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送別会 編
私には怒る権利がある
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普段私を慕ってくれている女性社員たちもいるけど、佐藤さんたちに口出ししたらどうなるのか分かっているからか、困った顔をして私を気遣っているだけだった。
「あはは、カンベンしてよ。まったくのプライベートだから」
「結婚するんですよね? お相手はどんな人です? やっぱり筋肉質?」
取り巻きAが揶揄し、佐藤さんとBが笑う。
めんど……。
「今日で終わりだし、佐藤さん達とも今日限り。見逃して?」
いつもと変わりなくサラッと応対して完璧なスマイルを浮かべたけれど、蟻地獄佐藤は逃がしてくれない。
「えぇ~? いいじゃないですかぁ。逆に今日で終わりなら、何を言っても良くないです?」
あー、だっる!
この際、思っていた事、全部言っちゃおうか。
立つ鳥跡を濁さずって思ってたけど、最後の最後までこうやって絡まれたのなら、カウンターパンチしても許されるはず。
「それだとさぁ、佐藤さん。退社したあと、私の噂話ずっとしてるでしょ?」
のらりくらりと逃げていた私が、真正面から言葉を捕まえて返してきたもんだから、彼女たちはギョッとしていた。
私の事を〝抵抗しないサンドバッグ〟って思ってたんだろうな。
けどね? サンドバッグって思いっきり叩いたら、反動でぶつかってくるの知ってる?
私は心の中で拳を構え、とりあえずジャブを出してみる。
「今まで、トイレに私が入ってるの分かっていながら、わざと聞かせるように色々言ってくれてありがとう」
「え……」
三人は顔色を悪くし、お互い「どうしたの? これ」というように視線を交わし合っている。
一方で、私の味方をしてくれている女性社員たちは「キタコレ!」という顔をしていた。
「気付いてないとでも思ってた? それで傷付いてないとでも思ってた? 〝脳筋マッチョ女〟でも、人の心は持ってるんだよ?」
トイレの中で彼女たちが言っていた言葉をわざと使うと、三人は顔をひきつらせた。
「きゅ、急にどうしたんですか? こわぁい!」
佐藤さんが可愛子ぶった悲鳴を上げ、周りの男性社員たちに助けを求める視線を送った。
けど、浜崎くんが皆に謝罪して会社を去って行った今、あいつほど率先して私をいじる人はもういない。
いるとすれば佐藤さん達だけだ。
「最後だから言っとく。佐藤さんたちがどういうスタンスで会社に来てるのかは知らない。まぁ、社会人だし会社だし、働きに来てるとは思ってるけどね? 私は会社と自分のために働いたし、そのために沢山勉強した。同じ努力をしないで、私が枕やってるとか、顔で営業勝ち取ったとか言いふらすのやめてくれる?」
こっちの話し声が聞こえていない、遠くの席の社員以外、近くにいる人たちはお酒を飲む手を止めて私の言葉を聞いていた。
「今までは職場の雰囲気が悪くなるのが嫌だった。『悪口言うのやめてください』なんて言えば、あなた達が大喜びして話のネタにするの分かっていた。だから反撃しないでおいた。けど、最後だから積もり積もったものをハッキリ言わせてもらうね? 〝怖い女〟で結構。社会的信用を貶められたまま会社を去るほうが、ずっと心残りだから」
私はもう、笑っていなかった。
「あなたは私が気に食わなくて嫌いなんだと思う。その理由は、きっと私のせいじゃない。第三者的に見て、営業成績がいいからとか、課長の覚えがいいから、皆に憧れられているからとか、色々考えられる。自慢するつもりじゃないけど、それらはすべて私が努力して勝ち取ったものだから、遠慮しないし謙遜もしない」
まっすぐに佐藤さんを見据え、私は一言一言ハッキリと告げる。
反撃してくると思っていなかった彼女たちは、いまや顔面蒼白になっていた。
そして誰も、佐藤さんたちに加勢しようとしない。
それが、現実だ。
「嫉妬するのは悪い感情じゃない。それがパワーになって『負けるもんか』ってなるなら、いいと思う。でも妬んで悪口を言って、相手を引きずり下ろそうとするのは醜いし、見ていて吐き気がする。気がついてる? あなた達三人に他の人が仕事以外で話しかけないの、いつ自分の悪口を言われるか分からないから、避けてるだけだよ」
言われて、佐藤さん達はハッとして周囲を見た。
けれど他の社員たちは決まり悪く視線をそらし、目を合わせようとしない。
「悪口ばっかり言ってる人は嫌われても仕方がないの。あなた達への文句や愚痴はあったけど、私は決して表に出さなかった。皆も私がボロクソに言われているの知っていながら、へたに味方をしたら自分も巻き込まれるから何も言わなかった。場合により、あなた達に話を合わせたかもしれない。それは単なる自衛だし、私は何も言うつもりはない。けど、内心『また折原の悪口か、飽きないな』って思われてたのは確実だと思う」
視界の端で、女性社員が頷いた。
「やり返さずに黙って働いて、営業成績を上げている私を見て、皆思う事はあったと思う。それが私の〝答え〟だったから、黙って見守ってくれていたと信じてる。私は絶対に、同僚を巻き込んでの悪口合戦をしたくなかった。それをやったら泥合戦になって、あなた達と同類になるから」
くそみそに言われ、佐藤さんたちは今度は顔を赤くして怒っていた。
怒ればいい。私はもっと怒ってる。私には怒る権利がある。
「あはは、カンベンしてよ。まったくのプライベートだから」
「結婚するんですよね? お相手はどんな人です? やっぱり筋肉質?」
取り巻きAが揶揄し、佐藤さんとBが笑う。
めんど……。
「今日で終わりだし、佐藤さん達とも今日限り。見逃して?」
いつもと変わりなくサラッと応対して完璧なスマイルを浮かべたけれど、蟻地獄佐藤は逃がしてくれない。
「えぇ~? いいじゃないですかぁ。逆に今日で終わりなら、何を言っても良くないです?」
あー、だっる!
