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五十嵐と再会 編
ちゃんと自分の事、褒められてる?
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「ちょっとずつでいいよ。低いハードルを作って、毎日コツコツクリアしていったら、きっと変われるよ。ポジティブになれる」
「どうやって?」
お。興味を示したな? よしよし。
「五十嵐さんって、ちゃんと自分の事、褒められてる?」
「……褒めか分からないけど、外見には気を遣ってるし、SNSに写真をアップしたら褒められる」
「前半はOK、後半は三角」
そう言うと、彼女は少し瞠目する。
「好きな格好をして、テンション爆上げさせるのは凄くいいよ! どんどんやろう。自分が『可愛い、素敵』と思った格好をするのはいいと思う。ネイルだってメイクだって、究極の自己満で、気分爆上げの材料。外見に気を遣うって、会う人への敬意にも繋がるしね」
理解したのか、五十嵐さんは頷く。
「逆にSNSの投稿って、評価するのが画面の向こうの第三者でしょ? 自分がいいと思ったもんを投稿してるのに、仮に否定されたらムカつかない?」
「ムカつく」
心当たりがあるのか、彼女はムスッとして頷く。
「そういう風に、自分の価値を決めるのを他人に委ねたら駄目なの。だから、他人から『可愛い、素敵、最高』って言われなくても、自分一人で『私って最高なんだが?』って思えるようになったほうが、手っ取り早くない? 褒めてくれる人たちがいなくても、自分一人で気分爆上げできるんだから」
「……確かに。……でも、人の声は気になる」
うん、分かるんだけどさ。
「否定されたら無視する努力をしよう。もしくは、SNSとリアルをしっかり分ける。SNS上で、本当のあなたの三割も見せてないんじゃない? それって、ただのキャラクターだよ」
「キャラクター?」
「もしくは、ペルソナと言うべきか。SNSの五十嵐さんはフォロワーに応援されて作り上げたものだと思う。でもアカウントを消してしまえば無になる。そんなものを否定されて、現実のあなたの何が損なわれる? ネット上と現実を一緒にしたら危険なの。ネット上で否定されて、自分を否定されたって思ったらすぐに病む。だからリアルの自分に『価値がある』と思えるものを作っておくの。SNSは〝企業アカウント〟ぐらいに考えておけばいいんじゃないかな」
彼女はしばらく、黙って私の言葉をよく考えていたようだった。
「……褒められないと、不安になる。リアルの友達、少ないから」
「休日、何してる?」
「ショッピングして……、男と会って、あとは家でSNS見てる」
「ナントカ教室みたいなの参加してみたら? リアルのサークルとか」
「えぇ?」
彼女は顔をしかめ私を睨む。
「同じ事してると人間の脳って麻痺するの。その小さなルーチンの世界がすべてになる。〝参加〟する場所を変えるだけで、グッと新しい世界が開けるよ。それに、知識と経験も増えて素敵な人になる。ハードル高かったら、行った所のない場所に行ってみるとか、散歩とかでもいい。とにかく、新しい情報を頭に入れるの。そうしないと、どんどん老化するよ」
「老化はカンベン」
眉間に皺を寄せた彼女に、私は笑いかける。
「体の老化は仕方ないし、どうでもいいの。問題は精神の老化。時代と共に周りが変わってるのに、対応しないと考えの堅い人間になっちゃう。へたすると、周りから嫌われて孤独になる。柔軟になればなるほど、色んな事が楽しくなるよ。それで、心はいつまでも若々しくいられる」
「……ババアになりたくない」
その言葉に、私は苦笑いする。
「あのさ、五十嵐さんって二十五歳だっけ? 女子高生から見たら、十分〝ババア〟だと思うよ」
彼女はムッとした顔になる。
「女子高生は中学生から見て〝ババア〟。外見を馬鹿にする言葉を口にしたら、自分もそう言われても文句を言えないの。『殴るなら殴り返される覚悟をしなきゃ』だよ? 頭のいい人は『パッと見て分かる、外見や数字、記号、属性でしか人を評価できない人』を嫌う。そういう人と付き合わないと思う」
五十嵐さんは唇を歪め、溜め息をつく。
「一番強いのは人を悪く言わない人。ムッとしても自分で処理できて、常に人当たり良くできる人は尊敬される。そういう風にできない人が多いから、『気取ってる』って嫉妬されるかもしれない。でも無駄な敵は作らなくて済むし、味方を作りやすい。大抵の人はそういう人を好きになって憧れるしね」
私は胡座をかいていた脚を戻し、少し真剣な表情になって彼女を見た。
「価値観を変えよう? 年齢や見た目は変わるし、それを価値のすべてにしたら、いつか自分に失望する。代わりに内面を磨くの。すっぴんで自分を飾る物がなくなっても、『あの人素敵な人だな』って思われる人になろう」
「〝意識高い系〟の女になれっていうの? ベランダでハーブ育てて、すっぴんでオーガニックコットンの服着てるような」
「いやー、そんなんじゃなくてさ」
私は両手をあげて伸びをしてから、ゆっくり二の腕のストレッチをした。
「無意識に自分をいじめるの、やめなって事」
「いじめる……?」
怪訝な表情をする彼女は、心当たりがないという顔をしている。
