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イギリス 編
僕が横恋慕しちゃったの
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『あはっ、ホント? ありがとう! 光栄だな。でも僕は運命の相手を見つけたからごめんね!』
『そのようね』
どっしり構えていいはずなのに、私はドギマギしながら二人の会話を聞く。
二人が会話をしている間、私の向かいに座っていたエディさんが話しかけてきた。
『優美は二人とどうやって出会ったんだ?』
「むぷんっ」
とっさにハプバーでの事、翌日にマンションでエッチしていた時に正樹が乱入してきたのを思いだし、鼻からスコーンを出しそうになる。
『あー、スコーンは口の水分持ってくから、気をつけて』
クリスさんが私を慰めてくれた。
『は、はい……』
紅茶を飲んで息をつくまでの間、私は凄まじい勢いで思考を巡らせた。
そしてそつのない返事をしておく。
『慎也とは会社が一緒でした。彼は今こそ久賀城ホールディングスで働いていますが、もともとは私が務めていた食品会社の後輩だったんです』
『へぇ? 慎也、武者修行でもしてたの?』
クリスさんが慎也に尋ね、彼は苦笑いする。
『まぁ……、ワケアリだよ。それより前に優美と出会っていて、彼女と同じ職場で働きたかったんだ。ちょっと執念だったかな。どれだけアプローチしても届かなかったけど、今は想いを通じ合わせてる』
『ロマンチックじゃん』
どんな想像をしていたのか分からないけれど、エディさんが見直したように頷く。
『でも、正樹とは?』
少し遠慮がちに、けれど興味を隠せないという様子でさらに尋ねられる。
えぇと……。
先ほど必死になって考えたけど、いい回答が出た訳ではない。
へたな言い訳をすると、正樹に迷惑が掛かってしまうかもしれない。
と、その時、正樹が口を開いた。
『僕が横恋慕しちゃったの』
横恋慕とな!
思わず心の中で突っ込んだけど、ひとまずここは正樹に任せよう。
『離婚して僕は荒れてた。あまりにも腹が立つ女だったから、しばらくクサクサして、もう女なんていいやって思ってたんだ』
あっけらかんとした正樹の言葉を、アボットさん一家は真剣に聞いている。
『慎也はずっと先輩である優美ちゃんに片思いしてた。そんな中、たまたま二人のデート現場に出くわしてしまった。……で、一目惚れしちゃったんだ』
正樹は明るい様子で話し、皆が自然と彼に意識を奪われている。
『それで、慎也のいない時に、僕が強引に奪ってしまった』
「えぇっ!?」
正樹が悪人になってしまう設定に、私は思わず声を上げた。
皆が私を見たけど、正樹が「んン!」と咳払いをして注意を引く。
『慎也はすっごい怒ったけど、僕は優美ちゃんしかいないって思った。兄弟二人して運命を感じたんだ。優美ちゃんは優しい子だから、〝付き合えないなら死ぬ〟って言った僕に同情して、受け入れるって言ってくれたんだ』
あぁ、もう!
正樹が悪者パターンのやつじゃん!
バカだなもー!
私は溜め息をつきながら、彼はこういう奴なんだと思い知る。
いつもニコニコ、笑顔でふざけながら、一番の悪路を進む〝お兄ちゃん〟だ。
責任のある立場、年上だからと言って、率先して傷つこうとする。
しかも、それをあとから「褒めてほしい」なんて言わない。
ふざけて「ご褒美ちょうだい」は言うけれど、放っておけば「僕はこれでいいよ」と笑ってごまかしてしまうタイプだ。
きっと今まで、家族を守るためにずっとこうしてきたに違いない。
だからといって、恩人の前でまで泥をかぶらなくていいのに。
ビルさんはビジネス相手でもあるから、もし彼に悪い印象を与えてしまったら仕事に影響があるかもしれない。
けれど正樹がこう言ってしまった以上、もう取り返しがつかない。
『それで慎也はOKしたのか?』
クリスさんに尋ねられ、彼は『そうだよ』と頷く。
少しの間沈黙が落ち、誰からともなく溜め息をつく。
『何て言うか……、全員心が広いな?』
エディさんが呆れたように言い、溜め息をつく。
『俺は自分の事をかなり寛容な男と思っていたが、世の中まだまだ分からない世界があるようだ』
『それって褒めてる?』
正樹が明るく言い、彼は肩をすくめた。
『バカにはしていない。ただ、自分には考えられない世界だから、戸惑いと同時に感心しているんだ』
す、……すみません。
