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五十嵐と再会 編
自分のレベルを上げないと
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「自己改革して内側から健康的になったら、よさげなものが滲み出てくると思うよ。悪いけど今の五十嵐さんって、『仲良くしたい』と思える雰囲気じゃないんだよね。目元が吊り上がってて、きつい印象がある。あと、オーラが何となく暗い。さっきからオーラって、スピってる訳じゃないんだけど」
「目……!?」
和人くんに言われ、五十嵐さんは納得いくよう整形したはずの目元に手を当てる。
その時、文香が「あ」と言って話を引き継ぐ。
「あのさ、知り合いが保護センターから譲られた犬を飼ってるの。それで、もらってきたばっかりの写真を見せてもらったら、本当に目つきがきつくて、緊迫した雰囲気なの。今は愛されて安心して、すっかり温和な別人……じゃないや、別犬になってる。そういう、内面が外見に出るのって、人間でもあるよ。鬱やってた知り合いも顔つきが凄く違うもん」
五十嵐さんは無意識に手で顔に触れ、呟く。
「……顔をいじればいいって訳じゃなかったんだ……」
呆然とした彼女に、私は頷く。
「そうだね。美人でも怖そうなオーラ出てたら、あんまりお近づきになりたいなとは思わない。逆に、特別美人じゃなくても、笑顔が素敵で親切そうなら『友達になりたい』って思う」
彼女は落ち込んだように肩を落としたので、励ますためにポンポンと叩く。
「気づけたらラッキーだって言ったでしょ? これから治していけるよ」
「……うん」
ついいでに背中もポンポンと叩き、付け加える。
「自分に丁寧になると、人にも丁寧にできるよ。言葉遣いも意識して直していくと、いざという時も困らないと思う。前に居酒屋で本性出ちゃってたじゃん。ああいうの、どっかこっかで滲み出ちゃうと思うんだよね。彼氏の前で可愛くしていても、友達に適当にしてたり、誰かの陰口を叩いていたら、いつかチクられるとか。そういう二面性をなくして全方向に丁寧になれたら、きっと周りの五十嵐さんを見る目も変わると思うよ」
荒い言葉遣いを自覚して、彼女は決まり悪そうに、けれど素直に頷く。
「どんな相手でも、大人として敬意を示せるようにしよう。心の筋肉つけるの。〝失礼な人〟にならなければ、最低限相手もあなたを尊重してくれると思う。丁寧に接しても失礼な事をしてくる奴は、こっちから願い下げで大丈夫」
グッとサムズアップすると彼女は「うん」と頷く。
彼女はクロワッサンを囓り、優しい甘みのあるカボチャスープを飲んで、ホッと息をついた。
「なんか、目から鱗。『こうなりたい』って思っていた人たちは、私が想像していたのと真逆だった。勝手なイメージだけど、傲慢で家事なんてしなくて、夜遊びしてクラブとかにも顔が利いて、SNSのフォロワー命で、見栄を一番にしてるのかと思ってた」
それを聞いて、文香が噴き出した。
「えー? あはは! それはないわー。私、SNSは趣味だもん。インフルエンサーって言っても、PR案件は好きじゃないし、趣味で情報を発信してるだけ。フォロワーはただのファンなら嬉しいけど、意見を言って私を操作するなら、いなくていいやって思ってる。趣味のSNSぐらい好きにやらせてって思うし。ぶっちゃけ、飽きたらいつでもやめて、投資だけでも生きていける」
「あんなにフォロワーいるのに?」
五十嵐さんは「信じられない」という顔をするけれど、文香はケロリとして言う。
「いなくたって、生きてけるよ」
五十嵐さんは溜め息をつき、尋ねてくる。
「何を大切にして生きてるの?」
文香と私は顔を見合わせる。
「健康な毎日。自分を理解してくれる、信頼できる人。生きていくためのお金」
「あとはちょっとのご褒美の、美味しいものとか、旅行とか」
私と文香は意見を言い、頷き合う。
「理解してくれる人って、どうやったら見つかる?」
さらなる質問に、私は首をひねる。
「うーん、すぐは無理だね。だってその辺歩いてて、いきなり声を掛けて親友になんてなれないじゃん。運命の出会いとか、一目惚れ、魂の双子と表現される人がいるけど、すんっごい確率でマッチした場合だし。普通に生きてたらまず無理だよ」
「そうだね……」
頷いた彼女を見て、私は続ける。
「今はちょっと我慢して、孤独でも自分を大切にして、変えていく事を優先したほうがいいんじゃないかな。自分磨きもして、恋人や親友も探して……って、一遍には無理だよ。今も縁が続いている友達は大切にして、これから繋がっていく人を『信頼できるな』って思ったら、信じて大切にしたらいい。いい友達、恋人と巡り会いたいなら、まず自分のレベルを上げないと」
私の言葉を聞いて、五十嵐さんはあの言葉を思いだす。
「『自分の周りにいる人五人の平均が自分』だっけ」
「そう」
その言葉は、慎也と正樹に初めて出会った時、慎也に言われた言葉だ。
私はそれを心に大切に掲げて人付き合いしてきた。
