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イギリス 編
早朝ジョギング
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結果、プロジェクトは成功し、ビルさんは正樹の恩人になった。
正樹も彼からも気に入られ、人生の悩みなどを話していたそうだ。
やがてエディさんたちにも紹介され、年齢が近いから友達になった。
その時点で慎也はまだ登場していなかった。
正樹とアボット家の交流が深まり、ビルさんに招待されて久賀城家全員でイギリスに行くようになったらしい。
けれど年に一回ぐらいの交流なので、正樹と慎也とでは彼らとの親密度が違う。
「でも今後、正樹も久賀城ホールディングスの重役として、彼らと関わっていくんでしょう? 仲良くしないと」
「それはそうなんだけど」
慎也は軽く息をつき、また私の額に唇をつける。
「……うまくいかないな」
彼は私を抱きしめ、溜め息をつく。
「家族を説得できて、いい気になっていたのかもしれない。優美のご家族にも本当の事は言ってないし、〝世間〟の反応にイライラする」
「仕方ないよ。そういう道を選んだのは私たちだもん」
私は立ち上がり、慎也の頭をギュッと抱きしめた。
「楽しもう? 人生は一回しかない。私たちの関係を渋る人とは、差し支えない程度に距離を取ればいい。心地よく過ごせる人たちと、仲良くすればいいんだから」
「……そうだな」
開き直った私の言葉に、慎也は笑みを零す。
「なんか、慰めようとして逆に慰められちまったな」
「いいのいいの、お互い様。ねぇ、星空がすんごく綺麗だったから、一緒に見ようよ。早く寝なきゃだけど、慎也と一緒に見ておきたい」
「ん」
そう言うと、彼はご機嫌になり私の手を握ってきた。
ライオンの像を確認したあと、一緒に外に出て散歩する。
「正樹は?」
「リビングでビルさんと話してるよ」
「そっか」
「独り占め」
慎也はそう言って笑うと、私の手を引き寄せてキスをしてきた。
「……ふふ。なんか、いつにも増してキスが多いね?」
「正樹の居ぬ間に……。あとは、日本だとここまでチュッチュできないからかな。ちょっと開放感に浸っているのはある」
「確かに。日本とこっちとでは、距離感が違うもんね」
話しながら慎也と身を寄せ合い、美しい星空を見上げる。
「いい思い出を作ろう」
「うん」
澄み渡った空気を吸い、先ほど外にいた時よりずっと気持ちが温かくなった私は、にっこりと微笑んだ。
**
翌日の早朝、ワクワクで目が覚めてしまったので、私は敷地内でジョギングした。
東京でも二人と一緒に走ってるけど、今は旅先だし疲れているかもと思って誘うのをやめておいた。
こんな事もあろうかと、荷物にはジョギングパンツやスポブラなども入っていた。
ロンドンでは二人が仕事をしている間、護衛さんに付き合ってもらって走った。
洗濯はホテルのランドリーで頼み、本当に手間の掛からない旅をさせてもらっている。
髪をポニーテールにし、いつものジョギングシューズで軽快に敷地内を走る。
イギリスは一年中シトシトした雨が降る気候なので、朝は靄が掛かっている事が多いみたいだ。
お城の周りも森が多いから、周囲の景色全体が霞がかっていて幻想的だ。
音楽でも聴けたら快適かもしれないけど、普段からイヤフォン等をして歩かないようにしている。
とても便利だし音楽を聴けると気持ちがアガるけれど、夜や人気のない所では防犯上よろしくない。
世間では、イヤフォンをしている女性を狙った犯行があるのは事実だ。
それとは別に交通事故の引き金にもなりやすい。
音楽は好きだけど、家でゆっくり聞くと決めているので、特に不便はしていなかった。
それに今は滅多に来られない海外に来ているので、早朝に囀る小鳥の声などを楽しみながら走っていた。
知らない土地だけど、これだけ目立つ大きなお城があるなら迷子にならないだろうと思い、適当に走る。
と言っても、門より向こうに行くと延々と続く道路だし、それを進んでしまうとキリがなくなる。
なので門の中を数周、グルグル回るつもりだった。
それなら慎也と正樹に「危ない」と怒られる事もない。
玄関からまっすぐ門まで向かい、そこから続いている小径沿いに走っていく。
