上 下
233 / 539
五十嵐と再会 編

女の子なんだよ?

しおりを挟む
「横になったら? 少し休んだほうがいいと思う。長々と話したのは私だけど」

「そうする」

 彼女は立ち上がり、もう一度「ありがと」と言って部屋に戻っていった。

「ん……っ」

 私は伸びをして体をひねり、軽くストレッチする。

「お疲れさん」

 その時、声がしたと思うと、キッチン側の廊下に文香と和人くんが立っていた。

「起こした?」

「うん、まぁ。あれだけしゃべってたら」

 彼女たちの寝室は、私たちの客間とは反対の廊下の先にある。
 だから戻った五十嵐さんは、鉢合わせなかったんだろう。

「優美」

 文香が私をハグしてきた。

「私の事も大事にしてね」

「おー、妬いてるな? 愛いやつめ」

 冗談めかすと、文香が「殿か!」と突っ込んで笑った。
 そのあと、私はあくびを噛み殺す。

「もう一眠りしていい? 眠気がぶり返してきた」

「いいよ。一眠りして起きる頃にはご飯の支度ができてるから。和人がやってくれる」

「俺か」

 和人くんが突っ込む。

「私も優美と一緒に寝る。和人、いつものパン屋でお気に入りを確保しといて」

「ラジャ」

 和人くんは私に抱きついたままの文香にキスをして、頭をポンポンと撫でた。
 フッフゥー! お熱いね!

「優美、寝よ」

「ん」

 文香が腕を組んできて、一緒に客間に向かう。
 ボフッとベッドに倒れ込んだあと、私は大きなあくびをした。

「あんたってホント、人のために苦労するよね。バカだなーって思うけど、そういう所が好きだわ」

「身の回りの人にはハッピーでいてほしいじゃん。もしかしたら、巡り巡っていつかお返しがあるかもしれないし」

 本当はお返しなんて求めてないけど、文香の褒めすぎを冗談で紛らわせる。

「ま、何もお返しがなかったら、私が功労賞あげるから」

 文香は私の頭をポンポンと撫でて笑う。
 そのあと、溜め息をついてしみじみと言った。

「まっすぐなのはいいし、人助けしたいと思う気持ちは美徳。でも単身突っ走らないで、周りを見て助けてくれる人がいないか確認してね。護身術やキックボクシングができても、犯罪に立ち向かえない場合がある。その時はあんたの勇気はただの蛮勇になる」

「……うん。心配掛けてごめん」

 素直に謝ると、文香が私を抱き締めてくる。

「女の子なんだよ? 殴られたら駄目でしょ……っ!」

 私のために涙を零してくれる彼女を、感謝と共に抱き締めた。

 心配してくれる彼女に、「鍛えてるから」「強いから平気」とか、「女性でも戦場に立つ人はいる」とか言うのは違う。

 まず、「心配してくれてありがとう」だ。

 文香の中での私は、鍛えていようがメンタルが強かろうが〝大切な親友〟だ。
 目の前で殴られたのを見れば、ショックを受けるだろう。

 昨晩、私が五十嵐さんの世話をしている間、和人くんに「怖かった」と言って泣いたかもしれない。
 何より一番に、私に「心配させんなバカ!」って言いたかっただろう。

 文香はそれを我慢して、私の我が儘を優先してくれた。
 五十嵐さんを良く思っていないのに家に上がらせて、一晩泊まらせてくれた。

「我が儘を聞いてくれてありがとう。こんなに甘えられるの、文香だけだよ。感謝してる」

「……ん」

 きちんと自分の非と感謝を伝えると、文香はコクンと頷いた。

 それから、私たちは手を繋いでもう一眠りした。



**



 一時間後ぐらいに目が覚めてリビングに行くと、和人くんがサラダやスープを作ってくれていた。

 例のパン屋に行ったみたいで、ダイニングテーブルの上にはパンが入った袋がある。

 私たちがリビングに出たタイミングを見計らって、五十嵐さんも部屋から出てきた。
 さすがに和人くんと二人きりになるのは、気まずかったんだろう。

 私と文香が和人くんを手伝う傍ら、五十嵐さんはどうしたらいいか分からず、戸惑っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R-18・短編】部長と私の秘め事

臣桜
恋愛
彼氏にフラれた上村朱里は、酔い潰れていた所を上司の速見尊に拾われ、家まで送られる。タクシーの中で元彼との気が進まないセックスの話などをしていると、部長が自分としてみるか?と言い……。 かなり前に企画で書いたものです。急いで一日ぐらいで書いたので、本当はもっと続きそうなのですがぶつ切りされています。いつか続きを連載版で書きたいですが……、いつになるやら。 ムーンライトノベルズ様にも転載しています。 表紙はニジジャーニーで生成しました

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。

恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。 飼主さんが大好きです。 グロ表現、 性的表現もあります。 行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。 基本的に苦痛系のみですが 飼主さんとペットの関係は甘々です。 マゾ目線Only。 フィクションです。 ※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

処理中です...