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五十嵐と再会 編

女の子なんだよ?

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「横になったら? 少し休んだほうがいいと思う。長々と話したのは私だけど」

「そうする」

 彼女は立ち上がり、もう一度「ありがと」と言って部屋に戻っていった。

「ん……っ」

 私は伸びをして体をひねり、軽くストレッチする。

「お疲れさん」

 その時、声がしたと思うと、キッチン側の廊下に文香と和人くんが立っていた。

「起こした?」

「うん、まぁ。あれだけしゃべってたら」

 彼女たちの寝室は、私たちの客間とは反対の廊下の先にある。
 だから戻った五十嵐さんは、鉢合わせなかったんだろう。

「優美」

 文香が私をハグしてきた。

「私の事も大事にしてね」

「おー、妬いてるな? 愛いやつめ」

 冗談めかすと、文香が「殿か!」と突っ込んで笑った。
 そのあと、私はあくびを噛み殺す。

「もう一眠りしていい? 眠気がぶり返してきた」

「いいよ。一眠りして起きる頃にはご飯の支度ができてるから。和人がやってくれる」

「俺か」

 和人くんが突っ込む。

「私も優美と一緒に寝る。和人、いつものパン屋でお気に入りを確保しといて」

「ラジャ」

 和人くんは私に抱きついたままの文香にキスをして、頭をポンポンと撫でた。
 フッフゥー! お熱いね!

「優美、寝よ」

「ん」

 文香が腕を組んできて、一緒に客間に向かう。
 ボフッとベッドに倒れ込んだあと、私は大きなあくびをした。

「あんたってホント、人のために苦労するよね。バカだなーって思うけど、そういう所が好きだわ」

「身の回りの人にはハッピーでいてほしいじゃん。もしかしたら、巡り巡っていつかお返しがあるかもしれないし」

 本当はお返しなんて求めてないけど、文香の褒めすぎを冗談で紛らわせる。

「ま、何もお返しがなかったら、私が功労賞あげるから」

 文香は私の頭をポンポンと撫でて笑う。
 そのあと、溜め息をついてしみじみと言った。

「まっすぐなのはいいし、人助けしたいと思う気持ちは美徳。でも単身突っ走らないで、周りを見て助けてくれる人がいないか確認してね。護身術やキックボクシングができても、犯罪に立ち向かえない場合がある。その時はあんたの勇気はただの蛮勇になる」

「……うん。心配掛けてごめん」

 素直に謝ると、文香が私を抱き締めてくる。

「女の子なんだよ? 殴られたら駄目でしょ……っ!」

 私のために涙を零してくれる彼女を、感謝と共に抱き締めた。

 心配してくれる彼女に、「鍛えてるから」「強いから平気」とか、「女性でも戦場に立つ人はいる」とか言うのは違う。

 まず、「心配してくれてありがとう」だ。

 文香の中での私は、鍛えていようがメンタルが強かろうが〝大切な親友〟だ。
 目の前で殴られたのを見れば、ショックを受けるだろう。

 昨晩、私が五十嵐さんの世話をしている間、和人くんに「怖かった」と言って泣いたかもしれない。
 何より一番に、私に「心配させんなバカ!」って言いたかっただろう。

 文香はそれを我慢して、私の我が儘を優先してくれた。
 五十嵐さんを良く思っていないのに家に上がらせて、一晩泊まらせてくれた。

「我が儘を聞いてくれてありがとう。こんなに甘えられるの、文香だけだよ。感謝してる」

「……ん」

 きちんと自分の非と感謝を伝えると、文香はコクンと頷いた。

 それから、私たちは手を繋いでもう一眠りした。



**



 一時間後ぐらいに目が覚めてリビングに行くと、和人くんがサラダやスープを作ってくれていた。

 例のパン屋に行ったみたいで、ダイニングテーブルの上にはパンが入った袋がある。

 私たちがリビングに出たタイミングを見計らって、五十嵐さんも部屋から出てきた。
 さすがに和人くんと二人きりになるのは、気まずかったんだろう。

 私と文香が和人くんを手伝う傍ら、五十嵐さんはどうしたらいいか分からず、戸惑っている。
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