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イギリス 編

そういうトコが好きなんだけどさ

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『外で優美と話していたのか?』

『偶然だ』

『言っておくけど、彼女は俺の婚約者だ。友達であろうと、〝万が一〟があったら困る。それは肝に銘じておいてくれ』

『お前の婚約者、手が早いな』

 ちょ……っ。
 あの……。

 エディさんは「喧嘩っ早い」の意味で言いたかったんだろうけど、わざと異性に対する「手が早い」の意味でfastを使ってきた。

 チラッと慎也が私を見てきたもんだから、私は両手を胸の前でブンブンと振る。

 通じてくれ。

 祈ったのが通じたのか、慎也はまたエディさんを見て軽く息をつく。

『頼むから友達でいさせてくれ』

 あくまで紳士的な態度を取る慎也を見て、エディさんは「挑発に乗らないか」という様子で肩をすくめた。
そして『おやすみ』と私たちの前を通り過ぎ、階段を上がっていった。

「はぁ……」

 慎也は溜め息をつき、髪を掻き上げる。

「ちょっと意地悪だろ? イギリス人って皮肉の文化もあるから、イギリス人VS京都人なんて事も言われるみたいだ」

「あはは……」

 一気に疲れて、私はまた玄関ホールのソファに座る。

「……優美」

 慎也も隣に座り、私の手を握ってきた。

 しばらく彼は黙り、手を繋いだまま、私の手の甲や指の輪郭をたどってくる。
 黙っていたら部屋に戻れないと思い、全部は白状しないけど、少しだけ打ち明けた。

「多分、まだ信じてもらえていないんだと思う」

「……ん」

「エディさんが良くない形で離婚した事もあって、私を信じていないみたい。本当に二人を心から愛しているのか、疑われてるのも無理はない。私は初対面だから、信用がないのは分かる。財産目当てとか、そう思われてもある程度仕方がない」

「仕方なくないだろ。ただの侮辱だ」

 慎也は私の手をギュッと握り、怒りを押し殺した声で言ったあと乱暴に息をつく。
 そんな彼を、私は慰めた。

「仲良くやろうよ。私は今回の滞在でエディさんを納得させてみせる。誠意を見せたら、何とかなる気がする」

 前向きに言ったけれど、慎也は乗り気じゃなさそうだ。

「傷ついて疑い深くなっている人間って、そう簡単に懐柔できないぞ。五十嵐で痛い目見ただろ」

「でも、いつまでも傷ついたままじゃ、前に進めないじゃない」

 彼はまた溜め息をつく。

「優美はお人好しすぎる。出会う人間一人一人、世話を焼くつもりか?」

「そういう言い方しなくたっていいじゃん。……なんか、拾ったペットに怒るお母さんみたい」

 雰囲気を和ませたくて冗談をねじ込むと、慎也がブフッと笑った。
 彼は真剣に話していた手前、素直に笑えなかったらしく、横を向いてゲホッ、ゲホッと咳払いして誤魔化している。

 ……素直じゃないな。

「そりゃあ、出会う人全員の面倒を見るつもりはないけど、私がいる時ぐらいは笑っててほしい。友達の友達ぐらいまでは、ハッピーでいてほしいなって思う訳。無理はしないから」

「まったく……」

 慎也は息をつき、私を見つめて頭を撫でてくる。

「そういうトコが好きなんだけどさ」

 仕方ないな、という表情をして、慎也は顔を傾けるとチュッとキスをしてきた。

「でしょー」

 にっこり笑うと、彼は「お?」という顔になり、ようやく笑顔を見せてくれた。

「すっかり俺たちに愛される自信ができて、何よりだ」

「ちょっとアレだけど、『ひょっとして私、慎也たちに愛されるためにダイエット頑張って成功したんじゃ……?』って最近思ってる」

「ははっ、違いない」

 彼は屈託なく笑い、私の肩を抱き寄せた。

「……好きだよ」

 耳元で囁き、慎也は私のこめかみに唇をつけてくる。

「うん」

 彼の気持ちを嬉しく思い、私は体を寄せる。

「……今回、正樹の出張と用事、優美の誕生日を祝う目的でこっちに来た。俺は正樹ほどアボットさん達と関わりがないから、あいつよりドライに接する事ができるんだろうな」

 正樹は仕事の関係でビルさんと知り合い、事業の協力をしてもらった。

 彼が副社長に就任して、初の大きなプロジェクトだったらしい。

 見守る係の、年上の重役もいたそうだけれど、正樹はプロジェクトがうまくいけば、若輩者が副社長になったのを、周囲に認めてもらえると意気込んでいた。
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