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イギリス 編
自負
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(あの迷路、今日案内してもらえるんだっけ)
前方にはイボタに似た、密生した生け垣がどこまでも続いている。
植物で迷路を作ろうっていう発想が凄いし、それをきちんと管理しているのも凄い。
感心しながら走っていたんだけれど、――前方から〝仲間〟が走ってきた。
「…………」
どちらからともなく走る速度を落とし、私と彼――エディさんは微妙な空気で見つめ合う。
『……おはようございます』
『おはよう』
私と彼の距離は数メートルある。
何かおかしな雰囲気になっても、走って逃げられる距離だ。
『昨日はすみませんでした! 痛くなかったです?』
ひとまず謝ると、彼は意外そうに目を瞠った。
『……いや』
『そうですか、なら良かった』
まず、敵意を露わにするより、友好的な雰囲気で心の距離を近づけたい。
『訓練を受けてるのか?』
『いえ。いざという時のために、友達と一緒に講習を受けました。いつ何があるか分かりませんから』
あ。
言ってしまってから、まるでエディさんが加害者みたいな言い方をしてしまった事に気づき、冷や汗を垂らす。
『あ、えーと、そうじゃなくて。日本は治安がいいって言いますけど、何も犯罪が起こらない訳じゃないっていう意味で』
『分かってる』
エディさんは溜め息をつき、近くにあった木に寄りかかった。
私も小径の反対側にベンチがあったので、そこに座った。
しばし沈黙になり、二人の間を緩い風が吹く。
……き、気まずい……。
でもとりあえず、ぶっちゃけ、という感じで聞いてみよう。
『エディさんは、私が嫌いですか?』
尋ねられ、彼は少し眉を上げる。
そして少し考えてから、意外と誠実な返事をした。
『嫌いになるほど、君の事を知らない』
『確かに!』
『だから、苦手だ』
『私もです』
ズバッと〝苦手〟に同意したからか、彼は「ええ……?」という表情で眉間に皺を寄せる。
だって、仕方ないじゃん。
『君は二人の社会的地位と外見、経済力に惹かれた女性に見える。一人でも玉の輿にのろうとしているように思えるのに、兄弟二人を手玉に取っていると聞いて、とんでもない悪女だと思った』
うん、ストレート。
『逆に聞きます。エディさんはあの二人が、分かりやすく近づいてくる女に気づかない、カだと思いますか?』
そう言われ、彼は瞠目した。
『ご自分の経験から、女性に良い印象を抱いていないのは分かります。気の毒だと思いますし、友達を心配する気持ちは尊いです。ですがあなたが経験から心配しているように、二人だって経験を経て私を選びました。まさか彼らが女性経験ゼロと思わないでしょう? 女性を見る目はあるはずです』
『……そうだな』
『特に正樹は、あなたと同じように離婚して苦い経験を味わっています。〝もう結婚はいい〟と言うほど、傷ついています。……そんな中、彼が私を選んでくれたのは『もう一度信じよう』と思ってくれたからです。それは、私が彼に何か与えられたからだと、自負しています』
私はまっすぐエディさんを見つめ、自分の誇りと二人の名誉のために訴える。
『慎也だって私に魅力と価値を見いだしてくれています。私を侮辱する事は、私を信じた二人への侮辱です。正樹は心配し続けてくれたビルさんに〝もう心配ない〟と報告するために来ました。その気持ちを汲むためにも、どうか私に敵意を向けるのはやめてください』
すべて言ったあと、エディさんが溜め息をついた。
その表情からは、今までのとげとげしい雰囲気が少し抜けている。
『……君の言う通りだ。〝騙されているんじゃないか〟と思ったが、あの二人はそこまでバカじゃないな』
『ご理解頂けて嬉しいです』
エディさんはまた息をついて、頭をポリポリと掻く。
『正樹は君と出会って、離婚のショックから立ち直ったのか?』
『分かりません。私は出会う前の彼の状態を知りません。彼が離婚したのは二年前です。その間にある程度立ち直っていたでしょう。それから私と出会ってどう変わったかは、聞いていないので分かりません』
『……時間が解決したのか』