朝の少し冷えた空気が気持ちよく、私は軽快に足を運んでいった。
やがて城の横手にさしかかり、裏庭ゾーンに入る。
正樹も彼からも気に入られ、人生の悩みなどを話していたそうだ。
やがてエディさんたちにも紹介され、年齢が近いから友達になった。
その時点で慎也はまだ登場していなかった。
正樹とアボット家の交流が深まり、ビルさんに招待されて久賀城家全員でイギリスに行くようになったらしい。
けれど年に一回ぐらいの交流なので、正樹と慎也とでは彼らとの親密度が違う。
「でも今後、正樹も久賀城ホールディングスの重役として、彼らと関わっていくんでしょう? 仲良くしないと」
「それはそうなんだけど」
慎也は軽く息をつき、また私の額に唇をつける。
「……うまくいかないな」
彼は私を抱きしめ、溜め息をつく。
「家族を説得できて、いい気になっていたのかもしれない。優美のご家族にも本当の事は言ってないし、〝世間〟の反応にイライラする」
「仕方ないよ。そういう道を選んだのは私たちだもん」
私は立ち上がり、慎也の頭をギュッと抱きしめた。
「楽しもう? 人生は一回しかない。私たちの関係を渋る人とは、差し支えない程度に距離を取ればいい。心地よく過ごせる人たちと、仲良くすればいいんだから」
「……そうだな」
開き直った私の言葉に、慎也は笑みを零す。
「なんか、慰めようとして逆に慰められちまったな」
「いいのいいの、お互い様。ねぇ、星空がすんごく綺麗だったから、一緒に見ようよ。早く寝なきゃだけど、慎也と一緒に見ておきたい」
「ん」
そう言うと、彼はご機嫌になり私の手を握ってきた。
ライオンの像を確認したあと、一緒に外に出て散歩する。
「正樹は?」
「リビングでビルさんと話してるよ」
「そっか」
「独り占め」
慎也はそう言って笑うと、私の手を引き寄せてキスをしてきた。
「……ふふ。なんか、いつにも増してキスが多いね?」
「正樹の居ぬ間に……。あとは、日本だとここまでチュッチュできないからかな。ちょっと開放感に浸っているのはある」
「確かに。日本とこっちとでは、距離感が違うもんね」
話しながら慎也と身を寄せ合い、美しい星空を見上げる。
「いい思い出を作ろう」
「うん」
澄み渡った空気を吸い、先ほど外にいた時よりずっと気持ちが温かくなった私は、にっこりと微笑んだ。
**
翌日の早朝、ワクワクで目が覚めてしまったので、私は敷地内でジョギングした。
東京でも二人と一緒に走ってるけど、今は旅先だし疲れているかもと思って誘うのをやめておいた。
こんな事もあろうかと、荷物にはジョギングパンツやスポブラなども入っていた。
ロンドンでは二人が仕事をしている間、護衛さんに付き合ってもらって走った。
洗濯はホテルのランドリーで頼み、本当に手間の掛からない旅をさせてもらっている。
髪をポニーテールにし、いつものジョギングシューズで軽快に敷地内を走る。
イギリスは一年中シトシトした雨が降る気候なので、朝は靄が掛かっている事が多いみたいだ。
お城の周りも森が多いから、周囲の景色全体が霞がかっていて幻想的だ。
音楽でも聴けたら快適かもしれないけど、普段からイヤフォン等をして歩かないようにしている。
とても便利だし音楽を聴けると気持ちがアガるけれど、夜や人気のない所では防犯上よろしくない。
世間では、イヤフォンをしている女性を狙った犯行があるのは事実だ。
それとは別に交通事故の引き金にもなりやすい。
音楽は好きだけど、家でゆっくり聞くと決めているので、特に不便はしていなかった。
それに今は滅多に来られない海外に来ているので、早朝に囀る小鳥の声などを楽しみながら走っていた。
知らない土地だけど、これだけ目立つ大きなお城があるなら迷子にならないだろうと思い、適当に走る。
と言っても、門より向こうに行くと延々と続く道路だし、それを進んでしまうとキリがなくなる。
なので門の中を数周、グルグル回るつもりだった。
それなら慎也と正樹に「危ない」と怒られる事もない。
玄関からまっすぐ門まで向かい、そこから続いている小径沿いに走っていく。
朝の少し冷えた空気が気持ちよく、私は軽快に足を運んでいった。
やがて城の横手にさしかかり、裏庭ゾーンに入る。
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