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イギリス 編

今のあなたとなら、〝アリ〟と答えたかもしれないわね

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 ……というか、今まで話題に出てなかったんだけど、お兄さんのエディさん、三十五歳って言ってたけど、結婚してないのかな。

 彼は左手の薬指に、指輪をしていなかった。
 弟のクリスさんも、三十二歳ったら結婚してておかしくないし……。

 と思いながらも、失礼なので聞けていない。

 ――と、正樹が突然ぶっ込んできた。

『そういえば、エディってまだ結婚してた? 前に会った時、離婚秒読みって言ってなかった?』

 ほんっっ……とうに、こいつはストレートだなぁ!

 ヒヤッとしたけれど、正樹のこういう性格を熟知しているのか、アボットさん一家の雰囲気が悪くなる事はなかった。
 エディさんは紅茶を一口飲み、淡々と答える。

『去年のクリスマス前に離婚したよ。彼女の浮気が理由だから、せいせいしたけど』

 エディさんはサラッと毒を含んだ言い方をする。

 今まで世間話しかしてなかったけど、結構……いい性格をしているかもしれない。

 シャーロットさんそっくりの、金髪碧眼の整った顔立ちの美青年だけど、今は冷気すら発していそうな雰囲気だ。
 ……美形が怒ると怖い。

 ……っていうか、そうか。浮気されたのか。

 貴族でセレブ、イケメンなのに浮気されるなら、打つ手がなかったかもしれない。

 ……いや、離婚されるほど性格が悪いとか?
 ……いやいや。突っ込んだ事は考えないようにしておこう。

 私は澄ました顔でお茶を飲み、皆の話を聞いている。

『僕のほうが離婚の先輩だね!』

 こら、正樹。威張るな。

『クリスはそろそろ結婚なんだっけ?』

 慎也に尋ねられ、彼がげんなりとした様子で頷く。

『そう。だから兄貴の離婚話とか聞きたくない訳』

 気の毒に……。

 結婚秒読みなのに、家には離婚したてで絶対零度のオーラを発している兄がいたら、やりづらいだろうなぁ。

『そういえばロティーって正樹と結婚どうか、って祖父様に言われてたんだろ?』

 クリスさんが言い、私は笑顔のまま固まる。
 シャーロットさんって、ご家族にはロティーって愛称で呼ばれてるのか。愛称まで可愛いやないかい。

『あー……』

 正樹は苦笑いし、シャーロットさんも困ったような顔をしている。
 やがて彼女が答えた。

『お祖父様に〝正樹と結婚する気はあるか?〟と聞かれたわ。でもその時は私は二十五歳だったし、仕事が楽しくてまだ考えられなかったのよね』

 私と彼女は同い年だ。

 確かに二十五歳で結婚って言われたら、相当好きなでない限り「ちょっと早いんじゃ……」と思ったかもしれない。
 早すぎはしないけれど、「もうちょっと遊びたいかな?」は思ったかもしれない。

 その結果、〝お一人様〟を経て二人に出会えたから、私はいいんだけど。

 二十五歳に周りから勧められた関係であっても、〝きっかけ〟から大きく人生が変わったかもしれない。
 ……とはいえ、シャーロットさんが縁談を断ったお陰で、二人と結婚しようと思えているんだけど。

 つくづく、人生はどこで誰の運命と交差しているか分からないものだ。

『当時、正樹の事は今ほど知らなかったわね。お祖父様が〝日本の若い友人〟と会っていたのは知っていたけど、意気投合して深く知り合うほどではなかったもの。何度か食事をしたけど、第一印象は〝ちょっと暗そうな人〟って思った覚えがあるわ』

「ぶふっ」

「むふんっ」

 シャーロットさんの言葉を聞き、慎也と私は思わず噴きだす。

 正樹が物言いたげな目をしている。
 いや、すまん。だって暗そうな人って……。

 正樹は溜め息をついたあと、息をついて笑って肯定する。

『まー、当時の僕は確かに暗かったね。元妻と離婚した直後だったと思うし。今は解放されて毎日楽しいし、優美ちゃんがいてルンルンだよ』

『確かに、今のあなたはとてもハッピーそうだわ』

『ありがと』

 正樹はニコッと笑い、ストレートティーを飲む。
 そんな彼を見て、シャーロットさんはにっこり微笑んだ。

 そして爆弾を投下した。

『今のあなたとなら、〝アリ〟と答えたかもしれないわね』

 んンっ。

 私はミルクティーに噎せかけ、小さく咳払いをする。
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