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五十嵐と再会 編
あなたの心と時間が勿体ない
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「アイプチなんてみーんなやってるし、動画とかで〝整形級メイク〟とかやってるじゃん。似たようなものだと思うよ。欲しいもの、理想のために課金するのは何でも同じに思う。私だってパーソナルトレーナーにエグい金額を使った。そのあとだって、キープするのにジム費用払ってる」
「でも、整形とは訳が違うでしょ。〝そっち側〟は自前でしょ」
「〝そっち側〟って、人間やめたの? 法を犯す事でもしたの?」
彼女は目を見開いたまま、軽く首を横に振る。
「悪い事してないんだよ? どうしてそこまで自分を責めるの?」
五十嵐さんの目が潤み、頬に雫が伝っていく。
「…………っ」
静かに泣き崩れる彼女を見て、私は想像で言葉を掛ける。
「ご家族に反対された?」
コクン、と彼女は頷く。
「浜崎くんに色々言われたの、傷付いてる?」
それにも彼女はしっかり頷く。
「よし、浜崎呼び出してケツキックするか」
「!?」
私の言葉に、彼女はギョッとして顔を上げた。
「言っとくけど、慎也と正樹があなたの事をバカにしたなら、あいつらも纏めてケツキック。特別扱いしない」
彼女はクシャリと表情を歪め、首を横に振る。
「……いい。きっと、問題はそこじゃない」
「……ん。じゃあ、どこだと思う?」
尋ねると、彼女は唇を震わせ、心の奥底にある傷付いた部分を見せてくれた。
「……整形するの親に反対されてたから、援交してお金貯めてた。……その時は『何でもない』って割り切ってたけど、――――ずっと嫌だった。オヤジに抱かれる自分を上から見ている感覚になって、『こんなの本当の自分じゃない』って思ってた。『本当の自分はもっと幸せでイケてる人生を送れてるはず』って思ってた。……傷付いて、嫌だって思っていた気持ちに、ずっと蓋をしてた」
私は立ち上がり、彼女の隣に座るとハグした。
「つらかったね」
ポンポンと背中を叩くと、五十嵐さんは激しく嗚咽する。
「自分が……っ、バカで……っ。初体験はどうでもいいオヤジが相手で、初めてまともに付き合った男には『処女じゃないんだ』ってガッカリされた……っ。自分がとても価値のない存在に思えて……っ、だったら、何人に抱かれても同じだって思った……っ」
搾取され続けた一人の女性が、腕の中にいる。
外見で判断され、若さで性を買われ、処女か否かで価値を問われ、他者から否定され続けた犠牲者がいる。
彼女が最も自分を〝否定〟する根源を知り、私は静かな怒りを抱く。
「あなたは、何も損なわれてないよ」
私は五十嵐さんの両肩に手を置き、彼女をしっかり見つめる。
「その人達はもう〝通り過ぎ去ってる〟。五十嵐さんの前にもう現れない。そんな奴らをいつまでも心の中に住まわせていたら駄目。あなたの心と時間が勿体ない」
「うぅ……っ」
大粒の涙を零す彼女を見て、ようやく本当の彼女に会えたと思った。
「その人達が大事? この先ずっと覚えていて、大切に心の中で憎しみの感情を育てていきたい?」
五十嵐さんはブンブンと首を横に振る。
「復讐したい?」
今度は、一つしっかり頷く。
「『レイプされた』って今から警察行く? 『経験済みで何が悪い』って初めての彼氏に言いに行く?」
また、彼女は首を横に振る。
「もう……っ、どうにもならない……っ、時間が経ちすぎてる……っ」
「そうだね。でも、悔しいね。一方的に傷つけられてつらいよね」
涙を零し、息を震わせ、彼女は「悔しい……っ」と長年押し殺してきた思いを解放する。
「これからあなたは自分自身を救っていくの。精神科医や心理士の力を借りて、ゆっくり自分の心と対面していくのもアリだと思う。過去のわだかまりをほぐせたら、自分を大切にして生きていこう?」
「……っ自分を大切にする方法なんて、わかんない……っ」
途方に暮れた彼女の背中を、ポンポンと叩いてさする。
「もう自分を否定しないで。あなたは十分自分に罰を与えた。よく頑張ったね。今度は自分を褒めて、少しずつ好きになっていこう。嫌だと思う人、あなたを雑に扱う人とは距離を取るの。仕事するのに、ある程度我慢は必要。でもオンオフをしっかり作ろう。オフの時に好きな事をして自分を甘やかして、人間性の回復を図るの。自分ファーストしてあげて」
彼女は洟を啜り、しっかり頷いた。