「『可愛くありたい』はいい。けど、『可愛くないと』は自分の首を絞める。理想通りになれなかったら自分を否定してしまう。完璧じゃなくていいから『このまんまの自分でいいよ』って思えるようにならないと」
私はピッ、と指を二本立てる。
「どうやって?」
お。興味を示したな? よしよし。
「五十嵐さんって、ちゃんと自分の事、褒められてる?」
「……褒めか分からないけど、外見には気を遣ってるし、SNSに写真をアップしたら褒められる」
「前半はOK、後半は三角」
そう言うと、彼女は少し瞠目する。
「好きな格好をして、テンション爆上げさせるのは凄くいいよ! どんどんやろう。自分が『可愛い、素敵』と思った格好をするのはいいと思う。ネイルだってメイクだって、究極の自己満で、気分爆上げの材料。外見に気を遣うって、会う人への敬意にも繋がるしね」
理解したのか、五十嵐さんは頷く。
「逆にSNSの投稿って、評価するのが画面の向こうの第三者でしょ? 自分がいいと思ったもんを投稿してるのに、仮に否定されたらムカつかない?」
「ムカつく」
心当たりがあるのか、彼女はムスッとして頷く。
「そういう風に、自分の価値を決めるのを他人に委ねたら駄目なの。だから、他人から『可愛い、素敵、最高』って言われなくても、自分一人で『私って最高なんだが?』って思えるようになったほうが、手っ取り早くない? 褒めてくれる人たちがいなくても、自分一人で気分爆上げできるんだから」
「……確かに。……でも、人の声は気になる」
うん、分かるんだけどさ。
「否定されたら無視する努力をしよう。もしくは、SNSとリアルをしっかり分ける。SNS上で、本当のあなたの三割も見せてないんじゃない? それって、ただのキャラクターだよ」
「キャラクター?」
「もしくは、ペルソナと言うべきか。SNSの五十嵐さんはフォロワーに応援されて作り上げたものだと思う。でもアカウントを消してしまえば無になる。そんなものを否定されて、現実のあなたの何が損なわれる? ネット上と現実を一緒にしたら危険なの。ネット上で否定されて、自分を否定されたって思ったらすぐに病む。だからリアルの自分に『価値がある』と思えるものを作っておくの。SNSは〝企業アカウント〟ぐらいに考えておけばいいんじゃないかな」
彼女はしばらく、黙って私の言葉をよく考えていたようだった。
「……褒められないと、不安になる。リアルの友達、少ないから」
「休日、何してる?」
「ショッピングして……、男と会って、あとは家でSNS見てる」
「ナントカ教室みたいなの参加してみたら? リアルのサークルとか」
「えぇ?」
彼女は顔をしかめ私を睨む。
「同じ事してると人間の脳って麻痺するの。その小さなルーチンの世界がすべてになる。〝参加〟する場所を変えるだけで、グッと新しい世界が開けるよ。それに、知識と経験も増えて素敵な人になる。ハードル高かったら、行った所のない場所に行ってみるとか、散歩とかでもいい。とにかく、新しい情報を頭に入れるの。そうしないと、どんどん老化するよ」
「老化はカンベン」
眉間に皺を寄せた彼女に、私は笑いかける。
「体の老化は仕方ないし、どうでもいいの。問題は精神の老化。時代と共に周りが変わってるのに、対応しないと考えの堅い人間になっちゃう。へたすると、周りから嫌われて孤独になる。柔軟になればなるほど、色んな事が楽しくなるよ。それで、心はいつまでも若々しくいられる」
「……ババアになりたくない」
その言葉に、私は苦笑いする。
「あのさ、五十嵐さんって二十五歳だっけ? 女子高生から見たら、十分〝ババア〟だと思うよ」
彼女はムッとした顔になる。
「女子高生は中学生から見て〝ババア〟。外見を馬鹿にする言葉を口にしたら、自分もそう言われても文句を言えないの。『殴るなら殴り返される覚悟をしなきゃ』だよ? 頭のいい人は『パッと見て分かる、外見や数字、記号、属性でしか人を評価できない人』を嫌う。そういう人と付き合わないと思う」
五十嵐さんは唇を歪め、溜め息をつく。
「一番強いのは人を悪く言わない人。ムッとしても自分で処理できて、常に人当たり良くできる人は尊敬される。そういう風にできない人が多いから、『気取ってる』って嫉妬されるかもしれない。でも無駄な敵は作らなくて済むし、味方を作りやすい。大抵の人はそういう人を好きになって憧れるしね」
私は胡座をかいていた脚を戻し、少し真剣な表情になって彼女を見た。
「価値観を変えよう? 年齢や見た目は変わるし、それを価値のすべてにしたら、いつか自分に失望する。代わりに内面を磨くの。すっぴんで自分を飾る物がなくなっても、『あの人素敵な人だな』って思われる人になろう」
「〝意識高い系〟の女になれっていうの? ベランダでハーブ育てて、すっぴんでオーガニックコットンの服着てるような」
「いやー、そんなんじゃなくてさ」
私は両手をあげて伸びをしてから、ゆっくり二の腕のストレッチをした。
「無意識に自分をいじめるの、やめなって事」
「いじめる……?」
怪訝な表情をする彼女は、心当たりがないという顔をしている。
「『可愛くありたい』はいい。けど、『可愛くないと』は自分の首を絞める。理想通りになれなかったら自分を否定してしまう。完璧じゃなくていいから『このまんまの自分でいいよ』って思えるようにならないと」
私はピッ、と指を二本立てる。
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