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イギリス 編
〝攻撃こそ最大の防御〟
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『……二人してバカって言うなよ。傷つく』
『バカな事を言ってるからじゃないですか。そもそも、相手の都合を考えずに自分の望みを押し通そうって思うの、やめたほうがいいですよ』
『だから俺は条件を……』
あー、もう。
私はベンチからスックと立ち上がり、エディさんに向き直る。
『条件っていうのは、お互いの望みを平等に叶えるためのものです。私はエディさんに何も望んでいません。可能なら、挨拶を交わす以上に関わりたくないぐらいです』
やばい。言ってしまった。
クリスさんがブフーッと噴きだし、エディさんは固まった。
『そもそも、仮に〝条件〟を呑んだら、私に不誠実な行為をさせる事になりますよね? 奥さんの浮気に苦しんだあなたが、自分の私利私欲のために、人の奥さんに浮気させるんですか?』
まだ結婚してないけど、似たようなもんだ。
『……だから、君を性的な目で見ないと……』
『関係そのものがアウトなんです。夫がいるのに、他の男性の〝好きな人〟の役を請け負う? 私が久賀城家の皆さんに挨拶して、複雑な関係を説明して、勝ち得た信頼を無駄にさせようって言うんですか? 友人の家庭に不和を生み付けて、これからも正樹たちと付き合えるんですか?』
詰め寄るように言った私の言葉に、彼はとうとう黙り込んだ。
『あなたが傷付いているのは分かりますし、気の毒だと思います。望んでいないのに、女性に狙われる状況がつらいのも察します』
共感すると、彼は乱暴に息をつく。
『ですが、お言葉ですが、それぐらいの事を解決できずに〝エースロワイヤル〟の次期トップ、アボット家の当主となれるんですか?』
渾身の一撃を叩きつけると、エディさんが完全に固まった。
クリスさんは、「おわぁ……」という目で私たちを見ている。
すんません。
でもぶっちゃけ、言葉の通りだ。
慎也だって正樹だって、自分の問題は自分で解決しようと努力し続けてきた。
自分にくるダメージを〝外注〟して何とかしようなんて、そもそも考えない人だ。
自分の人生が生んだ苦しみなら、その痛みすら自分のものだと笑って言う二人だから、私は愛した。
人の上に立つ人だっていうのに、痛みや苦しみを受け止める覚悟がないなんて、話にならない。
『私が〝エースロワイヤル〟の社員なら、リーダーシップのない役員の下で働きたくありません』
エディさんが表情を強ばらせる。
『女性を弄べなんて言いません。不倫に苦しむ誠実な人だからこそ、苦しんでいるんですよね? それは、あなたの長所だと思います』
少し意見を言うつもりが、結局は遠慮のない言葉になってしまった。
すまん、慎也と正樹。
心の中で彼らに謝り、私は自分が思った事を素直に口にした。
『傷付くのが嫌で守りに回るぐらいなら、いっそ一歩前に出ればいいんです。〝攻撃こそ最大の防御〟ですよ』
『……どういう事だ?』
怪訝な顔をするエディさんに、私は荒療治を提案する。
『積極的に交流して、次の彼女を探してください』
『は?』
『ただし妥協せず、今度こそ自分を裏切らない女性を探すんです。エディさんが〝嫌だ〟と感じる、社会的地位、家、お金目当てと思う女性は、どんっどんふるいに掛けてください。あなたを想う女性が本気なら、ふるいに掛けられても残るはずです』
彼は半ば呆れたような目で私を見ている。
『もうゴシップのネタになっているなら、それを利用するんです。皆あなたについて知っているのは、〝浮気されて離婚した〟というだけ。あなたがもともとどんな性格の男性なのか、本当の人物像を知っている人は付き合いのある人だけでしょう』
『……その通りだ』
『女性を試して〝こんな事をするなんて〟と思われようが気にしないでください。大切な友人はあなたが傷付いて、今度こそ裏切らない女性を求めていると知っているはず。その他の人には、どう思われようが構わなくないですか? すべての人に良く思われようなんて無理なんです』
『……確かに』
エディさんは頷く。
『近づく女性に揺さぶりを掛けて、どんどんリストラしてください。会社の役員なんでしょう? 採用面接に立ち会って、人を見る目を養っているはずです』
少しずつ、エディさんのどんよりと曇った目に光が宿っていく。
『あなたを本気で想っている女性なら、少しぐらいの試練があっても乗り越えられます』
彼は無言で目の前の空間を凝視し、一つ頷く。
『そして試練を乗り越えた相手には、誠実に対応してください。傷付いているのに、人を信じるのは難しいです。また裏切られるかもしれないと思いますよね。でも人に愛されたいと願うなら、自分も愛する覚悟を決めてください。相手を信じて心を晒けだすんです』
