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五十嵐と再会 編
ちょっと僕行ってくるね
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正樹はいつもおちゃらけていて「たまにはまじめになって」って思うぐらいだ。
けれど肝心な時には、きちんとした対応を取れる人だ。
自分のトラウマを刺激されても、私が心配掛けても、感情的になって怒鳴らない。
慎也も同じだ。
年下だけど、私よりずっとしっかりしてる。
いつもは私が二人を引っ張っているような感覚でいたけれど、本当はとてもキャパシティの大きな二人に私が包み込まれ、守られている。
私は二人が作った安全な場所で、のびのび自由気ままにできていただけだ。
だからこそ、真剣な話をする時は二人の意見をきちんと聞かないといけない。
正樹が言った〝私に対する結論〟という言葉を考えると、〝私以外への結論〟や、〝過程〟もある。
こういう時、きちんと分けて考えている彼は、やはり企業のトップにいるだけあるな、と考えてしまった。
やがて正樹がコーヒーをマグカップに入れ、トレーで運んできた。
テーブルにマグカップが置かれ、「ありがと」とお礼を言って熱いうちに一口飲む。
「……さて。僕たちの知らない話を聞こうか」
正樹に言われ、私は観念する。
そして慎也に抱き締められたまま、五十嵐さんと再会した話をした。
「……それって、単純に警察呼ぶだけじゃ駄目だったの?」
正樹がスパッと言う。
「時間稼ぎしないと、無抵抗な彼女がラブホに連れ込まれると思って……」
耳元で慎也が乱暴な息をつく。
「そんなの……」
何かを言いかけ、彼は黙る。
代わりに正樹が言った。
「何であれだけされておいて、殴られてまで助けようって思ったの? 僕には理解できないんだけど」
相変わらず容赦がない。
それに対し、私は主張する。
「もう彼女は以前とは違うよ。……色々話したの。もう彼女は以前のままじゃないし、いい方向に変わろうとしている。……以前の私たちは知らなかった、彼女の生い立ち、背景、理由もきちんとある。……今回の事は無鉄砲な私が悪かったけど、彼女の事情を知らないで悪く言うのはやめてほしい」
五十嵐さんを懸命に庇う私を見て、二人は瞠目して驚いた。
「……いつの間にそんなに仲良くなったの?」
慎也の問いに、私は答える。
「沢山話した。心を裸にして接したら、きちんと分かり合えるよ」
けれど正樹は苛ついて溜め息をつく。
「僕には甘ちゃんの詭弁に思える。優美ちゃんの優しいところは好きで美点だと思うけど、そうやってすぐほだされるの、危ういと思うよ」
「そんな……」
唇を噛む私の頭を、慎也がポンポンと撫でる。
「俺も半分以上は正樹に賛成。優美の言う通り、沢山話して俺たちの知らない事を知ったんだと思う。あれだけされたのに、こんなに向き合う優美は凄いと思う。ただ、世の中の歪んだ奴全員に、優美の声が届く訳じゃない。現に優美を殴った男だっている。そいつらまで〝話し合い〟をして改心させられると思ってるのか?」
もっともな事を言われ、私は首を左右に振る。
「……思ってない。私は慈善事業家じゃないし、カウンセラーでも聖職者でもない」
「うん、分かってるみたいだね」
正樹が言い、コーヒーを飲む。
「『今回はうまくいった』。それだけだよ。君は〝ツイてる〟タイプの女性だけど、世の中すべてが思い通りにいく訳じゃない。君の持つ善性がすべての人間に通じる訳じゃない。それはしっかり頭に叩き込んでおいて」
「……ごめんなさい」
シュンとして謝ると、慎也が話を変えた。
「優美へのお咎めはこの辺にしておこう。十分反省しているようだし。……それはそうと、優美を殴った男たちって、どんな男か分かる?」
言われて、私は昨晩の事を思いだした。
「え? ……いやぁ……。夜だったし……。四人いて、チャラ男ではあったけど、服装がストリート系とか、そういうのじゃなかった。服装は割と普通。でも話したら『チャライなこいつ』って思う感じ。モテそうだけど腹黒そう……とか」
「……それってさぁ、五十嵐は連絡先知らないの?」
正樹に言われ、私は「あ」と声を漏らす。
「彼女から連絡して呼び出したみたいだから、連絡先は知ってるかも。でももうブロックしてると思うし、私も関わるなって言っちゃった」
「んー、よし。ちょっと僕行ってくるね」
正樹はクイーッとコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。
