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五十嵐と再会 編
ちょっと甘えていい?
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「五十嵐さんに会うの?」
「彼女もある程度の覚悟はしてると思うよ。前回の事で〝何かあったら個人情報をもとに、相応の事をされても構わない〟っていう文章の入った契約書に、印鑑はもらったし」
「責めたりしないで」
正樹は懇願する私の前に立ち、頭を撫でてくる。
「僕は鬼じゃないよ。優美ちゃんの気持ちは分かってる。ただ、君を殴った男だけは許せない。だからそいつらの情報を引き出したい。そのために彼女に協力してもらうだけだよ」
「……うん」
頷いた私の前で、彼は目を細めて微笑み、額に口づけてきた。
「じゃあね」
ヒラリと手を振って、正樹は家を出て行った。
溜め息をついた私に、慎也がキスをしてくる。
「正樹に任せておけって。きっと悪いようにはしない」
「ん……。信じてる」
そう言うものの、ついつい溜め息が出てしまう。
「私、甘いのかな? 自分の周りにいる人には幸せであってほしいと思ってしまう」
「それはいいんじゃないかな? 俺は優美の平和な性格、好きだよ。そもそも、正樹は五十嵐を罰しようとはしてないから、安心して」
「うん」
慎也は息をつき、私に向き直って頬に手を当ててきた。
「痛くない?」
「昨日冷やしたから大丈夫」
慎也は心配そうに目を細め、赤くなっている頬に軽く口づける。
「……頼むから、もう心配させないでくれ。本当に死ぬかと思った」
そう言った慎也は胸に手を当て、自分の鼓動を確かめる。
「ごめん」
「優美は、女性なんだからな? 幾ら強く生まれ変われたと思っていても、女性だ。鍛えてるからヒョロい男に勝てるとか、そういう事じゃないんだ」
「ん……」
文香と同じ事を言われてしまった。
「駄目だね。会社ではあれほど『女性扱いしてほしい』と思っていたのに、慣れてしまったからか、いざとなると人に頼るのが苦手で、自分で解決しようとしちゃう」
それに慎也は小さく頷く。
「気持ちが自立してると、人に頼るのが苦手になるのは分かる。でも、前に優美が自分でいったように、結婚する事って相手に弱さを見せて甘える事だ」
自分で言った言葉を突きつけられ、「その通りだ」と思った。
「……そうだね。一人で何でも解決できるなら、パートナーは要らないかもしれない。家族として色んな事を共有して一緒に生きていきたいなら、意識を変えていかないと」
私はゆっくり息を吐きながら、温かいコーヒーを飲む。
怒られるかも……と思っていた緊張が切れて、気持ちが緩む。
「……じゃあ、ちょっと甘えていい?」
「どうぞ」
慎也は微笑み、両手を広げる。
私がその腕の中にポスンと収まると、彼はカウチソファに背を預けて抱き締めてきた。
「……『怖くなかった』って言ったら、嘘になる」
「うん」
「でも私、キックボクシングの練習してたし、護身術だってエディさんにかました。格闘技をやった事がなさそうなヒョロい兄ちゃんたちだったし、勝算はあると思ってた」
「ん」
「ただ、あんまり煽ったら、ヒョロい兄ちゃんでも四人同時に襲われたらどうなるか、っていう心配した。喧嘩慣れしてる訳じゃないから」
「当然だよ。喧嘩慣れなんてしなくていい」
慎也は溜め息混じりに言う。
「……今思うと、五十嵐さんを守らないとっていう気持ちからの、蛮勇だったと思う。文香にも怒られた」
「うん」
慎也はポンポンと私の頭を撫でる。
「ただ、あの子にこれ以上身を滅ぼすような真似をしてほしくなかった。それで……、体が動いちゃった」
「脳筋」
「うっ」
慎也に言われた言葉に言い返せず、私はうめき声を上げる。
「……何も言えません」
プルプルと震える私を、後ろから慎也がぎゅーっと抱き締めた。
「……そういう所が好きなんだけどさ。……五年前に再会した時も。周りを顧みないで自分の信じた道を進もうとする姿が、すっげぇ眩しかった。だから憧れた。憧れたあとは手に入れたい、こっちを向かせたいって思った。恋人になった今は、どっかに行っちゃわないように守りたい、俺だけを見ててほしいって思うようになった」
慎也の声が、背中から私の体に反響する。
「…………好きだよ」
慎也は私の腹部に両手を回し、耳元で告白する。