独りごちるように言った彼は、去年のクリスマス前に離婚したばかりだ。
そりゃ、つらいだろうな。
前方にはイボタに似た、密生した生け垣がどこまでも続いている。
植物で迷路を作ろうっていう発想が凄いし、それをきちんと管理しているのも凄い。
感心しながら走っていたんだけれど、――前方から〝仲間〟が走ってきた。
「…………」
どちらからともなく走る速度を落とし、私と彼――エディさんは微妙な空気で見つめ合う。
『……おはようございます』
『おはよう』
私と彼の距離は数メートルある。
何かおかしな雰囲気になっても、走って逃げられる距離だ。
『昨日はすみませんでした! 痛くなかったです?』
ひとまず謝ると、彼は意外そうに目を瞠った。
『……いや』
『そうですか、なら良かった』
まず、敵意を露わにするより、友好的な雰囲気で心の距離を近づけたい。
『訓練を受けてるのか?』
『いえ。いざという時のために、友達と一緒に講習を受けました。いつ何があるか分かりませんから』
あ。
言ってしまってから、まるでエディさんが加害者みたいな言い方をしてしまった事に気づき、冷や汗を垂らす。
『あ、えーと、そうじゃなくて。日本は治安がいいって言いますけど、何も犯罪が起こらない訳じゃないっていう意味で』
『分かってる』
エディさんは溜め息をつき、近くにあった木に寄りかかった。
私も小径の反対側にベンチがあったので、そこに座った。
しばし沈黙になり、二人の間を緩い風が吹く。
……き、気まずい……。
でもとりあえず、ぶっちゃけ、という感じで聞いてみよう。
『エディさんは、私が嫌いですか?』
尋ねられ、彼は少し眉を上げる。
そして少し考えてから、意外と誠実な返事をした。
『嫌いになるほど、君の事を知らない』
『確かに!』
『だから、苦手だ』
『私もです』
ズバッと〝苦手〟に同意したからか、彼は「ええ……?」という表情で眉間に皺を寄せる。
だって、仕方ないじゃん。
『君は二人の社会的地位と外見、経済力に惹かれた女性に見える。一人でも玉の輿にのろうとしているように思えるのに、兄弟二人を手玉に取っていると聞いて、とんでもない悪女だと思った』
うん、ストレート。
『逆に聞きます。エディさんはあの二人が、分かりやすく近づいてくる女に気づかない、カだと思いますか?』
そう言われ、彼は瞠目した。
『ご自分の経験から、女性に良い印象を抱いていないのは分かります。気の毒だと思いますし、友達を心配する気持ちは尊いです。ですがあなたが経験から心配しているように、二人だって経験を経て私を選びました。まさか彼らが女性経験ゼロと思わないでしょう? 女性を見る目はあるはずです』
『……そうだな』
『特に正樹は、あなたと同じように離婚して苦い経験を味わっています。〝もう結婚はいい〟と言うほど、傷ついています。……そんな中、彼が私を選んでくれたのは『もう一度信じよう』と思ってくれたからです。それは、私が彼に何か与えられたからだと、自負しています』
私はまっすぐエディさんを見つめ、自分の誇りと二人の名誉のために訴える。
『慎也だって私に魅力と価値を見いだしてくれています。私を侮辱する事は、私を信じた二人への侮辱です。正樹は心配し続けてくれたビルさんに〝もう心配ない〟と報告するために来ました。その気持ちを汲むためにも、どうか私に敵意を向けるのはやめてください』
すべて言ったあと、エディさんが溜め息をついた。
その表情からは、今までのとげとげしい雰囲気が少し抜けている。
『……君の言う通りだ。〝騙されているんじゃないか〟と思ったが、あの二人はそこまでバカじゃないな』
『ご理解頂けて嬉しいです』
エディさんはまた息をついて、頭をポリポリと掻く。
『正樹は君と出会って、離婚のショックから立ち直ったのか?』
『分かりません。私は出会う前の彼の状態を知りません。彼が離婚したのは二年前です。その間にある程度立ち直っていたでしょう。それから私と出会ってどう変わったかは、聞いていないので分かりません』
『……時間が解決したのか』
独りごちるように言った彼は、去年のクリスマス前に離婚したばかりだ。
そりゃ、つらいだろうな。
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