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イギリス 編
もう、自分を許してあげてください
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『経営者になるなら、人を見定め、自分に惚れさせるぐらいやってください。傷付きたくないからって、いつまでも蛹のままでいたら、蝶になる前に腐り落ちます』
言い切ったあと、私はしゃがんで彼に視線を合わせた。
『何かを得るには、何かを捨てなければなりません。理想の伴侶を求めるのなら、自ら動き、傷付く覚悟を持ってください』
エディさんは青い目で、何か言いたげに私を見てくる。
その隣で、クリスさんが笑いながら拍手をした。
『バシッと言ってくれてありがとう! 今の兄貴には、これぐらい言わないとダメだ。疑い深くなって、以前とは人が変わっているから』
弟の言葉に、エディさんは不機嫌そうに言う。
『……俺は変わってない』
けれどクリスさんはまじめな顔で首を左右に振った。
『変わったよ。以前はもっと社交的で、冗談を言って皆を笑わせる明るさがあった。今はどうだ? 女性が下心なく話しかけてきても、何かあると疑って避けている。慎重になるのと、疑心暗鬼に駆られるのは違うよ』
辛辣に言われ、エディさんは溜め息をついた。
色々大変だったんだなぁ。
私は溜め息をつき、芝生だからいっかと思って地面に座る。
『傷付きたくないですよね。分かります』
今までビシバシ容赦なく言っていたのに、急に優しい雰囲気になったからか、エディさんは神妙な顔をして俯く。
『嫌な事があった直後は自分の殻にこもっちゃうの、分かります。でも、必要以上に殻にこもっちゃうと、殻がどんどん硬くなります。きっかけは〝人に言われたから〟とか、他人のせいにしていいです。〝うるさい日本人に言われたからしょうがなく〟自分を許して、殻を破れませんか? そうしないと、あなたの時間が勿体ないです』
芝生の上で胡座をかき、私はキャップの下から笑いかける。
『一度結婚していたなら、どんな形であっても奥さんを愛していたでしょう。だから裏切りを許せなかった。そして、欺された自分すら許せなくなってしまう。あの時優しくしなければ良かった、あの時疑っていたら……とか、どうにもならない過去ばかりに囚われて、どんどん自分を責めるでしょう?』
『……その通りだな』
エディさんは溜め息をつく。
『もう、自分を許してあげてください。だって過去は変えられません。前に進むんです。いつまでも意地を張ってたら、あっという間にお爺ちゃんになりますよ。お爺ちゃんになっても素敵な出会いがあり、結婚はできるでしょうけど、エディさんが〝今〟自分と釣り合う年齢の女性を求めているなら〝今〟動くしかないんです』
爽やかな風が吹いて、周囲の木々や草花、そして私たちの髪を揺らしていく。
その風を受けたあと、エディさんは空を見上げて息をついた。
彼の表情は、いつになく晴れやかになっていた。
あの眉間の深い皺も、もうなくなっていた。
『やってみる』
こちらを見て穏やかに微笑んだ彼に向かって、私はサムズアップして『グッドラック!』と笑いかけた。
『誰よりも幸せになって、前の奥さんを見返してください』
『分かった。エールに感謝する』
エディさんが手を伸ばし、私に握手を求めてくる。
その手を握り返し、私はニカッと笑った。
握手が終わったあと、エディさんは憑きものが落ちたような表情で笑う。
『ようやく、君の魅力が分かった。あの二人が君に惚れる理由も、きちんと理解した』
『ありがとうございます』
私たち三人の事情は色々複雑で、私一人を評価してくれても、関係の全貌が分かる訳ではない。
それでも、ずっと疑っていたエディさんに認めてもらえたのは、大きな収穫だ。
『さて、アイスも食べ終わったし、そろそろ戻ろうか。あっちの三人も撤収してるんじゃないかな?』
クリスさんが立ち上がって言った時、私は二人がシャーロットさんと一緒に出かけたのを思いだした。
あー。
ゆっくり立ち上がり、ホットパンツのお尻を叩いている私の頭を、エディさんが軽く撫でてくる。
『心配するな』
一言だけだけど、彼が三人の事を言っているのは分かった。
『……ありがとうございます』
そのあとまたバスに乗り、クルーザーが停泊している桟橋まで戻った。
