上 下
200 / 539
イギリス 編

もう、自分を許してあげてください

しおりを挟む
『経営者になるなら、人を見定め、自分に惚れさせるぐらいやってください。傷付きたくないからって、いつまでも蛹のままでいたら、蝶になる前に腐り落ちます』

 言い切ったあと、私はしゃがんで彼に視線を合わせた。

『何かを得るには、何かを捨てなければなりません。理想の伴侶を求めるのなら、自ら動き、傷付く覚悟を持ってください』

 エディさんは青い目で、何か言いたげに私を見てくる。
 その隣で、クリスさんが笑いながら拍手をした。

『バシッと言ってくれてありがとう! 今の兄貴には、これぐらい言わないとダメだ。疑い深くなって、以前とは人が変わっているから』

 弟の言葉に、エディさんは不機嫌そうに言う。

『……俺は変わってない』

 けれどクリスさんはまじめな顔で首を左右に振った。

『変わったよ。以前はもっと社交的で、冗談を言って皆を笑わせる明るさがあった。今はどうだ? 女性が下心なく話しかけてきても、何かあると疑って避けている。慎重になるのと、疑心暗鬼に駆られるのは違うよ』

 辛辣に言われ、エディさんは溜め息をついた。

 色々大変だったんだなぁ。

 私は溜め息をつき、芝生だからいっかと思って地面に座る。

『傷付きたくないですよね。分かります』

 今までビシバシ容赦なく言っていたのに、急に優しい雰囲気になったからか、エディさんは神妙な顔をして俯く。

『嫌な事があった直後は自分の殻にこもっちゃうの、分かります。でも、必要以上に殻にこもっちゃうと、殻がどんどん硬くなります。きっかけは〝人に言われたから〟とか、他人のせいにしていいです。〝うるさい日本人に言われたからしょうがなく〟自分を許して、殻を破れませんか? そうしないと、あなたの時間が勿体ないです』

 芝生の上で胡座をかき、私はキャップの下から笑いかける。

『一度結婚していたなら、どんな形であっても奥さんを愛していたでしょう。だから裏切りを許せなかった。そして、欺された自分すら許せなくなってしまう。あの時優しくしなければ良かった、あの時疑っていたら……とか、どうにもならない過去ばかりに囚われて、どんどん自分を責めるでしょう?』

『……その通りだな』

 エディさんは溜め息をつく。

『もう、自分を許してあげてください。だって過去は変えられません。前に進むんです。いつまでも意地を張ってたら、あっという間にお爺ちゃんになりますよ。お爺ちゃんになっても素敵な出会いがあり、結婚はできるでしょうけど、エディさんが〝今〟自分と釣り合う年齢の女性を求めているなら〝今〟動くしかないんです』

 爽やかな風が吹いて、周囲の木々や草花、そして私たちの髪を揺らしていく。

 その風を受けたあと、エディさんは空を見上げて息をついた。

 彼の表情は、いつになく晴れやかになっていた。
 あの眉間の深い皺も、もうなくなっていた。

『やってみる』

 こちらを見て穏やかに微笑んだ彼に向かって、私はサムズアップして『グッドラック!』と笑いかけた。

『誰よりも幸せになって、前の奥さんを見返してください』

『分かった。エールに感謝する』

 エディさんが手を伸ばし、私に握手を求めてくる。
 その手を握り返し、私はニカッと笑った。

 握手が終わったあと、エディさんは憑きものが落ちたような表情で笑う。

『ようやく、君の魅力が分かった。あの二人が君に惚れる理由も、きちんと理解した』

『ありがとうございます』

 私たち三人の事情は色々複雑で、私一人を評価してくれても、関係の全貌が分かる訳ではない。
 それでも、ずっと疑っていたエディさんに認めてもらえたのは、大きな収穫だ。

『さて、アイスも食べ終わったし、そろそろ戻ろうか。あっちの三人も撤収してるんじゃないかな?』

 クリスさんが立ち上がって言った時、私は二人がシャーロットさんと一緒に出かけたのを思いだした。

 あー。

 ゆっくり立ち上がり、ホットパンツのお尻を叩いている私の頭を、エディさんが軽く撫でてくる。

『心配するな』

 一言だけだけど、彼が三人の事を言っているのは分かった。

『……ありがとうございます』

 そのあとまたバスに乗り、クルーザーが停泊している桟橋まで戻った。



**



 私たち三人より先に慎也たちは戻り、売店でコーヒーを飲んでいた。

「早かったんだね」

「あぁ、……まぁ、色々付き合ったけど」

 慎也が遠い目をする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡

雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

新婚の嫁のクリトリスを弄り倒す旦那の話

おりん
恋愛
時代背景その他諸々深く考え無い人向け。 続かないはずの単発話でしたが、思っていたより読んでいただけたので小話を追加しました。

たくさんの視線のある中,女子高生がバスでいやらしいことをされ,連続絶頂

sleepingangel02
恋愛
バスに乗ろうとしていた女子高生に超絶イケメンな男性が

処理中です...