上 下
229 / 539
五十嵐と再会 編

あなたの心と時間が勿体ない

しおりを挟む
「アイプチなんてみーんなやってるし、動画とかで〝整形級メイク〟とかやってるじゃん。似たようなものだと思うよ。欲しいもの、理想のために課金するのは何でも同じに思う。私だってパーソナルトレーナーにエグい金額を使った。そのあとだって、キープするのにジム費用払ってる」

「でも、整形とは訳が違うでしょ。〝そっち側〟は自前でしょ」

「〝そっち側〟って、人間やめたの? 法を犯す事でもしたの?」

 彼女は目を見開いたまま、軽く首を横に振る。

「悪い事してないんだよ? どうしてそこまで自分を責めるの?」

 五十嵐さんの目が潤み、頬に雫が伝っていく。

「…………っ」

 静かに泣き崩れる彼女を見て、私は想像で言葉を掛ける。

「ご家族に反対された?」

 コクン、と彼女は頷く。

「浜崎くんに色々言われたの、傷付いてる?」

 それにも彼女はしっかり頷く。

「よし、浜崎呼び出してケツキックするか」

「!?」

 私の言葉に、彼女はギョッとして顔を上げた。

「言っとくけど、慎也と正樹があなたの事をバカにしたなら、あいつらも纏めてケツキック。特別扱いしない」

 彼女はクシャリと表情を歪め、首を横に振る。

「……いい。きっと、問題はそこじゃない」

「……ん。じゃあ、どこだと思う?」

 尋ねると、彼女は唇を震わせ、心の奥底にある傷付いた部分を見せてくれた。

「……整形するの親に反対されてたから、援交してお金貯めてた。……その時は『何でもない』って割り切ってたけど、――――ずっと嫌だった。オヤジに抱かれる自分を上から見ている感覚になって、『こんなの本当の自分じゃない』って思ってた。『本当の自分はもっと幸せでイケてる人生を送れてるはず』って思ってた。……傷付いて、嫌だって思っていた気持ちに、ずっと蓋をしてた」

 私は立ち上がり、彼女の隣に座るとハグした。

「つらかったね」

 ポンポンと背中を叩くと、五十嵐さんは激しく嗚咽する。

「自分が……っ、バカで……っ。初体験はどうでもいいオヤジが相手で、初めてまともに付き合った男には『処女じゃないんだ』ってガッカリされた……っ。自分がとても価値のない存在に思えて……っ、だったら、何人に抱かれても同じだって思った……っ」

 搾取され続けた一人の女性が、腕の中にいる。

 外見で判断され、若さで性を買われ、処女か否かで価値を問われ、他者から否定され続けた犠牲者がいる。

 彼女が最も自分を〝否定〟する根源を知り、私は静かな怒りを抱く。

「あなたは、何も損なわれてないよ」

 私は五十嵐さんの両肩に手を置き、彼女をしっかり見つめる。

「その人達はもう〝通り過ぎ去ってる〟。五十嵐さんの前にもう現れない。そんな奴らをいつまでも心の中に住まわせていたら駄目。あなたの心と時間が勿体ない」

「うぅ……っ」

 大粒の涙を零す彼女を見て、ようやく本当の彼女に会えたと思った。

「その人達が大事? この先ずっと覚えていて、大切に心の中で憎しみの感情を育てていきたい?」

 五十嵐さんはブンブンと首を横に振る。

「復讐したい?」

 今度は、一つしっかり頷く。

「『レイプされた』って今から警察行く? 『経験済みで何が悪い』って初めての彼氏に言いに行く?」

 また、彼女は首を横に振る。

「もう……っ、どうにもならない……っ、時間が経ちすぎてる……っ」

「そうだね。でも、悔しいね。一方的に傷つけられてつらいよね」

 涙を零し、息を震わせ、彼女は「悔しい……っ」と長年押し殺してきた思いを解放する。

「これからあなたは自分自身を救っていくの。精神科医や心理士の力を借りて、ゆっくり自分の心と対面していくのもアリだと思う。過去のわだかまりをほぐせたら、自分を大切にして生きていこう?」

「……っ自分を大切にする方法なんて、わかんない……っ」

 途方に暮れた彼女の背中を、ポンポンと叩いてさする。

「もう自分を否定しないで。あなたは十分自分に罰を与えた。よく頑張ったね。今度は自分を褒めて、少しずつ好きになっていこう。嫌だと思う人、あなたを雑に扱う人とは距離を取るの。仕事するのに、ある程度我慢は必要。でもオンオフをしっかり作ろう。オフの時に好きな事をして自分を甘やかして、人間性の回復を図るの。自分ファーストしてあげて」

 彼女は洟を啜り、しっかり頷いた。

「あなたを傷つけた人を『そんな愚かなニンゲンいましたね』って思えるようになろう。初めての彼氏みたいな人がいても『処女厨乙』って見下すの。そんな男、相手にしなくていい。心の中で復讐完了したら、あなたはとっとと幸せゴールする」

 ポン、と私は彼女の肩を叩いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R-18・短編】部長と私の秘め事

臣桜
恋愛
彼氏にフラれた上村朱里は、酔い潰れていた所を上司の速見尊に拾われ、家まで送られる。タクシーの中で元彼との気が進まないセックスの話などをしていると、部長が自分としてみるか?と言い……。 かなり前に企画で書いたものです。急いで一日ぐらいで書いたので、本当はもっと続きそうなのですがぶつ切りされています。いつか続きを連載版で書きたいですが……、いつになるやら。 ムーンライトノベルズ様にも転載しています。 表紙はニジジャーニーで生成しました

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。

恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。 飼主さんが大好きです。 グロ表現、 性的表現もあります。 行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。 基本的に苦痛系のみですが 飼主さんとペットの関係は甘々です。 マゾ目線Only。 フィクションです。 ※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

処理中です...