「……あり、がと」
なんだか分からないけど、二人きりだからか急に恥ずかしくなってきてしまった。
「彼女もある程度の覚悟はしてると思うよ。前回の事で〝何かあったら個人情報をもとに、相応の事をされても構わない〟っていう文章の入った契約書に、印鑑はもらったし」
「責めたりしないで」
正樹は懇願する私の前に立ち、頭を撫でてくる。
「僕は鬼じゃないよ。優美ちゃんの気持ちは分かってる。ただ、君を殴った男だけは許せない。だからそいつらの情報を引き出したい。そのために彼女に協力してもらうだけだよ」
「……うん」
頷いた私の前で、彼は目を細めて微笑み、額に口づけてきた。
「じゃあね」
ヒラリと手を振って、正樹は家を出て行った。
溜め息をついた私に、慎也がキスをしてくる。
「正樹に任せておけって。きっと悪いようにはしない」
「ん……。信じてる」
そう言うものの、ついつい溜め息が出てしまう。
「私、甘いのかな? 自分の周りにいる人には幸せであってほしいと思ってしまう」
「それはいいんじゃないかな? 俺は優美の平和な性格、好きだよ。そもそも、正樹は五十嵐を罰しようとはしてないから、安心して」
「うん」
慎也は息をつき、私に向き直って頬に手を当ててきた。
「痛くない?」
「昨日冷やしたから大丈夫」
慎也は心配そうに目を細め、赤くなっている頬に軽く口づける。
「……頼むから、もう心配させないでくれ。本当に死ぬかと思った」
そう言った慎也は胸に手を当て、自分の鼓動を確かめる。
「ごめん」
「優美は、女性なんだからな? 幾ら強く生まれ変われたと思っていても、女性だ。鍛えてるからヒョロい男に勝てるとか、そういう事じゃないんだ」
「ん……」
文香と同じ事を言われてしまった。
「駄目だね。会社ではあれほど『女性扱いしてほしい』と思っていたのに、慣れてしまったからか、いざとなると人に頼るのが苦手で、自分で解決しようとしちゃう」
それに慎也は小さく頷く。
「気持ちが自立してると、人に頼るのが苦手になるのは分かる。でも、前に優美が自分でいったように、結婚する事って相手に弱さを見せて甘える事だ」
自分で言った言葉を突きつけられ、「その通りだ」と思った。
「……そうだね。一人で何でも解決できるなら、パートナーは要らないかもしれない。家族として色んな事を共有して一緒に生きていきたいなら、意識を変えていかないと」
私はゆっくり息を吐きながら、温かいコーヒーを飲む。
怒られるかも……と思っていた緊張が切れて、気持ちが緩む。
「……じゃあ、ちょっと甘えていい?」
「どうぞ」
慎也は微笑み、両手を広げる。
私がその腕の中にポスンと収まると、彼はカウチソファに背を預けて抱き締めてきた。
「……『怖くなかった』って言ったら、嘘になる」
「うん」
「でも私、キックボクシングの練習してたし、護身術だってエディさんにかました。格闘技をやった事がなさそうなヒョロい兄ちゃんたちだったし、勝算はあると思ってた」
「ん」
「ただ、あんまり煽ったら、ヒョロい兄ちゃんでも四人同時に襲われたらどうなるか、っていう心配した。喧嘩慣れしてる訳じゃないから」
「当然だよ。喧嘩慣れなんてしなくていい」
慎也は溜め息混じりに言う。
「……今思うと、五十嵐さんを守らないとっていう気持ちからの、蛮勇だったと思う。文香にも怒られた」
「うん」
慎也はポンポンと私の頭を撫でる。
「ただ、あの子にこれ以上身を滅ぼすような真似をしてほしくなかった。それで……、体が動いちゃった」
「脳筋」
「うっ」
慎也に言われた言葉に言い返せず、私はうめき声を上げる。
「……何も言えません」
プルプルと震える私を、後ろから慎也がぎゅーっと抱き締めた。
「……そういう所が好きなんだけどさ。……五年前に再会した時も。周りを顧みないで自分の信じた道を進もうとする姿が、すっげぇ眩しかった。だから憧れた。憧れたあとは手に入れたい、こっちを向かせたいって思った。恋人になった今は、どっかに行っちゃわないように守りたい、俺だけを見ててほしいって思うようになった」
慎也の声が、背中から私の体に反響する。
「…………好きだよ」
慎也は私の腹部に両手を回し、耳元で告白する。
「……あり、がと」
なんだか分からないけど、二人きりだからか急に恥ずかしくなってきてしまった。
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