**
私たち三人より先に慎也たちは戻り、売店でコーヒーを飲んでいた。
「早かったんだね」
「あぁ、……まぁ、色々付き合ったけど」
慎也が遠い目をする。
言い切ったあと、私はしゃがんで彼に視線を合わせた。
『何かを得るには、何かを捨てなければなりません。理想の伴侶を求めるのなら、自ら動き、傷付く覚悟を持ってください』
エディさんは青い目で、何か言いたげに私を見てくる。
その隣で、クリスさんが笑いながら拍手をした。
『バシッと言ってくれてありがとう! 今の兄貴には、これぐらい言わないとダメだ。疑い深くなって、以前とは人が変わっているから』
弟の言葉に、エディさんは不機嫌そうに言う。
『……俺は変わってない』
けれどクリスさんはまじめな顔で首を左右に振った。
『変わったよ。以前はもっと社交的で、冗談を言って皆を笑わせる明るさがあった。今はどうだ? 女性が下心なく話しかけてきても、何かあると疑って避けている。慎重になるのと、疑心暗鬼に駆られるのは違うよ』
辛辣に言われ、エディさんは溜め息をついた。
色々大変だったんだなぁ。
私は溜め息をつき、芝生だからいっかと思って地面に座る。
『傷付きたくないですよね。分かります』
今までビシバシ容赦なく言っていたのに、急に優しい雰囲気になったからか、エディさんは神妙な顔をして俯く。
『嫌な事があった直後は自分の殻にこもっちゃうの、分かります。でも、必要以上に殻にこもっちゃうと、殻がどんどん硬くなります。きっかけは〝人に言われたから〟とか、他人のせいにしていいです。〝うるさい日本人に言われたからしょうがなく〟自分を許して、殻を破れませんか? そうしないと、あなたの時間が勿体ないです』
芝生の上で胡座をかき、私はキャップの下から笑いかける。
『一度結婚していたなら、どんな形であっても奥さんを愛していたでしょう。だから裏切りを許せなかった。そして、欺された自分すら許せなくなってしまう。あの時優しくしなければ良かった、あの時疑っていたら……とか、どうにもならない過去ばかりに囚われて、どんどん自分を責めるでしょう?』
『……その通りだな』
エディさんは溜め息をつく。
『もう、自分を許してあげてください。だって過去は変えられません。前に進むんです。いつまでも意地を張ってたら、あっという間にお爺ちゃんになりますよ。お爺ちゃんになっても素敵な出会いがあり、結婚はできるでしょうけど、エディさんが〝今〟自分と釣り合う年齢の女性を求めているなら〝今〟動くしかないんです』
爽やかな風が吹いて、周囲の木々や草花、そして私たちの髪を揺らしていく。
その風を受けたあと、エディさんは空を見上げて息をついた。
彼の表情は、いつになく晴れやかになっていた。
あの眉間の深い皺も、もうなくなっていた。
『やってみる』
こちらを見て穏やかに微笑んだ彼に向かって、私はサムズアップして『グッドラック!』と笑いかけた。
『誰よりも幸せになって、前の奥さんを見返してください』
『分かった。エールに感謝する』
エディさんが手を伸ばし、私に握手を求めてくる。
その手を握り返し、私はニカッと笑った。
握手が終わったあと、エディさんは憑きものが落ちたような表情で笑う。
『ようやく、君の魅力が分かった。あの二人が君に惚れる理由も、きちんと理解した』
『ありがとうございます』
私たち三人の事情は色々複雑で、私一人を評価してくれても、関係の全貌が分かる訳ではない。
それでも、ずっと疑っていたエディさんに認めてもらえたのは、大きな収穫だ。
『さて、アイスも食べ終わったし、そろそろ戻ろうか。あっちの三人も撤収してるんじゃないかな?』
クリスさんが立ち上がって言った時、私は二人がシャーロットさんと一緒に出かけたのを思いだした。
あー。
ゆっくり立ち上がり、ホットパンツのお尻を叩いている私の頭を、エディさんが軽く撫でてくる。
『心配するな』
一言だけだけど、彼が三人の事を言っているのは分かった。
『……ありがとうございます』
そのあとまたバスに乗り、クルーザーが停泊している桟橋まで戻った。
**
私たち三人より先に慎也たちは戻り、売店でコーヒーを飲んでいた。
「早かったんだね」
「あぁ、……まぁ、色々付き合ったけど」
慎也が遠い目をする。
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