視線の先には、正樹がいた。

 隣に、慎也もいる。

 この場にいる誰より洗練された美形を前に、全員がどよめいた。

「優美、帰るぞ」

 慎也が手を差しだしてくる。

「誰こいつ」

 驚いた男子が引き気味に尋ねると、慎也は左手の薬指に嵌まった指輪を見せ、にっこり笑った。

「久賀城ホールディングスで役員をしています、優美の婚約者の久賀城慎也と申します」

 その社名、役職を聞き、彼らは顔を引きつらせた。

 さっき私に〝お願い〟をしてきた彼女たちは、「何で折原にこんな男が!」と羨望の目で私を見てくる。

 さらに二人の後ろから、今日も完璧な文香が前に進みでた。
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