この際、思っていた事、全部言っちゃおうか。
立つ鳥跡を濁さずって思ってたけど、最後の最後までこうやって絡まれたのなら、カウンターパンチしても許されるはず。
「それだとさぁ、佐藤さん。退社したあと、私の噂話ずっとしてるでしょ?」
のらりくらりと逃げていた私が、真正面から言葉を捕まえて返してきたもんだから、彼女たちはギョッとしていた。
私の事を〝抵抗しないサンドバッグ〟って思ってたんだろうな。
けどね? サンドバッグって思いっきり叩いたら、反動でぶつかってくるの知ってる?
私は心の中で拳を構え、とりあえずジャブを出してみる。
「今まで、トイレに私が入ってるの分かっていながら、わざと聞かせるように色々言ってくれてありがとう」
「え……」
三人は顔色を悪くし、お互い「どうしたの? これ」というように視線を交わし合っている。
一方で、私の味方をしてくれている女性社員たちは「キタコレ!」という顔をしていた。
「気付いてないとでも思ってた? それで傷付いてないとでも思ってた? 〝脳筋マッチョ女〟でも、人の心は持ってるんだよ?」
トイレの中で彼女たちが言っていた言葉をわざと使うと、三人は顔をひきつらせた。
「きゅ、急にどうしたんですか? こわぁい!」
佐藤さんが可愛子ぶった悲鳴を上げ、周りの男性社員たちに助けを求める視線を送った。
けど、浜崎くんが皆に謝罪して会社を去って行った今、あいつほど率先して私をいじる人はもういない。
いるとすれば佐藤さん達だけだ。
「最後だから言っとく。佐藤さんたちがどういうスタンスで会社に来てるのかは知らない。まぁ、社会人だし会社だし、働きに来てるとは思ってるけどね? 私は会社と自分のために働いたし、そのために沢山勉強した。同じ努力をしないで、私が枕やってるとか、顔で営業勝ち取ったとか言いふらすのやめてくれる?」
こっちの話し声が聞こえていない、遠くの席の社員以外、近くにいる人たちはお酒を飲む手を止めて私の言葉を聞いていた。
「今までは職場の雰囲気が悪くなるのが嫌だった。『悪口言うのやめてください』なんて言えば、あなた達が大喜びして話のネタにするの分かっていた。だから反撃しないでおいた。けど、最後だから積もり積もったものをハッキリ言わせてもらうね? 〝怖い女〟で結構。社会的信用を貶められたまま会社を去るほうが、ずっと心残りだから」
私はもう、笑っていなかった。
「あなたは私が気に食わなくて嫌いなんだと思う。その理由は、きっと私のせいじゃない。第三者的に見て、営業成績がいいからとか、課長の覚えがいいから、皆に憧れられているからとか、色々考えられる。自慢するつもりじゃないけど、それらはすべて私が努力して勝ち取ったものだから、遠慮しないし謙遜もしない」
まっすぐに佐藤さんを見据え、私は一言一言ハッキリと告げる。
反撃してくると思っていなかった彼女たちは、いまや顔面蒼白になっていた。
そして誰も、佐藤さんたちに加勢しようとしない。
それが、現実だ。
「嫉妬するのは悪い感情じゃない。それがパワーになって『負けるもんか』ってなるなら、いいと思う。でも妬んで悪口を言って、相手を引きずり下ろそうとするのは醜いし、見ていて吐き気がする。気がついてる? あなた達三人に他の人が仕事以外で話しかけないの、いつ自分の悪口を言われるか分からないから、避けてるだけだよ」
言われて、佐藤さん達はハッとして周囲を見た。
けれど他の社員たちは決まり悪く視線をそらし、目を合わせようとしない。
「悪口ばっかり言ってる人は嫌われても仕方がないの。あなた達への文句や愚痴はあったけど、私は決して表に出さなかった。皆も私がボロクソに言われているの知っていながら、へたに味方をしたら自分も巻き込まれるから何も言わなかった。場合により、あなた達に話を合わせたかもしれない。それは単なる自衛だし、私は何も言うつもりはない。けど、内心『また折原の悪口か、飽きないな』って思われてたのは確実だと思う」
視界の端で、女性社員が頷いた。
「やり返さずに黙って働いて、営業成績を上げている私を見て、皆思う事はあったと思う。それが私の〝答え〟だったから、黙って見守ってくれていたと信じてる。私は絶対に、同僚を巻き込んでの悪口合戦をしたくなかった。それをやったら泥合戦になって、あなた達と同類になるから」
くそみそに言われ、佐藤さんたちは今度は顔を赤くして怒っていた。
怒ればいい。私はもっと怒ってる。私には怒る権利がある。
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