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イギリス 編
アホですか!?
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大企業の御曹司で、しかもイギリス貴族で、結婚する時は色んな人が注目したはずだ。
きっと相手の女性も、社会的地位のある人か、芸能人か何かだったんだろう。
そうすれば当事者だけでなく、関係のない人まで巻き込んだゴシップになってしまう。
自分さえ気にしなければいい訳にいかず、街を歩けば色んな人に「ほら、あの人」って言われかねない。
想像しただけで、きっつい。
あー、だからこんなにも傷ついて、トゲトゲしてるのか……と、遅いけれど理解した。
しかも浮気されたなら、女性不信になってもしゃーない。
多少なりとも同情した私は、提案してみた。
『正樹は離婚したあと、仕事ばかりしていたと言っていました。エディさんもしばらく恋愛から距離を置いて、仕事や趣味に専念してみてはどうですか? 傷が癒えた頃にまた考えればいいんです』
エディさんはまた溜め息をついた。
『そう思える環境ならいいが、周りが放ってくれない。俺の妻の座を狙う女性は大勢いる。嫌になるほどデートに誘われるし、パーティーに行けば人に囲まれる。ロンドンの家に一人でいれば、誰かが突撃してくる』
おおぅ……。もうちょっと、そっとしといたげて。
『日本の女性は控えめなんだろう? 正樹と慎也の話では、望む事を察して、エスパーのように動くと聞いた』
『人によりますよ』
『個人差はあるが、俺の知る女性はみんな積極的だ。手を伸ばさないと、望むものを得られないと分かっている』
『でも事情を話せば、遠慮ぐらいしてくれるんじゃないです?』
『話さなかったと思うか?』
ジロリと睨まれ、私は『……ですよね……』と目を逸らす。
行き詰まってるから、こんなにも余裕がないのか。
会社では責任ある立場についているから、長期間休むとかもできなさそうだし。
『じゃあ、落ち着くまで〝恋愛対象は女性じゃない〟って嘘をつくとか』
半分冗談で言った私を、エディさんはカッと目を見開いて見てきた。
『それは……。……いや、アリか? …………いや……』
そしてブツブツ言いながら、深く考える。
けれどすぐに結論を出した。
『駄目だ。LGBTQに属する友人もいるし、そういう事で嘘をつくのは不誠実だ。逆に別の誰かに期待を持たせてしまうかもしれないし、誰かを傷つける可能性もある』
『それはそうですね』
意外と、誠実な人だ。
不意に、エディさんがカッとまた目を見開き、私を凝視してきた。
えっ!?
嫌な予感を抱いていると、とんでもない事を言ってきた。
『二人と付き合っているなら、もう一人増えても問題なくないか?』
『アホですか!?』
ズバッと言ったからか、彼の眉間の皺がさらに深まる。名刺でも挟めそうだ。
『アホはないだろう』
『アホですよ! 二人も三人も同じって、何考えてるんですか。私は二人と真剣に付き合ってるんですが』
『俺に真剣になる必要はない。俺は君を好き、という設定を作るだけだ』
『設定ったって……』
私はハァ~……と大きな溜め息をつき、項垂れて両手で頭を抱える。
アレかな?