「えっ!?」
驚いた私を、慎也が抱きすくめる。
「いいから、正樹に任せておいて」
けれど肝心な時には、きちんとした対応を取れる人だ。
自分のトラウマを刺激されても、私が心配掛けても、感情的になって怒鳴らない。
慎也も同じだ。
年下だけど、私よりずっとしっかりしてる。
いつもは私が二人を引っ張っているような感覚でいたけれど、本当はとてもキャパシティの大きな二人に私が包み込まれ、守られている。
私は二人が作った安全な場所で、のびのび自由気ままにできていただけだ。
だからこそ、真剣な話をする時は二人の意見をきちんと聞かないといけない。
正樹が言った〝私に対する結論〟という言葉を考えると、〝私以外への結論〟や、〝過程〟もある。
こういう時、きちんと分けて考えている彼は、やはり企業のトップにいるだけあるな、と考えてしまった。
やがて正樹がコーヒーをマグカップに入れ、トレーで運んできた。
テーブルにマグカップが置かれ、「ありがと」とお礼を言って熱いうちに一口飲む。
「……さて。僕たちの知らない話を聞こうか」
正樹に言われ、私は観念する。
そして慎也に抱き締められたまま、五十嵐さんと再会した話をした。
「……それって、単純に警察呼ぶだけじゃ駄目だったの?」
正樹がスパッと言う。
「時間稼ぎしないと、無抵抗な彼女がラブホに連れ込まれると思って……」
耳元で慎也が乱暴な息をつく。
「そんなの……」
何かを言いかけ、彼は黙る。
代わりに正樹が言った。
「何であれだけされておいて、殴られてまで助けようって思ったの? 僕には理解できないんだけど」
相変わらず容赦がない。
それに対し、私は主張する。
「もう彼女は以前とは違うよ。……色々話したの。もう彼女は以前のままじゃないし、いい方向に変わろうとしている。……以前の私たちは知らなかった、彼女の生い立ち、背景、理由もきちんとある。……今回の事は無鉄砲な私が悪かったけど、彼女の事情を知らないで悪く言うのはやめてほしい」
五十嵐さんを懸命に庇う私を見て、二人は瞠目して驚いた。
「……いつの間にそんなに仲良くなったの?」
慎也の問いに、私は答える。
「沢山話した。心を裸にして接したら、きちんと分かり合えるよ」
けれど正樹は苛ついて溜め息をつく。
「僕には甘ちゃんの詭弁に思える。優美ちゃんの優しいところは好きで美点だと思うけど、そうやってすぐほだされるの、危ういと思うよ」
「そんな……」
唇を噛む私の頭を、慎也がポンポンと撫でる。
「俺も半分以上は正樹に賛成。優美の言う通り、沢山話して俺たちの知らない事を知ったんだと思う。あれだけされたのに、こんなに向き合う優美は凄いと思う。ただ、世の中の歪んだ奴全員に、優美の声が届く訳じゃない。現に優美を殴った男だっている。そいつらまで〝話し合い〟をして改心させられると思ってるのか?」
もっともな事を言われ、私は首を左右に振る。
「……思ってない。私は慈善事業家じゃないし、カウンセラーでも聖職者でもない」
「うん、分かってるみたいだね」
正樹が言い、コーヒーを飲む。
「『今回はうまくいった』。それだけだよ。君は〝ツイてる〟タイプの女性だけど、世の中すべてが思い通りにいく訳じゃない。君の持つ善性がすべての人間に通じる訳じゃない。それはしっかり頭に叩き込んでおいて」
「……ごめんなさい」
シュンとして謝ると、慎也が話を変えた。
「優美へのお咎めはこの辺にしておこう。十分反省しているようだし。……それはそうと、優美を殴った男たちって、どんな男か分かる?」
言われて、私は昨晩の事を思いだした。
「え? ……いやぁ……。夜だったし……。四人いて、チャラ男ではあったけど、服装がストリート系とか、そういうのじゃなかった。服装は割と普通。でも話したら『チャライなこいつ』って思う感じ。モテそうだけど腹黒そう……とか」
「……それってさぁ、五十嵐は連絡先知らないの?」
正樹に言われ、私は「あ」と声を漏らす。
「彼女から連絡して呼び出したみたいだから、連絡先は知ってるかも。でももうブロックしてると思うし、私も関わるなって言っちゃった」
「んー、よし。ちょっと僕行ってくるね」
正樹はクイーッとコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。
「えっ!?」
驚いた私を、慎也が抱きすくめる。
「いいから、正樹に任せておいて」
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