ある意味、今の私の一部を形成しているのは彼らだ。
「頑張ってみる」
静かに決意する彼女に、私は多少の申し訳なさを覚えて謝る。
「色々いいすぎて、混乱させたならごめんね」
最初に彼女を責めるつもりはないと言ったけど、結局、三人して説教する形になってしまった。申し訳ない。
「目……!?」
和人くんに言われ、五十嵐さんは納得いくよう整形したはずの目元に手を当てる。
その時、文香が「あ」と言って話を引き継ぐ。
「あのさ、知り合いが保護センターから譲られた犬を飼ってるの。それで、もらってきたばっかりの写真を見せてもらったら、本当に目つきがきつくて、緊迫した雰囲気なの。今は愛されて安心して、すっかり温和な別人……じゃないや、別犬になってる。そういう、内面が外見に出るのって、人間でもあるよ。鬱やってた知り合いも顔つきが凄く違うもん」
五十嵐さんは無意識に手で顔に触れ、呟く。
「……顔をいじればいいって訳じゃなかったんだ……」
呆然とした彼女に、私は頷く。
「そうだね。美人でも怖そうなオーラ出てたら、あんまりお近づきになりたいなとは思わない。逆に、特別美人じゃなくても、笑顔が素敵で親切そうなら『友達になりたい』って思う」
彼女は落ち込んだように肩を落としたので、励ますためにポンポンと叩く。
「気づけたらラッキーだって言ったでしょ? これから治していけるよ」
「……うん」
ついいでに背中もポンポンと叩き、付け加える。
「自分に丁寧になると、人にも丁寧にできるよ。言葉遣いも意識して直していくと、いざという時も困らないと思う。前に居酒屋で本性出ちゃってたじゃん。ああいうの、どっかこっかで滲み出ちゃうと思うんだよね。彼氏の前で可愛くしていても、友達に適当にしてたり、誰かの陰口を叩いていたら、いつかチクられるとか。そういう二面性をなくして全方向に丁寧になれたら、きっと周りの五十嵐さんを見る目も変わると思うよ」
荒い言葉遣いを自覚して、彼女は決まり悪そうに、けれど素直に頷く。
「どんな相手でも、大人として敬意を示せるようにしよう。心の筋肉つけるの。〝失礼な人〟にならなければ、最低限相手もあなたを尊重してくれると思う。丁寧に接しても失礼な事をしてくる奴は、こっちから願い下げで大丈夫」
グッとサムズアップすると彼女は「うん」と頷く。
彼女はクロワッサンを囓り、優しい甘みのあるカボチャスープを飲んで、ホッと息をついた。
「なんか、目から鱗。『こうなりたい』って思っていた人たちは、私が想像していたのと真逆だった。勝手なイメージだけど、傲慢で家事なんてしなくて、夜遊びしてクラブとかにも顔が利いて、SNSのフォロワー命で、見栄を一番にしてるのかと思ってた」
それを聞いて、文香が噴き出した。
「えー? あはは! それはないわー。私、SNSは趣味だもん。インフルエンサーって言っても、PR案件は好きじゃないし、趣味で情報を発信してるだけ。フォロワーはただのファンなら嬉しいけど、意見を言って私を操作するなら、いなくていいやって思ってる。趣味のSNSぐらい好きにやらせてって思うし。ぶっちゃけ、飽きたらいつでもやめて、投資だけでも生きていける」
「あんなにフォロワーいるのに?」
五十嵐さんは「信じられない」という顔をするけれど、文香はケロリとして言う。
「いなくたって、生きてけるよ」
五十嵐さんは溜め息をつき、尋ねてくる。
「何を大切にして生きてるの?」
文香と私は顔を見合わせる。
「健康な毎日。自分を理解してくれる、信頼できる人。生きていくためのお金」
「あとはちょっとのご褒美の、美味しいものとか、旅行とか」
私と文香は意見を言い、頷き合う。
「理解してくれる人って、どうやったら見つかる?」
さらなる質問に、私は首をひねる。
「うーん、すぐは無理だね。だってその辺歩いてて、いきなり声を掛けて親友になんてなれないじゃん。運命の出会いとか、一目惚れ、魂の双子と表現される人がいるけど、すんっごい確率でマッチした場合だし。普通に生きてたらまず無理だよ」
「そうだね……」
頷いた彼女を見て、私は続ける。
「今はちょっと我慢して、孤独でも自分を大切にして、変えていく事を優先したほうがいいんじゃないかな。自分磨きもして、恋人や親友も探して……って、一遍には無理だよ。今も縁が続いている友達は大切にして、これから繋がっていく人を『信頼できるな』って思ったら、信じて大切にしたらいい。いい友達、恋人と巡り会いたいなら、まず自分のレベルを上げないと」
私の言葉を聞いて、五十嵐さんはあの言葉を思いだす。
「『自分の周りにいる人五人の平均が自分』だっけ」
「そう」
その言葉は、慎也と正樹に初めて出会った時、慎也に言われた言葉だ。
私はそれを心に大切に掲げて人付き合いしてきた。
ある意味、今の私の一部を形成しているのは彼らだ。
「頑張ってみる」
静かに決意する彼女に、私は多少の申し訳なさを覚えて謝る。
「色々いいすぎて、混乱させたならごめんね」
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