まじめで融通の利かない人ほど、アホな事を考えつくと、それにまっすぐになっちゃうというか……。
というか、さっきからアホのオンパレードだ。
『俺の事情を知れば、あいつらだって理解を示してくれるだろう』
『どーーーーでしょうかね。あの二人、すっごい嫉妬深いですから』
私は投げやりになって、脚を組む。
『君を性的には見ない。そもそも、ロンドンと東京では距離がありすぎて、そういう仲にもならない』
『駄目です!』
食い下がられている間、私は会社のお偉いさんが、「名前だけね」と名誉職につく様子を思い浮かべていた。
あーーーー。
私、いい加減、人に頼まれると無下にできないところ、何とかしたほうがいい。
面倒見がいいとかじゃなくて、貧乏くじ引くやつだコレ。
私は何度もポニーテールにした髪をスルンスルンと玩び、唸る。
『反対する理由はどこにある?』
木に身をもたれさせていたエディさんが、ゆっくりこちらに近づいてくる。
『ありまくりじゃないですか』
『だからそれを、一つ目から順番に説明してみろ』
彼は私の目の前に膝をつき、青い目で見つめてくる。
『まず、私は慎也の婚約者で、正樹とも付き合っています』
『知ってる』
きっと相手の女性も、社会的地位のある人か、芸能人か何かだったんだろう。
そうすれば当事者だけでなく、関係のない人まで巻き込んだゴシップになってしまう。
自分さえ気にしなければいい訳にいかず、街を歩けば色んな人に「ほら、あの人」って言われかねない。
想像しただけで、きっつい。
あー、だからこんなにも傷ついて、トゲトゲしてるのか……と、遅いけれど理解した。
しかも浮気されたなら、女性不信になってもしゃーない。
多少なりとも同情した私は、提案してみた。
『正樹は離婚したあと、仕事ばかりしていたと言っていました。エディさんもしばらく恋愛から距離を置いて、仕事や趣味に専念してみてはどうですか? 傷が癒えた頃にまた考えればいいんです』
エディさんはまた溜め息をついた。
『そう思える環境ならいいが、周りが放ってくれない。俺の妻の座を狙う女性は大勢いる。嫌になるほどデートに誘われるし、パーティーに行けば人に囲まれる。ロンドンの家に一人でいれば、誰かが突撃してくる』
おおぅ……。もうちょっと、そっとしといたげて。
『日本の女性は控えめなんだろう? 正樹と慎也の話では、望む事を察して、エスパーのように動くと聞いた』
『人によりますよ』
『個人差はあるが、俺の知る女性はみんな積極的だ。手を伸ばさないと、望むものを得られないと分かっている』
『でも事情を話せば、遠慮ぐらいしてくれるんじゃないです?』
『話さなかったと思うか?』
ジロリと睨まれ、私は『……ですよね……』と目を逸らす。
行き詰まってるから、こんなにも余裕がないのか。
会社では責任ある立場についているから、長期間休むとかもできなさそうだし。
『じゃあ、落ち着くまで〝恋愛対象は女性じゃない〟って嘘をつくとか』
半分冗談で言った私を、エディさんはカッと目を見開いて見てきた。
『それは……。……いや、アリか? …………いや……』
そしてブツブツ言いながら、深く考える。
けれどすぐに結論を出した。
『駄目だ。LGBTQに属する友人もいるし、そういう事で嘘をつくのは不誠実だ。逆に別の誰かに期待を持たせてしまうかもしれないし、誰かを傷つける可能性もある』
『それはそうですね』
意外と、誠実な人だ。
不意に、エディさんがカッとまた目を見開き、私を凝視してきた。
えっ!?
嫌な予感を抱いていると、とんでもない事を言ってきた。
『二人と付き合っているなら、もう一人増えても問題なくないか?』
『アホですか!?』
ズバッと言ったからか、彼の眉間の皺がさらに深まる。名刺でも挟めそうだ。
『アホはないだろう』
『アホですよ! 二人も三人も同じって、何考えてるんですか。私は二人と真剣に付き合ってるんですが』
『俺に真剣になる必要はない。俺は君を好き、という設定を作るだけだ』
『設定ったって……』
私はハァ~……と大きな溜め息をつき、項垂れて両手で頭を抱える。
アレかな?
まじめで融通の利かない人ほど、アホな事を考えつくと、それにまっすぐになっちゃうというか……。
というか、さっきからアホのオンパレードだ。
『俺の事情を知れば、あいつらだって理解を示してくれるだろう』
『どーーーーでしょうかね。あの二人、すっごい嫉妬深いですから』
私は投げやりになって、脚を組む。
『君を性的には見ない。そもそも、ロンドンと東京では距離がありすぎて、そういう仲にもならない』
『駄目です!』
食い下がられている間、私は会社のお偉いさんが、「名前だけね」と名誉職につく様子を思い浮かべていた。
あーーーー。
私、いい加減、人に頼まれると無下にできないところ、何とかしたほうがいい。
面倒見がいいとかじゃなくて、貧乏くじ引くやつだコレ。
私は何度もポニーテールにした髪をスルンスルンと玩び、唸る。
『反対する理由はどこにある?』
木に身をもたれさせていたエディさんが、ゆっくりこちらに近づいてくる。
『ありまくりじゃないですか』
『だからそれを、一つ目から順番に説明してみろ』
彼は私の目の前に膝をつき、青い目で見つめてくる。
『まず、私は慎也の婚約者で、正樹とも付き合っています』
『知ってる』
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