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イギリス 編
ストレス感じてるだろ
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『すっごぉ……』
メインデッキに入るとリビングになっていて、光沢のある木製のテーブルを挟んで白い革張りのソファが向かい合っている。
同じ空間に運転席があって、その横には下り階段から船底へ行ける。
見学させてもらうと、船底にはマスターベッドルームとサブのベッドルームがあり、キッチンにシャワー室もある。
加えて、メインデッキからさらに階段を上がったフライブリッジにもソファがあり、風を受けながら景色が楽しめる。
感心している間に、お弁当や飲み物がテーブルにのせられた。
やがてエンジンが掛かり、ビルさんが運転してクルージングが始まった。
『ビルさん、運転できるんですね? 凄いです!』
私が褒めると、彼は機嫌良さそうに笑う。
『エディもクリスもロティーも船舶免許を持っているぞ。なんなら、正樹と慎也も免許を持っているはずだ』
「マジで!?」
クルッと後ろを向いて二人に言うと、二人はピースして「マジ」と頷く。
「しまったな。優美の〝初モノ〟は頂きたい所存だったのに、うっかりしてた」
「それなー。ビルにクルージング処女あげちゃった」
「ちょっと、その言い方やめて」
呆れてげんなりすると、正樹は悪びれもせず笑う。
クルーザーは快適に進み、私はフライブリッジに上がる事にした。
「結構高いなぁ!」
階段を上がりソファに座ると、風がいい感じに吹き付けてくる。
夏なので暑さはあるけれど、避暑地の湖畔なので割と涼しい。
水平線が見えるほど広い湖の周囲には低い山の稜線が見え、空には雲が浮かんでいる。
視界の隅々までそんな風景が続き、実にのどかだ。
ぼんやりと景色を見ていると、自分が東京であくせく働き、人間関係で悩んでいたのがちっぽけな事に思える。
「気持ちいいなぁ……」
呟いた時、階段を上がってくる足音が聞こえ、慎也が姿を現した。
「横いい?」
「ん」
ソファの隣に腰掛けた慎也は、私の肩を抱いて頬にキスをしてきた。
「大丈夫か?」
「何が?」
「アボットさん達と過ごすようになってから、ストレス感じてるだろ。正樹の恩人だからって遠慮して、いつもの優美らしくない」
「あー」
見抜かれてたか、と苦笑いし、私は軽く首を左右に振る。
「だってすぐ終わる旅行じゃない。ご招待を受けておもてなしを受けていれば、正樹の〝挨拶〟はスムーズに終わる訳だし。今後も仕事相手になる人たち相手に、我が儘言えないよ。まぁ、エディさんにはもの申したい事があるから、必要になればきちんと伝えるけど」
「エディには、優美に近づかないよう釘を刺しておいた。……言う事を聞いてくれたらいいんだけど……」
「気を遣ってくれてありがと」
私が〝らしく〟いられないのも、アボットさん達が気を遣う相手だからだ。
E&Eフーズの仕事では、相手をいい気持ちにさせて気を緩めさせている。
でもプライベートで、夫になる人の友人にまで過剰な精神サービスをするのはおかしい。
けど、フランクに接していい相手でもない。
だから自分がどういうスタンスでいればいいのか心が決まらず、落ち着かないのかもしれない。
「確かに遠慮していていつもの調子は出てない。でも、これから正樹が社長、慎也が副社長になって、私が奥さんになるなら、立場が上の人への接し方を学ばないとな、って思う」
「遠慮する事はないからな? 優美の長所を殺す必要はないんだ」
「ありがと」
少しホッとして、私は彼に寄り添った。
「シャーロットの事でイライラしてるだろ。それにエディについては、あんまり近すぎるなら殴ってやれって思ってるけど」
「あはは! 殴ったらいかんでしょ」
思わず笑ったあと、護身術を使った事を思いだして「やべ」と内心舌を出す。
そしてシャーロットさんに嫉妬している気持ちから、ボソッと慎也の耳元に囁いた。
「ぶっちゃけ、二人の事犯してやりたいぐらい、ムカついてる」
「それは大歓迎」
「アホ」
慎也の背中を叩き、私はケラケラと笑う。
「シャーロットさんに『二人は私のものだから、匂わせでも変な事を言わないでほしい』って言いたいし、エディさんにも『血迷うな』って鉄拳を食らわせたい」
「うん」
自分の本音を話すと、少しスッキリした。
「……でも、やったら駄目だ。相手は浜崎くんみたいな人じゃない。理不尽な嫌がらせもされてないし、まだ何も起こってない。慎重に接するべきなのに、軽率な事をしたら駄目」