彼は金色の睫毛を震わせ、何度か瞬きをした。
『バカな事を言ってるからじゃないですか。そもそも、相手の都合を考えずに自分の望みを押し通そうって思うの、やめたほうがいいですよ』
『だから俺は条件を……』
あー、もう。
私はベンチからスックと立ち上がり、エディさんに向き直る。
『条件っていうのは、お互いの望みを平等に叶えるためのものです。私はエディさんに何も望んでいません。可能なら、挨拶を交わす以上に関わりたくないぐらいです』
やばい。言ってしまった。
クリスさんがブフーッと噴きだし、エディさんは固まった。
『そもそも、仮に〝条件〟を呑んだら、私に不誠実な行為をさせる事になりますよね? 奥さんの浮気に苦しんだあなたが、自分の私利私欲のために、人の奥さんに浮気させるんですか?』
まだ結婚してないけど、似たようなもんだ。
『……だから、君を性的な目で見ないと……』
『関係そのものがアウトなんです。夫がいるのに、他の男性の〝好きな人〟の役を請け負う? 私が久賀城家の皆さんに挨拶して、複雑な関係を説明して、勝ち得た信頼を無駄にさせようって言うんですか? 友人の家庭に不和を生み付けて、これからも正樹たちと付き合えるんですか?』
詰め寄るように言った私の言葉に、彼はとうとう黙り込んだ。
『あなたが傷付いているのは分かりますし、気の毒だと思います。望んでいないのに、女性に狙われる状況がつらいのも察します』
共感すると、彼は乱暴に息をつく。
『ですが、お言葉ですが、それぐらいの事を解決できずに〝エースロワイヤル〟の次期トップ、アボット家の当主となれるんですか?』
渾身の一撃を叩きつけると、エディさんが完全に固まった。
クリスさんは、「おわぁ……」という目で私たちを見ている。
すんません。
でもぶっちゃけ、言葉の通りだ。
慎也だって正樹だって、自分の問題は自分で解決しようと努力し続けてきた。
自分にくるダメージを〝外注〟して何とかしようなんて、そもそも考えない人だ。
自分の人生が生んだ苦しみなら、その痛みすら自分のものだと笑って言う二人だから、私は愛した。
人の上に立つ人だっていうのに、痛みや苦しみを受け止める覚悟がないなんて、話にならない。
『私が〝エースロワイヤル〟の社員なら、リーダーシップのない役員の下で働きたくありません』
エディさんが表情を強ばらせる。
『女性を弄べなんて言いません。不倫に苦しむ誠実な人だからこそ、苦しんでいるんですよね? それは、あなたの長所だと思います』
少し意見を言うつもりが、結局は遠慮のない言葉になってしまった。
すまん、慎也と正樹。
心の中で彼らに謝り、私は自分が思った事を素直に口にした。
『傷付くのが嫌で守りに回るぐらいなら、いっそ一歩前に出ればいいんです。〝攻撃こそ最大の防御〟ですよ』
『……どういう事だ?』
怪訝な顔をするエディさんに、私は荒療治を提案する。
『積極的に交流して、次の彼女を探してください』
『は?』
『ただし妥協せず、今度こそ自分を裏切らない女性を探すんです。エディさんが〝嫌だ〟と感じる、社会的地位、家、お金目当てと思う女性は、どんっどんふるいに掛けてください。あなたを想う女性が本気なら、ふるいに掛けられても残るはずです』
彼は半ば呆れたような目で私を見ている。
『もうゴシップのネタになっているなら、それを利用するんです。皆あなたについて知っているのは、〝浮気されて離婚した〟というだけ。あなたがもともとどんな性格の男性なのか、本当の人物像を知っている人は付き合いのある人だけでしょう』
『……その通りだ』
『女性を試して〝こんな事をするなんて〟と思われようが気にしないでください。大切な友人はあなたが傷付いて、今度こそ裏切らない女性を求めていると知っているはず。その他の人には、どう思われようが構わなくないですか? すべての人に良く思われようなんて無理なんです』
『……確かに』
エディさんは頷く。
『近づく女性に揺さぶりを掛けて、どんどんリストラしてください。会社の役員なんでしょう? 採用面接に立ち会って、人を見る目を養っているはずです』
少しずつ、エディさんのどんよりと曇った目に光が宿っていく。
『あなたを本気で想っている女性なら、少しぐらいの試練があっても乗り越えられます』
彼は無言で目の前の空間を凝視し、一つ頷く。
『そして試練を乗り越えた相手には、誠実に対応してください。傷付いているのに、人を信じるのは難しいです。また裏切られるかもしれないと思いますよね。でも人に愛されたいと願うなら、自分も愛する覚悟を決めてください。相手を信じて心を晒けだすんです』
彼は金色の睫毛を震わせ、何度か瞬きをした。
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