私は気まずさを誤魔化すために、紅茶を口にする。
『まぁ、本人たちがいいんなら、それでいいじゃないか』
ビルさんが言い、大らかに笑う。
『そのようね』
どっしり構えていいはずなのに、私はドギマギしながら二人の会話を聞く。
二人が会話をしている間、私の向かいに座っていたエディさんが話しかけてきた。
『優美は二人とどうやって出会ったんだ?』
「むぷんっ」
とっさにハプバーでの事、翌日にマンションでエッチしていた時に正樹が乱入してきたのを思いだし、鼻からスコーンを出しそうになる。
『あー、スコーンは口の水分持ってくから、気をつけて』
クリスさんが私を慰めてくれた。
『は、はい……』
紅茶を飲んで息をつくまでの間、私は凄まじい勢いで思考を巡らせた。
そしてそつのない返事をしておく。
『慎也とは会社が一緒でした。彼は今こそ久賀城ホールディングスで働いていますが、もともとは私が務めていた食品会社の後輩だったんです』
『へぇ? 慎也、武者修行でもしてたの?』
クリスさんが慎也に尋ね、彼は苦笑いする。
『まぁ……、ワケアリだよ。それより前に優美と出会っていて、彼女と同じ職場で働きたかったんだ。ちょっと執念だったかな。どれだけアプローチしても届かなかったけど、今は想いを通じ合わせてる』
『ロマンチックじゃん』
どんな想像をしていたのか分からないけれど、エディさんが見直したように頷く。
『でも、正樹とは?』
少し遠慮がちに、けれど興味を隠せないという様子でさらに尋ねられる。
えぇと……。
先ほど必死になって考えたけど、いい回答が出た訳ではない。
へたな言い訳をすると、正樹に迷惑が掛かってしまうかもしれない。
と、その時、正樹が口を開いた。
『僕が横恋慕しちゃったの』
横恋慕とな!
思わず心の中で突っ込んだけど、ひとまずここは正樹に任せよう。
『離婚して僕は荒れてた。あまりにも腹が立つ女だったから、しばらくクサクサして、もう女なんていいやって思ってたんだ』
あっけらかんとした正樹の言葉を、アボットさん一家は真剣に聞いている。
『慎也はずっと先輩である優美ちゃんに片思いしてた。そんな中、たまたま二人のデート現場に出くわしてしまった。……で、一目惚れしちゃったんだ』
正樹は明るい様子で話し、皆が自然と彼に意識を奪われている。
『それで、慎也のいない時に、僕が強引に奪ってしまった』
「えぇっ!?」
正樹が悪人になってしまう設定に、私は思わず声を上げた。
皆が私を見たけど、正樹が「んン!」と咳払いをして注意を引く。
『慎也はすっごい怒ったけど、僕は優美ちゃんしかいないって思った。兄弟二人して運命を感じたんだ。優美ちゃんは優しい子だから、〝付き合えないなら死ぬ〟って言った僕に同情して、受け入れるって言ってくれたんだ』
あぁ、もう!
正樹が悪者パターンのやつじゃん!
バカだなもー!
私は溜め息をつきながら、彼はこういう奴なんだと思い知る。
いつもニコニコ、笑顔でふざけながら、一番の悪路を進む〝お兄ちゃん〟だ。
責任のある立場、年上だからと言って、率先して傷つこうとする。
しかも、それをあとから「褒めてほしい」なんて言わない。
ふざけて「ご褒美ちょうだい」は言うけれど、放っておけば「僕はこれでいいよ」と笑ってごまかしてしまうタイプだ。
きっと今まで、家族を守るためにずっとこうしてきたに違いない。
だからといって、恩人の前でまで泥をかぶらなくていいのに。
ビルさんはビジネス相手でもあるから、もし彼に悪い印象を与えてしまったら仕事に影響があるかもしれない。
けれど正樹がこう言ってしまった以上、もう取り返しがつかない。
『それで慎也はOKしたのか?』
クリスさんに尋ねられ、彼は『そうだよ』と頷く。
少しの間沈黙が落ち、誰からともなく溜め息をつく。
『何て言うか……、全員心が広いな?』
エディさんが呆れたように言い、溜め息をつく。
『俺は自分の事をかなり寛容な男と思っていたが、世の中まだまだ分からない世界があるようだ』
『それって褒めてる?』
正樹が明るく言い、彼は肩をすくめた。
『バカにはしていない。ただ、自分には考えられない世界だから、戸惑いと同時に感心しているんだ』
す、……すみません。
私は気まずさを誤魔化すために、紅茶を口にする。
『まぁ、本人たちがいいんなら、それでいいじゃないか』
ビルさんが言い、大らかに笑う。
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