「……よく考えてくれてるのは分かった。ありがとう」
慎也はまた、私の頬にキスをする。
メインデッキに入るとリビングになっていて、光沢のある木製のテーブルを挟んで白い革張りのソファが向かい合っている。
同じ空間に運転席があって、その横には下り階段から船底へ行ける。
見学させてもらうと、船底にはマスターベッドルームとサブのベッドルームがあり、キッチンにシャワー室もある。
加えて、メインデッキからさらに階段を上がったフライブリッジにもソファがあり、風を受けながら景色が楽しめる。
感心している間に、お弁当や飲み物がテーブルにのせられた。
やがてエンジンが掛かり、ビルさんが運転してクルージングが始まった。
『ビルさん、運転できるんですね? 凄いです!』
私が褒めると、彼は機嫌良さそうに笑う。
『エディもクリスもロティーも船舶免許を持っているぞ。なんなら、正樹と慎也も免許を持っているはずだ』
「マジで!?」
クルッと後ろを向いて二人に言うと、二人はピースして「マジ」と頷く。
「しまったな。優美の〝初モノ〟は頂きたい所存だったのに、うっかりしてた」
「それなー。ビルにクルージング処女あげちゃった」
「ちょっと、その言い方やめて」
呆れてげんなりすると、正樹は悪びれもせず笑う。
クルーザーは快適に進み、私はフライブリッジに上がる事にした。
「結構高いなぁ!」
階段を上がりソファに座ると、風がいい感じに吹き付けてくる。
夏なので暑さはあるけれど、避暑地の湖畔なので割と涼しい。
水平線が見えるほど広い湖の周囲には低い山の稜線が見え、空には雲が浮かんでいる。
視界の隅々までそんな風景が続き、実にのどかだ。
ぼんやりと景色を見ていると、自分が東京であくせく働き、人間関係で悩んでいたのがちっぽけな事に思える。
「気持ちいいなぁ……」
呟いた時、階段を上がってくる足音が聞こえ、慎也が姿を現した。
「横いい?」
「ん」
ソファの隣に腰掛けた慎也は、私の肩を抱いて頬にキスをしてきた。
「大丈夫か?」
「何が?」
「アボットさん達と過ごすようになってから、ストレス感じてるだろ。正樹の恩人だからって遠慮して、いつもの優美らしくない」
「あー」
見抜かれてたか、と苦笑いし、私は軽く首を左右に振る。
「だってすぐ終わる旅行じゃない。ご招待を受けておもてなしを受けていれば、正樹の〝挨拶〟はスムーズに終わる訳だし。今後も仕事相手になる人たち相手に、我が儘言えないよ。まぁ、エディさんにはもの申したい事があるから、必要になればきちんと伝えるけど」
「エディには、優美に近づかないよう釘を刺しておいた。……言う事を聞いてくれたらいいんだけど……」
「気を遣ってくれてありがと」
私が〝らしく〟いられないのも、アボットさん達が気を遣う相手だからだ。
E&Eフーズの仕事では、相手をいい気持ちにさせて気を緩めさせている。
でもプライベートで、夫になる人の友人にまで過剰な精神サービスをするのはおかしい。
けど、フランクに接していい相手でもない。
だから自分がどういうスタンスでいればいいのか心が決まらず、落ち着かないのかもしれない。
「確かに遠慮していていつもの調子は出てない。でも、これから正樹が社長、慎也が副社長になって、私が奥さんになるなら、立場が上の人への接し方を学ばないとな、って思う」
「遠慮する事はないからな? 優美の長所を殺す必要はないんだ」
「ありがと」
少しホッとして、私は彼に寄り添った。
「シャーロットの事でイライラしてるだろ。それにエディについては、あんまり近すぎるなら殴ってやれって思ってるけど」
「あはは! 殴ったらいかんでしょ」
思わず笑ったあと、護身術を使った事を思いだして「やべ」と内心舌を出す。
そしてシャーロットさんに嫉妬している気持ちから、ボソッと慎也の耳元に囁いた。
「ぶっちゃけ、二人の事犯してやりたいぐらい、ムカついてる」
「それは大歓迎」
「アホ」
慎也の背中を叩き、私はケラケラと笑う。
「シャーロットさんに『二人は私のものだから、匂わせでも変な事を言わないでほしい』って言いたいし、エディさんにも『血迷うな』って鉄拳を食らわせたい」
「うん」
自分の本音を話すと、少しスッキリした。
「……でも、やったら駄目だ。相手は浜崎くんみたいな人じゃない。理不尽な嫌がらせもされてないし、まだ何も起こってない。慎重に接するべきなのに、軽率な事をしたら駄目」
「……よく考えてくれてるのは分かった。ありがとう」
慎也はまた、私の頬にキスをする。
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