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イギリス 編

面白くない

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 文香はこっそりBL漫画を読んでいて、和人くんに内緒の電子書籍の棚には、エロいBL漫画がぎっしり詰まっていた。

 彼女の家に遊びに行った時、文香が「読んでハマッてほしい」と言って、スマホと同期しているタブレットを渡してきたので、一冊読了した事がある。
 いやぁ……、凄いなと思いながら、男性を気持ちよくさせるのに色んな方法があると知った。

 文香は和人くんを開発したいと言っていて、私は「やめたげて……」と止めた。

 ……のは昔の思い出として。

「ドライオーガズム、経験済み?」

「うん。遊んでた時に女の子にされた事がある」

「はぁ…………」

 仕方がないと思いながらも、つい溜め息が出る。

「正樹の尻の穴はもう開発済みだったか」

「優美ちゃん!? 誤解を招く言い方やめてくれる!?」

 珍しく正樹が突っ込んでくるけれど、私は明後日の方向を見て無視する。

「じゃあ、慎也のアナルバージン奪ってあげようか?」

 つまらない気分のまま、私は真顔で冗談を言う。
 彼を見ると、表情を強ばらせた慎也は、手でお尻を隠して無言で首を横に振っていた。

「冗談だよ」

「優美、目が据わってた」

「冗談だって」

 ふぅ……、と息を吐いたあと、文香と一緒に見たアダルトグッズのサイトを思いだす。

 男性向けのグッズには、アナルプラグ、尿道に差し込む道具、陰嚢に当てるローターみたいなの、性器がポロンと出てしまう卑猥な下着にスケスケ下着などがあった。

 世界は広いなぁ……と思いながら、やけに感心したのを覚えている。

「散々人のアナルを育てておきながら、意気地のない」

 半ばやさぐれて理不尽な怒りを示すと、慎也が正樹を責める。

「おい、正樹。しょーもない事を言うから、優美が酔っ払いみたいになっただろ」

「ぶふっ……、どんな例え」

 ふてくされモードから一転、笑った私を見て、二人は安心したように息をつきお尻から手を離す。
 そんなにアナルを守りたかったのか。

「優美ちゃん、かーわいい。妬いてくれたんだね」

 正樹が私にチュッとキスをし、嬉しそうに笑う。

「……まぁ、正樹なら何をしてても、そんなに驚かないんだけど」

 彼がイベントにハマっていた時期の事を、詳しく聞いてない。
 聞いても嫉妬するのがオチだし、つまらない思いをするなら、最初から聞かないほうがいいに決まってる。

 でも正樹の事だから、一通りの事は体験しているんだろうなとは思っていた。

 好奇心旺盛で、気持ちいい事が大好きで、精力絶倫。
 顔もいいしガタイもいい男に誘われたら、女性だって大体の事は受け入れてしまうだろう。

 だからこそ、面白くない。

 男性の中に、処女厨と呼ばれる人がいるのは知っている。

 それに対し、慎也と正樹は「処女は怖くて抱きたくない」らしい。
 体に負担が掛かるから気を遣うし、初めてなだけに思い入れが強いから、遊び相手としては向いていないそうだ。

 そりゃーな、と思う。

 初めてをどうでもいい相手に「奪ってください!」っていうのは、ちょっと……と思う。
 よほど逼迫した事情があるとか、ずっと彼氏ができなくてどうしても経験したい人以外なら、焦らず後悔しない相手のほうがいいんじゃないの? と考えてしまう。

 そういう理論を、慎也と正樹に求めるかは考えものだ。

 経験豊富だからこそ、二人は私を気持ちよくしてくれている。
 そういう意味では、経験値が高いほうがいいんだろう。

 女性誌にはキスで歯が当たったとか、入れる孔が分からなかったとか、初々しい体験談が書いてあった。

(二人が童貞なら、3Pなんてできっこなかったよなぁ……)

 前にも二人に言ったけれど、後ろの孔を使う行為はやり方によっては危険な場合もある。
 きちんとほぐしさないと、大ダメージを受けるし病気にもなる。

(だから二人が経験豊富で良かったって思わないと。ドライ経験済みって聞かされてむくれるのは、大人の対応じゃない)

 はぁ……、と溜め息をつき、私は天井にあるシャンデリアを見る。

「怒った?」

 正樹が不安そうな顔をして尋ねてくるので、私は「ううん」と首を横に振る。

「過去に嫉妬する自分と戦ってたトコ」

「今は関わりがないから大丈夫だよ」

 慎也が私の髪を指で梳き、額にキスをしてきた。

「……ねぇ。正樹の過去の戦歴は聞いたけど、慎也ってどうだったの?」

 仰向けになったまま彼を見ると、ス……と慎也が真顔になる。

「……おい。お前のせいだぞ」

 そして静かな怒りを正樹に向ける。
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