「あなたを傷つけた人を『そんな愚かなニンゲンいましたね』って思えるようになろう。初めての彼氏みたいな人がいても『処女厨乙』って見下すの。そんな男、相手にしなくていい。心の中で復讐完了したら、あなたはとっとと幸せゴールする」
ポン、と私は彼女の肩を叩いた。
「でも、整形とは訳が違うでしょ。〝そっち側〟は自前でしょ」
「〝そっち側〟って、人間やめたの? 法を犯す事でもしたの?」
彼女は目を見開いたまま、軽く首を横に振る。
「悪い事してないんだよ? どうしてそこまで自分を責めるの?」
五十嵐さんの目が潤み、頬に雫が伝っていく。
「…………っ」
静かに泣き崩れる彼女を見て、私は想像で言葉を掛ける。
「ご家族に反対された?」
コクン、と彼女は頷く。
「浜崎くんに色々言われたの、傷付いてる?」
それにも彼女はしっかり頷く。
「よし、浜崎呼び出してケツキックするか」
「!?」
私の言葉に、彼女はギョッとして顔を上げた。
「言っとくけど、慎也と正樹があなたの事をバカにしたなら、あいつらも纏めてケツキック。特別扱いしない」
彼女はクシャリと表情を歪め、首を横に振る。
「……いい。きっと、問題はそこじゃない」
「……ん。じゃあ、どこだと思う?」
尋ねると、彼女は唇を震わせ、心の奥底にある傷付いた部分を見せてくれた。
「……整形するの親に反対されてたから、援交してお金貯めてた。……その時は『何でもない』って割り切ってたけど、――――ずっと嫌だった。オヤジに抱かれる自分を上から見ている感覚になって、『こんなの本当の自分じゃない』って思ってた。『本当の自分はもっと幸せでイケてる人生を送れてるはず』って思ってた。……傷付いて、嫌だって思っていた気持ちに、ずっと蓋をしてた」
私は立ち上がり、彼女の隣に座るとハグした。
「つらかったね」
ポンポンと背中を叩くと、五十嵐さんは激しく嗚咽する。
「自分が……っ、バカで……っ。初体験はどうでもいいオヤジが相手で、初めてまともに付き合った男には『処女じゃないんだ』ってガッカリされた……っ。自分がとても価値のない存在に思えて……っ、だったら、何人に抱かれても同じだって思った……っ」
搾取され続けた一人の女性が、腕の中にいる。
外見で判断され、若さで性を買われ、処女か否かで価値を問われ、他者から否定され続けた犠牲者がいる。
彼女が最も自分を〝否定〟する根源を知り、私は静かな怒りを抱く。
「あなたは、何も損なわれてないよ」
私は五十嵐さんの両肩に手を置き、彼女をしっかり見つめる。
「その人達はもう〝通り過ぎ去ってる〟。五十嵐さんの前にもう現れない。そんな奴らをいつまでも心の中に住まわせていたら駄目。あなたの心と時間が勿体ない」
「うぅ……っ」
大粒の涙を零す彼女を見て、ようやく本当の彼女に会えたと思った。
「その人達が大事? この先ずっと覚えていて、大切に心の中で憎しみの感情を育てていきたい?」
五十嵐さんはブンブンと首を横に振る。
「復讐したい?」
今度は、一つしっかり頷く。
「『レイプされた』って今から警察行く? 『経験済みで何が悪い』って初めての彼氏に言いに行く?」
また、彼女は首を横に振る。
「もう……っ、どうにもならない……っ、時間が経ちすぎてる……っ」
「そうだね。でも、悔しいね。一方的に傷つけられてつらいよね」
涙を零し、息を震わせ、彼女は「悔しい……っ」と長年押し殺してきた思いを解放する。
「これからあなたは自分自身を救っていくの。精神科医や心理士の力を借りて、ゆっくり自分の心と対面していくのもアリだと思う。過去のわだかまりをほぐせたら、自分を大切にして生きていこう?」
「……っ自分を大切にする方法なんて、わかんない……っ」
途方に暮れた彼女の背中を、ポンポンと叩いてさする。
「もう自分を否定しないで。あなたは十分自分に罰を与えた。よく頑張ったね。今度は自分を褒めて、少しずつ好きになっていこう。嫌だと思う人、あなたを雑に扱う人とは距離を取るの。仕事するのに、ある程度我慢は必要。でもオンオフをしっかり作ろう。オフの時に好きな事をして自分を甘やかして、人間性の回復を図るの。自分ファーストしてあげて」
彼女は洟を啜り、しっかり頷いた。
「あなたを傷つけた人を『そんな愚かなニンゲンいましたね』って思えるようになろう。初めての彼氏みたいな人がいても『処女厨乙』って見下すの。そんな男、相手にしなくていい。心の中で復讐完了したら、あなたはとっとと幸せゴールする」
ポン、と私は彼女の肩を叩いた。
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