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五十嵐と再会 編

生きる事に繋がる力

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「五十嵐さん、カトラリーとかここに置くから、ランチョンマットの上に並べてくれる?」

「分かった」

 彼女は頷き、私の指示通りに並べてくれる。

 そしてあつあつのスクランブルエッグと、ボイルしたてのソーセージもできて全員がダイニングテーブルについた。
「いただきます」を言って、まだ熱いクロワッサンに齧り付く。

「んまっ」

「優美と朝食って久しぶりだよね」

「そうだねー。……って、五十嵐さんどした? 嫌いな物でもある?」

 彼女はいまだ座ったまま、手を動かしていない。

「……いや、こんなちゃんとした食事、凄く久しぶりで」

「いっつも朝、何食べてんの?」

 文香が尋ね、五十嵐さんは決まり悪く答える。

「……カップ麺とか、コンビニの何かとか……」

「おぉー……」

 文香は驚きと納得が半々になった声を出す。

「まぁ、食生活は二の次でいいよ。まず、睡眠時間をしっかりとって、頭の働く時間帯を作ろう。それでオンオフの切り替えをできるようにする。生活リズムができあがったら、自然とご飯の時間にお腹がすくと思う。なるべく、夜は食べないようにして寝ようね」

「うん」

「健康的なご飯を食べるとか、適切な運動とかは、そのあとでいいよ。『大変そうだな』って思う事ほど、エネルギー使うから」

「ん、ありがと」

 ようやく、五十嵐さんは和人くんが作ったカボチャスープを飲む。

「……おいし。店で買ったやつ?」

「褒めてくれてありがとう。玉葱炒めるところから、俺が作ったよ」

 男性が手の込んだ物を作ると思っていなかったのか、彼女は目をまん丸にする。
 そのあと、モゴモゴと質問した。

「……やっぱり、料理できない女とか、駄目かな」

「あれ? 五十嵐さんってSNSに手料理写真載せてなかったっけ?」

 文香は彼女のアカウントを多少見たからか、覚えがあるようだ。

 言われたあと、彼女は気まずそうに答える。

「……コンビニのお惣菜……、並べた……」

「あー」

 彼女の言葉を聞き、文香は深く納得した。

「んまー、いいじゃん。世のお母さんたちだって、時短のために冷食使ってるし。ご飯を用意するだけ偉い!」

 私はグッと五十嵐さんにサムズアップしてみせる。
 すると、和人くんが自分の意見を述べた。

「男ウケっていうより、自活力の問題だと思うよ。一人暮らしなら、買ったほうが安くつく時もある。でもいずれ誰かと暮らすなら、自炊したほうが節約になる。外食ばっかりで金が掛かるより、節約できる相手を結婚相手として意識すると思う。仮に災害か何かで外に頼れなくなった時、自分で何かできると強いと思う。結局、自炊力は生きる事に繋がる力なんだよ」

 和人くんの言葉に、五十嵐さんは「そっか……」と頷いた。

「年収の差はあっても、結婚したら家事は同じぐらいやらないと、不満が生まれるだろ? 女性が多く負担している家庭もあるし、『好きでやりたいから』っていう理由で、俺みたいに男が率先してやってるところもある。それぞれだ。でも、家庭に入れる金も家事も頼りっきりだと、必ず気後れができると思う。『愛してるから全部やってあげたい』っていう男は勿論いるけど、そういう人と巡り会えるかが問題だし、万が一結婚できたとしても、普通は『やってもらってばっかりで申し訳ない』って思うんじゃないか?」

 彼の言葉を聞き、五十嵐さんは「そうだね」と頷く。

「だから、自分の〝武器〟の一つとして家事能力もある程度鍛えたほうが、将来的には自分を助けると思うよ。特技が一つだけより、二つ、三つあったほうが就職とかでも有利だろ? それと同じ」

 五十嵐さんはスープを飲みつつ、コクンと頷く。
 和人くんは続ける。

「優美も言ってるように、まず自分を優先に考えたほうがいいと思うよ。自分を整えられないと、結婚して他人の世話も焼くなんてできないと思うから。どんな境遇の人でも結婚はできるけど、同じ家で過ごして支え合う事にある。自分がつらくても夫が病気になったらサポートしていかないといけない。そうなっても大丈夫なように、自分のベース面をきっちり健康にしておくんだ」

「うん、分かった」

 彼女はサラダのキュウリをパリパリと食べる。

「付き合う目的じゃなくて、仕事も含め色んな人を見てきたけど、自分を大切にしてる人って何となく分かる。曖昧な言葉だけど、生き生きした笑顔とかオーラで『この人は明るくて自信がありそうでいいな』って思うんだ。逆に、小綺麗にしていても神経質そうとか、肌荒れやクマが気になる人はいる。自分をあまりケアできない人だと、歯の黄ばみとか、体臭、爪や唇の荒れとか。香水で誤魔化しきれない、生理的な匂いで『不健康そうだな』って感じる事もあるな」

「え……っ」

 匂いと言われて、彼女は不安そうに自分の腕の辺りを嗅いでいる。
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